ビートルズのジョン・レノンさんが手書きした「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の歌詞などが,イギリスで最近導入された税軽減策の適用第1号として,ロンドンにある大英図書館に寄贈された,という興味深い報道を目にしました(四国新聞2013年6月1日付の記事より)。
「ビートルズのメンバーだった故ジョン・レノンさんの手書きの歌詞などが,英国でこのほど導入された税軽減策の適用第1号としてロンドンの大英図書館に5月下旬に寄贈され,話題を呼んでいる。
寄贈主はビートルズの伝記作家として知られるハンター・デービスさん。歴史的価値のある美術品や文化財を国に贈ることで,所得税などの減税を受けることのできる制度を利用した。
大英図書館に贈ったのは名曲『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』の手書きの歌詞やレノンさんからの手紙などで,図書館内に展示されている。・・
デービスさんは『自分のビートルズ・コレクションを,一般公開されている場所にまとめて保存したいと思っていた。大英図書館は申し分のない場所だ』と話している。」
税といいますと,私たちの社会を支える制度である一方で,税制自体がとても分かりにくく,またそれを規定する税法自体も一読しただけではよく分からない,という声を聞くことが多いです。
その一方で,税や税法には単なる納税の効果を超えて,経済に直接影響を与える経済政策的効果や,相続税を代表とした所得の再配分効果を有する,と言われています。
その意味で,本来裁判で税法の解釈を行う必要が生じた場合には,単なる法律の専門家としての視点だけではなく,経済学者や社会学者としての視点も必要となるのでしょう。
そのような見地から,現在は通常の民事裁判として行われている税務訴訟について,(家族事件を専門に扱う家庭裁判所があるように)税を専門に扱う「税務裁判所」を設立するべきだ,という意見がある一方で,逆に通常の裁判所で税務訴訟を扱うようにしつつ,むしろ税務訴訟こそ裁判員裁判とするべきだ,という意見もあるのです(前者の提言が経済学者的な視点を税務訴訟に導入しようとするものであるのに対して,後者の提言は社会学者的な視点を導入しようとするものだ,といえると思います)。
さらに申しますと,裁判所についてそのような提言があるということは,当然税務訴訟に関わる弁護士についても,その主張の中に,より経済的視点,社会学的視点を盛り込むことが求められているのだと思います。
以前仕事でヨーロッパに行き,ドイツの弁護士と話をした際に,その男性の弁護士は「自分は刑事事件だけを専門に扱うcriminal lawyer(刑事弁護士)なんだ。でも妻は,税務事件だけを専門に扱うtax lawyer(税務弁護士)なんだ。」と言われていたことを覚えています。おそらくその方の奥様は,税務弁護士として,単なる法律上の主張を行うだけでなく,上で述べました経済的,社会学的,さらにはその他さまざまな税務制度を支える要素を組み入れた主張をして,税務制度に光を当てられているのだろうな,と思います。
税という存在が,納税という効果を求めるものである以上,公平・正義という観点から制度の存在意義が常に問われることになるのですが,冒頭でご紹介したイギリスの例は,税という社会的手段の新しい動かし方を私たちに示してくれたものなのかもしれません。
考えてみますと,もともと「ストロベリー・フィールズ・フォーエバーフォーエバー」は,ジョン・レノンの幼少期を過ごした自宅の近くにあった孤児院「ストロベリー・フィールズ」を歌った曲です。税制度の効果で,ジョン・レノンの優しい心が社会の共有財産となることは,経済的・社会学的効果を超えた何かを,私たちにもたらしてくれるのかもしれませんね。