アインシュタインと申すと,真っ先に思い浮かぶのが「相対性理論」であり,「時の進み方は人によって異なる」「時空は曲がる」などの著名な言葉であります。
そんなアインシュタインですが,あまり知られていないこととして,大学卒業後すぐに大学の研究者となったわけではない,という事実があります。
実はアインシュタインは,大学の指導教官と折り合いが良くなく,推薦をもらうことができずに,社会人になった際には,物理学の研究者ではなく,スイス特許庁の職員として働いていたのです。
その時代についてアインシュタインは後に,「特許申請の仕事の合間に,物理学について思い巡らせることができたことが,数々の発見につながった」と言われています。
そんな経験も影響したのかもしれませんが,実はアインシュタインの発明が,特許権と関わるものがあるのです。
自然科学の法理に従えば,「熱は熱い方から冷たい方に流れる」のです(熱力学の第二法則)。
その法則に一見反するように見えるのが,冷蔵庫です。冷蔵庫は,内部の冷たい空間から熱を取り出し,温度の高い庫外に放出しているからです。
現在一般的に使われている冷蔵庫は,外部から電気エネルギーをもらっています。冷蔵庫は通常,冷媒という物質(テトラフルオロエタン)の膨脹にいおって冷える仕組みです。冷媒は,最初は気体の状態で圧縮されており,それが庫外の空気にさらされて放熱し,温度が下がります。
冷えるにつれて液化した液媒を,細いすき間を通して低圧の小部屋に押し出すと,一部が気化します。このとき,液体のまま残っている溶媒からエネルギーが奪われ,その温度が急激に下がります。
冷やされた冷媒が通るパイプの周りの空気を庫内に取り入れて,その場の空気を冷やすのです。
現在一般的に使用されている冷蔵庫は,このような仕組みで動いています。ところが,そのような仕組みが用いられる前の初期の冷蔵庫は,実は有毒ガスを冷媒に使っていたのです。
そのため1920年代に,ドイツのベルリンで家庭用冷蔵庫からのガス漏れが原因で一家が亡くなるという惨事が起きたのです。
この事故がきっかけとなり,使用されるようになった現在のシステムですが,その冷却メカニズムを発明したのが,アインシュタインと,アインシュタインの教え子の物理学者レオ・シラードです。1926年のことです(『もしもアインシュタインが間違っていたら?』(すばる舎,2015年)146頁)。
ユニークなお人柄で知られるアインシュタインですから,きっとドイツでの惨劇のニュースを聞き,物理学の英知を利用することでそのような悲劇が二度と起きないように,と考えたのだと思います。
物理学も,特許制度も,いずれも専門的で,難しい数式を使うことで有名ですが,そのような専門用語や数式の下には,温かい思いやりと情熱が支えていることを感じることができるエピソードだと思います。
それにしても,研究者の夢がかなわず,スイス特許庁で働いていた経験を,逆に活かす形で社会に貢献されたアインシュタインの姿勢には,敬意を表したいと思います。アインシュタインの優しいお人柄がうかがえるエピソードだと思いました。
ちなみに,アインシュタインは冗談好きでも知られていた方ですので,最後の1つ,特許に関わる面白いお話で,今日の記事をまとめたいと思います。
早口言葉では,「東京特許許可局(とうきょうとっきょきょかきょく)」がよく用いられますね。
でも実は,「東京特許許可局」という局は,存在していないのです。アインシュタインも驚かれたでしょうか?。