私が担当させていただいていた,地方公共団体の道路の管理責任を問う裁判で,管理責任を認める判決が出されました(2016年1月23日付山陽新聞掲載の記事より)。



「47万円支払い命じる 町道倒木で車が損傷 地裁



夜間に町道を乗用車で走行中,倒木に接触して車が壊れたのは町の道路管理に問題があったとして,岡山市の男性(33)が町に修理費など約72万円を求めた訴訟で,岡山地裁は1月22日,約47万円の支払いを命じる判決を言い渡した。



判決理由で裁判官は,『道路の異常をチェックする巡視を定期的にしており,倒木は予期できた』として町の過失を認定。



一方で『車のライトを上向きにしていれば倒木に気付くことができた』として請求より減額した。



判決では,男性は2014年7月13日午後8時50分ごろ,町道を車で走行中,道路沿いからの倒木に接触し,バンパーなどが壊れた。


町は『判決文を見ていないのでコメントできない』としている。」






この事件は,道路への倒木について,国家賠償法2条という条文が適用されるのか,という点が争点となりました。



国家賠償法2条1項は,「道路,河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは,国又は公共団体は,これを賠償する責に任ずる。」と規定しています。



この規定は,いわゆる「危険責任主義」に基づくもの,と言われています。民法717条の土地の占有者・所有者の管理責任と同様に,危険が生じる可能性がある「物」を管理している人は,その「物」から危険が生じた場合に,発生した損害を賠償しなければならない,とする趣旨です。



ではこの規定が道路に適用されるかが争点になった,とはどういう意味か,と申しますと,実はこの事件で倒れてきた木が立っていた場所は,町の所有地ではなかったのです。



町としては,危険責任主義の適用があるのは,あくまでも町が管理している道路そのものについてであって,他人の土地に立っていた木が倒れてくるかどうかまで責任を負えない,という主張がされていました。



それに対して上で御紹介した岡山地裁の判決では,道路管理者として倒木の危険が予見できた以上,やはり木が道路に倒れてきて生じた危険も,「道路から生じた危険である」と判断したことになります。



国家賠償法は,元々行政行為について,社会で発生した損害をどのように分担すれば公平なのか,という観点から設けられた法です。



岡山地裁の判決に現れている理念は,町道という元々危険が生まれやすい存在について,より広く損害の賠償責任を肯定することで(危険の管理責任を公共団体に広く認めることで),結果として町道を市民が安心して通行できる社会を実現しようとしたもののように感じています。



それはまさに,国家賠償法の理念の発現した判決だったと言えると思います。