昨年(平成26年)の10月に,一度「NEWSな法律相談所」という記事でコメントを担当させていただいた『週間女性』から,再びインタビューのお声をかけていただきました。2月17日(火)に発売が予定されている号掲載の記事です。
今回のインタビューのテーマは,「モラルハラスメントによる離婚はできるのか」という内容です。芸能人のご夫婦の妻が夫によるモラルハラスメントを理由にした離婚と,未成年者子の親権を争われているということで,「モラルハラスメント」と離婚,さらに子の親権について,一般的な話をさせていただきました。
インタビューでもお話したのですが,まず日本では,合意による離婚(協議離婚)が成立しない場合には,すぐに離婚裁判を起こすことはできません。必ず,離婚調停をまず起こす必要があるのです。これを調停前置主義と申します(家庭内の問題は,まず話し合いにより解決を目指すべきだ,という理念の現れです)。
その調停での話し合いでも合意に至らない場合に,ようやく離婚裁判を起こすことができるのですが,仮に,その離婚裁判の担当裁判官が「これは調停での話し合いが十分ではなかった」と考えれば,離婚裁判で再び話し合い期日が設けられることもあります。
このように申しますと,まるで法律制度は離婚をさせないように,いじわるをしているように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが,決してそのような趣旨ではありません。
裁判という言葉からすぐに頭に浮かぶような交通事故や貸金返還請求事件など,いわゆるお金(財産)の支払いで解決できる事件(民事訴訟法が適用される事件)と,離婚のような家族関係の事件(人事訴訟法が適用される事件)とは,同じ民事事件でも,やはり法の目的が違う,ということになります。
それを端的に申しますと,「財産では決して手に入らないもの」を扱うのが,家族関係の事件のように感じるのです。
一度は家族になる決意をされたご夫婦が,色々なご事情から円満でなくなり,離婚という道を選ぶ決意をされた事件を担当させていただくと,「幸せ」を得ることの難しさをいつも感じます。離婚事件は,どのような解決になったとしても,心の中に人生の重さが残るのです。
アメリカの映画に「クレイマー・クレイマー」という作品があります。1979年の作品です。
夫役はダスティン・ホフマンさん。妻役はメリル・ストリープさん。名優の共演です。
作品の舞台はニューヨークのマンハッタン。仕事熱心な夫は,家事と育児の全てを妻に押し付けます。妻は,自分自身も何か打ち込める仕事をしたいと夫に持ちかけるのですが,夫はまったく取り合いません。
するとある日,妻は夫に突然別れを告げます。最初は冗談だと思った夫ですが,翌日から妻は,5歳の幼い子を残したまま,自宅から消えたのです。
妻のいなくなった毎日。最初は朝食も十分に作れなかった夫ですが,序々に家事と育児をこなし,子との関係も親密になっていきます。
ところが,そんな時,夫が少し目を話した隙に,子がジャングルジムから転落して,大けがを負います。そのことで仕事に身が入らなくなった夫は,解雇されるのです。
失意の夫の手元に,裁判所から書類が届きます。妻が子の養育権を求めて裁判を起こしたのです。
この作品のタイトルは「クレーマー・クレーマー」ですね。原題は,「Kramer vs Kramer」,つまりクレーマーさん(夫)とクレーマーさん(妻)の裁判,という意味なのです。
あわてた夫は,何とか仕事を探しますが,妻の方が収入が高く,裁判では苦戦を強いられます。
判決では,「子の最良の利益」の原則が適用され,子の養育権は妻が得ることになったのです。
子を妻に引き渡さないといけない日の朝。夫は最後の朝食を子に作り,食べさせます。するとそこに,妻から電話がかかってくるのです。
電話に出た夫に妻は,ある話をしました。それは,裁判でお互いが行った数々の虚偽の主張の応酬や,一刀両断的な判決がとてもむなしくなるような内容の,妻からの提案だったのでした。
この映画「クレーマー・クレーマー」はアカデミー賞も受賞された作品ですので,日本でも広く知られていますね。内容としてはモラルハラスメントを扱ったものと言えるかもしれません。
当時も,そして今もアメリカの社会で大きな問題となっている離婚と子の親権の問題を取り上げた作品です。そしてこの作品を製作された方々は,作品のタイトルをあえて「Kramer vs Kramer」として,さらに作品の中心に裁判を置くことで,逆に「裁判で本当に問題は解決するのでしょうか」という,大きなテーマを私達に投げかけているように思います。
それはきっっと,大切なことは裁判制度や判決そのものではなくて,喜びと悲しみに満ちた人生を送る人が出会い,人生を共にして,そして悲しい結末に至ったとしても,その後にもその人生は続いていく,ということなのだと思います。
離婚事件は,担当をしている弁護士としても,とても悲しい事件です。でも,そのことを忘れずに,向き合っていきたいと思います。