私が共同代理人を務めさせていただいている子の連れ去り違憲訴訟(東京地裁)について,令和3年3月10日に期日が行われました。訴訟の詳細は以下の訴訟HPをご覧ください。
当日は,多くの方が傍聴に来てくださり,この問題の根深さと,それが社会全体に広がっていることを感じました。改めて問題の解決の必要性を感じました。
期日では,被告国が提出した書面が陳述(主張)されました。次回期日は6月16日水曜日午後1時30分からに指定されました。次回までに,原告ら側が被告国への反論の書面を作成して提出する予定です。
私が現段階で考えている原告ら側の主張の中心的なポイントは以下になると思っています。
第一に,上川法務大臣が,離婚後共同親権と面会交流の実現についての法改正を,2月10日に法制審議会に諮問したことです。現在の離婚後単独親権制度が子の連れ去りを生み,さらには監護時間で有利に立とうと面会を拒否する行為を生んでいると指摘されている点からすると,現在の子の連れ去りを規制する立法がない状態を変えなければならないという国の姿勢の表れです。
第二に,その法制審議会への諮問について,3月3日に国会の参議院予算委員会において,立憲民主党の真山勇一参議院議員が菅総理に共同親権への検討について質問をした際,真山議員が,離婚の際に,女性が子どもを連れ去る問題があること,そして最近は男性が子どもを連れ去ることも増えていることを指摘すると,菅総理が,「(連れ去り問題については)私自身も承知していて,憂慮している。今後子どもの利益を始め,幅広い観点から検討したい。まずは法制審の検討を見守りたい。」と答弁したことです。それは,内閣総理大臣自身が,子の連れ去り問題が発生していることを憂慮し,それを防がなければならないと考えている立場の表明に他なりません。
そして第三に,これも私が担当させていただいた,離婚後単独親権制度違憲訴訟についての,東京地裁令和3年2月17日判決が,以下の判示をしたことです。同じ東京地裁に係属している子の連れ去り違憲訴訟においても,この判示内容は当然影響を与えるものです。子の連れ去りが,連れ去られる側の親と子にとって,互いに人格的利益である「親が子を養育する関係」を侵害することは明白であります。そして東京地裁はその関係を「離婚によっても妨げてはならない」と判示しているのですから,一方親による子の連れ去りが,その「妨げてはならない親が子を養育する関係と,親と子の人格的利益」を侵害する違法行為であることは明白だと思うからです。
東京地裁令和3年2月17日判決
「また,親である父又は母と子とは,三者の関係が良好でないなどといった状況にない限り,一般に,子にとっては,親からの養育を受け,親との間で密接な人的関係を構築しつつ,これを基礎として人格形成及び人格発達を図り,健全な成長を遂げていき,親にとっても,子を養育し,子の受容,変容による人格形成及び人格発展に自らの影響を与え,次代の人格を形成することを通じ,自己充足と自己実現を図り,自らの人格をも発展させるという関係にある。そうすると,親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有するものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け,又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。
しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」