フェイスブックの創設者の一人が,税金の関係でアメリカの市民権を放棄する,との報道を目にしました(2012年5月12日付ABCニュース報道の記事より)。
「フェイスブックの創設者の一人が,アメリカの市民権を放棄する,と言っています。節税の目的があるのでしょうか。このような事例はたくさんあるようです。
エドワード・サベリン氏。アメリカン・ドリームのケーススタディと言えるかもしれません。大学の寮でザッカーバーグ氏とともにフェイスブックを創業しました。『ソーシャル・ネットワーク』の映画の中でも,その点が明らかになりました。その後十分に報われないと感じました。
エドワード・ザベリン氏は,フェイスブックの株式の4%程を保有していると考えられています。フェイスブックが上場した際,40億ドル近くを得られると考えられているエドワード・ザベリン氏です。
しかしながら,エドワード・ザベリン氏がその利益を得ても,それほど税金を納めない可能性が出てきました。アメリカの市民権を放棄したということが明らかとなりました。
関係者によりますと,シンガポールに当面とどまるということです。彼は,『いつまでいるか分からないが,シンガポールに当面とどまりたい』と語りました。
インターネット上では批判的な声が上がっていました。アカウントを閉鎖すべきではないか,との声も上がりました。
節税の効果があるのかもしれませんね。これに対して批判的な声も上がっています。」
近時発行された税法の教科書には,必ず「国際租税法」の章が設けられています。そこでは,国境を越える人や法人の活動と,そこから生じる利益に対して,どのように国家は税を課すことができるのか,という問題が扱われています。国際的な人の動きや,国際取引の発達により,その問題はとても大きなものとなってきているのです。
上記のABCニュースの内容は,人の国籍や居住本拠地の変更と,国家の課税権の問題です。その外にも,移転価格(transfer pricing)と呼ばれる問題もあります。
移転価格とは,ある国で活動する法人が,他国で活動する法人に対してあえて商品を高く売ったり安く売ったりすることで,二国間の税率の差を利用して,その取引から得られる利益に課される税額を抑えようとしているのではないか,という問題なのです。
先日,大きく報道されたニュースに,大阪国税局が武田薬品工業(大阪市)に対して行った移転価格税制に基づく更正処分につき,同社の異議申し立てを認め,更正処分の一部の取消を決定した,というものがありました(2012年5月7日付)日経新聞掲載の記事より)。これも,移転価格に対する利益ではないか,として行われた更正処分が,同社の異議申し立てによってその一部が取り消された,というものです。
武田薬品は,平成18年6月に,アメリカの製薬会社との合弁会社に消化器系治療薬を輸出した際,取引価格を安く設定し国内課税所得を減少させたとして,大阪国税局から移転価格税制の適用を受けました。
これにより薬1223億円の申告漏れが指摘され,571億円の追徴課税分を受けたのですが,同社はこの更正処分を不服とし,追徴税額を納付した上で異議申し立てを行ったのです。
その後,この事案について日米課税当局間の相互協議が行われたのですが,合意に至らず終了しました。これを受けて同社は,一旦中断していた異議申立手続を再開していました。
武田薬品によりますと,大阪国税局は2012年4月6日に同社の主張の一部を認め,指摘された申告漏れの約8割にあたる約977億円を取り消す決定をしました。納付済みの法人税など約455億円と還付加算金の約116億円の計約571億円が近く還付されるということです。
そして武田薬品は,異議決定書の内容を検討の上,今後さらに不服審査や訴訟へと移行させるかどうかの対応を決めたい,としているそうです。
「国」や「国境」は,人が編み出したフィクションです。国際租税法の問題を見ていますと,現在の国際社会では,国境を越える私人の活動とそのフィクションである国という存在との関係が,とても難しいものとなってきていることを感じます。
インターネットもそうですね。インターネットは作り上げられた空間です。そこで行われている活動は,果たしてどの「国」で行われていると言えるのでしょうか。それともインターネット空間は,「国」や「国境」を超えたところに存在しているのでしょうか。
ホッブズは,1965年に発表した著書『リヴァイアサン』で,政府(国)を海の怪物リヴァイアサンに例えました。今後21世紀,さらには22世紀へと進むにつれて,そのリヴァイアサンと,私達私人との関係は,どう変化していくのでしょうね。