民間企業による宇宙活動が活発になってきておりますが,いよいよ日本の会社として,宇宙旅行専門の旅行会社が設立されたとの報道を目にしました(2014年1月7日付朝日新聞大阪版掲載の記事より)。
「2014年宇宙の旅へご案内 専門の旅行会社設立
旅行大手のクラブツーリズムは1月6日,宇宙旅行を専門に扱う子会社『クラブツーリズム・スペースツアーズ』を設立した。
米ヴァージンギャラクティックが今年末にも始める宇宙旅行を,国内で独占的に販売する。10年間で900人の参加を見込んでいるという。
宇宙旅行は専門の宇宙船で米ニューメキシコ州の空港を発着し,高度100キロメートルの宇宙空間まで上昇する。約2時間の飛行で4分間の無重力状態を楽しめる。
参加費は約2500万円で,日本からはすでに18人が予約しているという。」
「宇宙」という無限に広がる世界において,世界の国家機関だけでなく,民間の人々による活動が行われること,そしてその活動により「宇宙」という空間に新しい意味が与えられ,新しい宇宙法が生み出されているのです。考えただけでもわくわくしますね。
でも実は,そんな民間の人々による宇宙活動について,負の側面を指摘する声もあるのです。
先日の報道で,「宇宙のゴールドラッシュ到来か」という内容のものを目にしました。
それは,宇宙の他の惑星に眠っているはずの鉱物資源を求めて,特にアメリカの企業が進出を進めており,既に具体的な企業プランまで練られている,という内容だったのです。
宇宙空間については数々の国際法,国際条約が締結されています。中でも,1960年代に成立した国際条約である宇宙条約では,第2条において,「月その他の天体を含む宇宙空間は,主権の主張,使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない」と規定しています。
とすると,宇宙の他の惑星に眠っているはずの鉱物も,特定の国,特定の企業が自由に取得できるものではなく,「国際財産」として扱われないとならないはずです。
実はこの問題は,宇宙鉱物において初めて登場したものではなく1982年に発行した国連海洋法条約における深海底の問題と重なるものなのです。
深海底とは,大陸棚よりもより外側にある海底のことでありまして,1982年の国連海洋法条約締結に至る会議では,国家の主権が及ぶ大陸棚の概念に,「科学技術により開発可能な範囲までを全て大陸棚とする」という科学技術国,先進国の意見が有力でした。それは,科学技術の発達により,深海底に眠っているニッケルなどの鉱物の開発が可能となり,その取得を狙った主張だったのです。
それに対して,そのような科学技術を有していなかった発展途上国は,そのような大陸棚概念の拡張に反対しました。その中の1国であるマルタの代表が国連でスピーチをして,深海底は「国際財産」として扱うべきだ,との主張を行いました(その主張は,日本人で後に国際司法裁判所判事となる小田茂さんの考えをモチーフとしたものです)。
その2つの異なる意見の応酬を経て,結局1982年の国連海洋法条約では,発展途上国の主張が受け入れられて,深海底は「国際財産」とされ,国際的な制度による管理下に置かれることになったのです。
ところが,ここで1つエピソードがありまして,そのような「国際財産」と国際的な制度による資源の管理に猛反対したのが,アメリカであります。アメリカは,長く国連海洋法条約を批准しなかったのです。その後,結局アメリカの求めを一部受け入れる形の修正を行い,アメリカの批准を受けて,国連海洋法条約における深海底制度が動き出すことになったのです。
今回の宇宙における他の惑星の鉱物開発も同じような動きですね。科学技術を有しているのはアメリカと,同程度の科学技術を有する有力先進国のみとなっています。このままそれらの私企業により宇宙の鉱物ビジネスは発展・開拓されていくのか(それはおそらくビジネスの独占をも意味することになると思います),それとも宇宙条約の理念を再確認し,他の惑星の鉱物を国際的な制度により管理する制度を新しい国際条約で設けていくのか。
国際社会がこの問題に対してどのようなアプローチを進めていくのか,そこに日本はどのように関わっていくべきなのか,さらにはその結果どのような新しい国際法・宇宙法が生まれてくるのか,とても興味深く見守っていきたいと思っています。