先日報告をさせていただいた遺族年金訴訟とは別に,労災補償保険法による遺族補償年金について,労基署長が不支給とした処分について,審査請求の結果,労働者災害補償保険審査官による処分取り消しが認められた案件がありましたので,御報告いたします。
事案は,審査請求人の妻の亡夫が,長年業務により生じたじんばい症で治療をされていた後,腎不全で亡くなった,というものです。担当の医師が作成された診断書には,「じんぱい症の影響で腎不全が悪化した。だからじんぱい症が死因だと考える。」等の記載があったのですが,労基署長はじんばいによる死亡ではなく,あくまでも腎不全による死亡であるとして,労災と認めませんでした。
妻が審査請求を行い,私が代理人として①じんぱい症により腎不全が悪化して死に至ったのだから,じんぱい症と死との因果関係が認められる,②専門家である医師の意見を最大限尊重するべきである等々と主張を行ったところ,無事労働者災害補償保険審査官は不支給処分を取り消して,支給が認められることになりました。
「死因の評価」とは,一見科学的な評価であり,正解はこの世に1つしか存在しないように思います。でも実は,法律上の「死因の評価」とはあくまでも法律の世界における評価なのであり,そこには法的な価値判断が加わることです。そこには,「人によって,評価が異なって当然である。」という問題が存在していることになります。
でも,私は思うのですが,労災とは労働によって傷つき,命を失った方に対して,それが労働上の災害であるとして,国が給付を行うものです。とすると,やはりそこにおける「死因の評価」にも,労働者救済の観点からの意味が与えられるべきであり,そこには懸命に働かれてきた方の姿が浮かび上がるようなものでなければならないと思います。
今回の労災事件では,まさにそのような訴えが労働者災害補償保険審査官による処分取り消しを導いたと言えると思います。申し立てをされた奥様が,じん肺症で苦しまれてきた亡くなった御主人の姿を案じて来られた気持ちが,法律に意味として与えられたように感じています。
それはまさに,天国にいらっしゃる亡くなられた御主人からの贈り物であります。御主人が天国から与えられた光が,法律に異なる評価を与え,異なる解釈を導いたように感じています。