先日も御紹介いたしましたが,フリー・ジャーナリストの秋山千佳さんがこの5月に出版された初の著書『戸籍のない日本人』(双葉新書)は,「無戸籍問題」を通して,私達の社会における正義とは何かを感じさせてくれる作品であるように感じています。



その作品『戸籍のない日本人』の198-209頁で,私が以前担当させていただいた無戸籍問題の解決を目指した300日規定訴訟を御紹介していただいた上で,私自身のインタビューも,掲載してくださっているのです。



秋山さんが,そのインタビューをしてくださった際のことを,私はよく覚えています。民法772条に書かれた嫡出推定の規定。そのたった1つの規定のために,多くの子供達が悲劇的な人生を送られているのです。それを何とかできないのでしょうか。法律家は,法律を使って助けてあげることができないのでしょうか。



長時間にわたった秋山さんのインタビューとその姿勢は,法律が人々の人生に直接影響を与える存在であること,そこから救ってほしい,と思われていることを,改めて感じるものでした。法律家になりたいと思った初めての瞬間を思い出させてくださるものでした。



この秋山さんの『無戸籍の日本人』で御紹介いただいているように,私も以前に無戸籍問題の解決を目指した300日規定訴訟を担当いたしました。



その後,無戸籍問題の根深さは,大きな社会問題となり,人々の意識や関心も変化しています。その中で私が,この問題の解決のために考えている手法があるのです。



それは,「就籍」という制度を利用することです。例えば記憶喪失の方がある日ある場所に現れた場合,その方は日本のどこかに戸籍があるはずですが,それが不明な状態となっているわけです。



「就籍」制度とは,本来はそのような方を救済するために設けられた制度です。いわば「緊急避難的な人権救済制度」であると言えましょう。



その「就籍」制度は,本来は「無戸籍問題」を解決するために法律上設けられた制度ではありません。でも,法律そのものは紙に書かれた活字であり,その活字に私達は意味を与える必要があります。



そしてその意味とは,私達の心の中にある「正義観」が生み出す意味であります。



実の母が法律上の結婚をしていた父から暴力を受け,その結果婚姻関係が破綻して,形骸化した法律上の婚姻関係が残っており,さらには民法の嫡出推定規定が厳格に適用された結果生まれるのが,「無戸籍問題」です。それは,重大な人権問題です。



人権を救済するために,私達は憲法と人権条約を制定しております。その人権条約の中には,児童の権利に関する条約があります。そしてその7条には,「児童は,生まれた後即時に登録されなければならない」と規定されているのです。



この世に生まれてくる子供達にとっては,その父や母の婚姻関係が形骸化していたこと,さらには父が母に暴力を振るっていたことなど,自らの責任のないであり,そのことで子供達が「無戸籍」となっているとすれば,それは自らの責任のない事情で,子供達を差別していることになります。それは,法の下の平等を定めた憲法14条が禁じていることです。



さらには,その最高法規である憲法とともに,児童の権利に関する条約の存在は,その下位法である法律に,影響を与え,意味を与え,動かしていきます。私達は,元々人権救済のために設けられた「就籍」制度を,「無戸籍問題」という現代に現れた人権問題のために,動かしていくべきではないかと思うのです。



その解釈はまさに,私達の心の中にある「無戸籍児を救いたい」という正義観が生み出すものです。その意味は,司法権により与えられるものであり,司法権とは,人権救済機関であります。



私は,その司法権の担い手として,その方法による「無戸籍問題」の解決を目指しているのです。「就籍」制度を用いて,「無戸籍」の方々を救済すべきだと考えています。