「支援措置」制度とは,法律制度ではなく,国が発している通達に基づく措置のことです。自分は配偶者から暴力を受けたなどの被害を警察等に相談し,警察等が「真実と思われる」という意見を付した書面を役所に提出して,「自分の住所を配偶者に知られたくない」として支援措置の申し出をすれば,役所による「支援措置」決定が出されます。

 

 

 

 

 

 

 

そうすると,「支援措置」の対象となった方は,子の現在の住所地を知りたいと考えて,子の戸籍の附票の写しの交付請求を行っても,「支援措置の対象者」であるとして交付がされないのです。

 

 

 

 

 

 

 

ただ,この「支援措置」は濫用がされていると指摘がされています。例えば,現在の離婚後単独親権制度の下で,離婚後の子の親権者になることを希望する親が,子を連れ去り,上でお話した「支援措置」が行われると,子を連れ去られた他方配偶者は,子の現住所自体を調べる手段がなくなるのです。暴力を受けていないのに,暴力を受けたと述べて「支援措置」を受ける例があるのではないか,との指摘もされています。

 

 

 

 

 

 

 

この「支援措置」制度は,そもそも法律制度(住民基本台帳法)に適合していないのではないか。その意味で「支援措置」に基づく不交付処分は違法ではないか,との指摘がされており,訴訟も提起されていますが,これまでの裁判例では,特に被告が行政で,行政の処分を違法と判示した例はほとんどありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

そのような中,私が担当させていただいている,被告が行政の支援措置訴訟(支援措置に基づく不交付処分の適法性が争点となった訴訟)について,高等裁判所において,行政の処分を違法と判示した判決が出されました。支援措置に基づく行政処分を真正面から違法と判示した判決は,非常に珍しいものです。さらに言えば,高等裁判所でそのような内容の判決が出されたのは,おそらく初めてではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

プライバシー情報の問題がありますので,具体的な事案や事件名などはご紹介しませんが,いつか,事案なども抽象化されて,判例データベースなどに掲載していただく日が来るといいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

私個人としては,支援措置制度は通達に基づく制度であり,住民基本台帳法上認められている住民の権利を法律制度よりも大幅に制限してしまう点で,違法ではないかと思っていました。

 

 

 

 

 

 

 

さらに支援措置制度は,離婚後単独親権制度をベースにした通達であり,2026年から施行予定の離婚後共同親権に不適合ではないか,と思っていました。改正民法は,離婚後共同親権を規定した上で,親権は親の権利ではなく,親の子に対する養育責任であることを明確にしているのですから,支援措置制度が,一方親の子に対する養育責任を果たすことを妨害している結果となっているからです。

 

 

 

 

 

 

 

付言すると,支援措置制度は,子の側からすると,他方親と突然引き離され,その親が子の現住所を調べること自体ができなくなるという親子分断を強いる制度であり,「チルドレン・ファースト」の視点からも見直しが必要であると考えています。

 

 

 

 

 

 

 

今回出された判決は,令和6年5月17日に国会で成立した「離婚後共同親権」を含む改正民法の成立後に出されたものであり,さらに言えば,その改正民法の施行をまじかに控えた今出されたものです。その点で私は,「離婚後共同親権」制度の導入が,裁判所の「支援措置」制度の解釈にも影響を与えたと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

この裁判は,行政を被告として,1人の市民が原告となり,私と原告の二人三脚で行ってきたものです。たった1人の市民でも,裁判所に訴訟を申し立てて,論理と証拠を積み重ねれば,国を変えることができるのです。それが「法の支配」です。

 

 

 

 

 

 

 

その意味において今回の判決は,「法の支配」の理念そのものが発現したものであると感じています。