私が担当させていただいている,無戸籍児問題の解決を目指した嫡出否認制度違憲訴訟について,平成30年11月30日に大阪高裁で判決が言い渡されたことは,このブログでもお話をいたしました。

 

 

 

その裁判で原告側が「憲法違反だ」と主張しているのが,民法の,嫡出否認権を父にのみ認め,子や母には認めていない規定です。子や母からの否認権が認められていないから,生まれた子の生物学上の父が,民法の推定する父と違う場合でも,子や母からはその推定を否定することが許されていないのです。そのため,生まれた子の出生届が提出されない事態となるのです。

 

 

 

裁判では,それが無戸籍児が生まれる原因であり,個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法に違反している,と主張していたところ,裁判とは別に,政府が,民法の嫡出否認権の規定の改正を検討し始めたという報道が流れました(平成30年7月15日付読売新聞など)。そして,同年10月には研究会が設置され,法改正についての意見を出す予定になったのです。

 

 

 

政府による法改正の動きにつきましては,この記事の最後に引用する共同通信社の記事をご覧いただければと思います。その上で私が思うのは,裁判で違憲の主張が行われ,政府が法改正を検討し始めたにも関わらず,国会は民法の嫡出否認権の規定の法改正を,未だに行おうとしていない,ということです。

 

 

 

国会は,社会の多数意見を法律に結晶化させる国家機関です。言い換えると,国会で成立する法律は,いわば多数者から見た,社会のあるべき姿です。

 

 

 

でも,その国会で成立した法律でも,時代の変化等により,合理性を失うことがあります。時代の正義観や公平感に合わせて法律を変化させていくことも国会の役割です。ところが,法律が合理性を失っていると思われるにも関わらず,国会が法改正を行わない場合があるのです。

 

 

 

私は,今回の裁判で違憲であるとの主張を行っている民法の嫡出否認権の規定は,もはや時代の変化等により合理性を失っており,早急に法改正が求められている,と考えています。それにも関わらず,国会が法改正を行わないのですから,司法権(裁判所)が違憲立法審査権を行使して,その法律が憲法に違反して無効であることを宣言するべきだと考えているのです。

 

 

 

その意味で,裁判所による違憲立法審査権の行使は,いわば少数派から見た社会のあるべき姿です。それを実現するのが,弁護士の役割でもあります。事件については上告を行い,舞台が最高裁判所に移る予定です。そして,最高裁判所により,無戸籍児という人権問題の発生を生み続けている民法の規定が違憲であると宣言がされることが,私達のゴールになります。

 

 

 

社会には,多数決では決めることができないことがあります。社会には,多数決では奪うことができないものがあります。それが基本的人権です。その基本的人権を救済し,実現される姿を導き出せるような訴訟活動を行いたい,と考えています。

 

 

 

(共同通信配信の記事)

 

 

 

無戸籍解消目指し法改正へ 母親も嫡出否認提訴可能に 法務省、10月にも研究会(2018年08月30日共同通信社配信の記事)

 

 

 

女性が婚姻中に妊娠した子は夫の子と見なす民法の「嫡出推定」を見直すため、法務省が有識者らでつくる研究会を10月にも発足させることが29日、関係者への取材で分かった。嫡出推定は、何らかの事情で夫(元夫)の子になるのを避けたい母親が出生届を提出せず、子が無戸籍者となる大きな要因と指摘されている。嫡出推定を否認する訴えを、夫(元夫)だけでなく、母親や子も起こせるように拡大する方向で検討し、無戸籍者の解消を目指す。

 

 

 

無戸籍者は住民票を取得できないなど、日常生活で大きな不利益がある。研究会の議論で法改正が必要と判断されれば、法相が法制審議会に諮問する。

 

 

 

民法は婚姻中に妊娠した子は夫の子、離婚後300日以内に出産した子は元夫の子と推定すると規定。女性が夫と別居中、または離婚直後に別の男性との間の子を産んだ場合、戸籍に夫(元夫)の子として記載される。

 

 

 

これを避けるには、嫡出否認の訴えを起こす必要があるが、現行法では夫(元夫)しか提訴できない。接触を避けたい女性側が提訴を依頼するのは難しいことが多く、このため、女性が出生届を出さず、子が無戸籍になるケースがある。法務省によると、8月10日時点の無戸籍者は715人で、潜在的な人数はもっと多いとの指摘もある。

 

 

 

また、研究会では夫婦以外の第三者の卵子や精子を使った生殖補助医療(不妊治療)で生まれた子どもの法的な親子関係を定める議論も行う。不妊治療をする夫婦も多い中、子どもの権利を守る観点から法整備が必要と判断した。

 

 

 

不妊治療で生まれた子どもを巡っては2001年、当時の高村正彦法相が親子関係を確定する民法改正などを法制審に諮問。法制審の部会は03年、(1)女性が自分以外の卵子を使った不妊治療で妊娠、出産した時は出産した女性を子の母とする(2)妻が夫の同意を得て、夫以外の男性の精子を使った不妊治療で妊娠した時は、夫を子の父とする―などとする中間試案をまとめている。

 

 

 

※嫡出推定

民法772条は、女性が婚姻中に妊娠した子や、離婚から300日以内に生まれた子は、夫(元夫)の子と推定すると定めている。父子関係を直接証明できなくても、子の利益のために父を早く決めて親子関係を安定させるのが狙い。夫が出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えを起こさない限り、推定は覆せない。判例では事実上の離婚や遠隔地での居住など、夫婦間に性的関係を持つ機会がないことが明らかな場合は推定を受けないとしている。