バカンスじゃない海外勤務

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4月下旬ということもあり新入社員で初任給を手にされた方々も少なくないだろう。私自身は3月19日にサウジアラビアに赴任し、給与計算上は昨日がサウジに赴任して初めての給料日であった。

日系企業で海外赴任をする場合、海外赴任手当や海外環境手当(俗に言う危険地手当)というものがつくため国内勤務よりも給与水準は高くなる。私の場合、サウジアラビアという特殊な国という事情もありかなりの高待遇となる。具体的な数字を明かすことはできないが、私の場合海外勤務者への一律加算と手当の合算額の方が本給を上回ってしまっている。つまり、単純に考えると月給が倍以上になっているということである。

加えて出向先企業のコミュニティに住んでいることから、住居および光熱水費、医療費、社会保険料については自己負担が一切発生しない。給与明細を見ると、日本の住民税(住民税は居住実績に応じて翌年度に賦課される)、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が差し引かれているだけで、所得税(日本国内で所得を得ていないため)は発生していない。給料が上がったけど、源泉徴収は減ったというわけである。通勤用に1人1台車があてがわれ(ガソリン台は無料)、日本食レストランはあるし、ジムや日本語書籍を置いた図書館を無料で使うこともできると福利厚生も充実している。

社運をかけたプロジェクトということもあり、会社側は最高のバックアップ体制を構築していると言えるけど、これは裏を返すとそこまでのインセンティブを与えなければサウジという国に行きたがる人は少ないということであろう。私の場合、そもそもサウジのプロジェクトに携わりたくて会社に入っているから、給与面も福利厚生面も「充実しすぎている」というのが率直な感想であるし、このモデルが未来永劫続けられるとは思っていない。

先日、人事という業務の関係上、1ヶ月に1人あたりどれだけの労務費がかかっているかという数字を知る機会に恵まれた。当然自分にどれだけのコストがかかっているかという点も知ることができたのであるが、実に巨額のコストがかけられていることがはっきりとわかった。この数字を見てしまうと、自分がそのコストに見合ったパフォーマンスを挙げられているだろうかと問いたくなる。

今の私はやりたい仕事をやれるという幸運に恵まれた。しかし、その「やりたい仕事」できちんとパフォーマンスを出せているかというとまだまだだと思う。”Try & Error”という考え方で仕事をしているけれども、主要業務で1ヶ月間に3回失敗してしまうと私にかけられているコストと同じくらいの損失が発生してしまう。人間だから失敗はつきものだけど、1回の失敗が高くつくという点は十分意識した上で仕事をしなければならないのだと思う。

サウジアラビアのタクシーは日本のタクシーと比べてサービスのレベルもモラルも低い。なかなか時間通りに配車されることはないし、ガソリン切れになって慌ててガソリンスタンドに行ったり、運転手は平気で交通違反したりする。シートベルトを占めていなかったり、制限速度の40kmオーバー(制限速度100km/hの道を140km/h)で走るなど日常茶飯事だ。

しかしよくよく考えてみると彼らに支払っている運賃は著しく安い。2時間ほどかけて150km先(東京から草津温泉くらいの距離)のジェッダまで行っても片道たったの300SAR(8,400円程度)である。安い運賃の背景には低価格のガソリン(0.46SAR/L=12.8円/L)があるのはもちろんだが、運転手への賃金が極めて安いという事情もあるだろう。運賃が安ければサービスもモラルも低いのはある程度仕方がないだろう。

翻って我々日系企業の社員は日本国内以上の高待遇で雇われている。高待遇を得ている以上、日本国内で期待されている以上のパフォーマンスをあげなくてはならないはずだ。あれこれと言い訳をつけてパフォーマンスの水準を下げることは許されない。しかし残念ながら、海外赴任者の中には心得違いをしている人が出てきてしまうのが現実である。我々が海外拠点にいるのはバカンスのためではなく海外プロジェクトのためである。この点を忘れてはならない。

三谷幸喜の『王様のレストラン』の第1回でこんなセリフが出てくる。かつて勤めていた高級フランス料理店のあまりの没落ぶりに驚いた伝説のギャルソン(演・松本幸四郎)が店を評してこう言うのである。

ここはフランス料理店のふりをした薄汚れた学生食堂です。それならそれでいい。だったら金額を半分にするべきです。

どのような職位であれ雇用形態であれ働く人というのは、常に自分の労働力に支払われている対価とパフォーマンスというものを意識して仕事をするべきであろう。自分に支払われている対価が分不相応であってはならないのだ。