インターネットSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)における最大手であるフェイスブックの自己紹介ページで,臓器提供意思の有無を表示できるようになったそうです(四国新聞2012年5月3日掲載の記事より)。



「米フェイスブック 臓器提供意思表示OKに



米インターネット交流サイト最大手フェイスブックは1日,会員を自己紹介するページに臓器提供意思の有無を表示できる項目を設けたと発表した。



会員が提供意思の有無を公開することで,交流のある友人にも意思表示を促し,臓器移植の普及につなげるのが狙い。意思表示に法的な効力はない。



米メディアによると,この機能は米国から準備ほかの国にも広げていく予定。米国には心臓や肝臓,腎臓の移植を求める患者が11万人以上,世界には数百万人いるとされるが,提供者の数は大幅に少ないのが実情。



米国では,本人が州に登録するなどして正式に提供意思を示していなくても,日本と同様に家族の承諾があれば臓器提供はできる。あらかじめフェイスブック上で本人が意思表示することで,家族の承諾も得られやすくなる可能性があるという。」






私は今年から,岡山大学で「生命倫理と法」についての講義を担当する予定です。そのため色々とその分野について調査を行っているのですが,問題が「生命」に関わるだけに,とてもデリケートかつ繊細な分野であることを痛感しています。



この臓器移植の問題もまさしくそうでありまして,私たちの社会には多くの方が病気で苦しみ,臓器移植を待たれているのです。でもその一方で,臓器の提供の意思表示を行っている人は上の記事にもありますようにとても少数です。



さらに,家族の方が脳死状態となり,ご本人が事前に臓器提供の意思表示をしていたとしても,まだ体の温かい状態における臓器の提供に同意することをためらわれる家族の方が多いのです。



このように,法としては臓器移植は脳死状態となった方から行うのが原則である,という立場を取っているものの,その数が少ないことから,脳死となっていない方からのいわゆる生体肝移植が行われています。ただそれも,学会のガイドラインで一定親等以内の親族(血族でないといけないとしているガイドラインがあります)しか提供者となれない,とされており,結局移植を受けられる方は多くはないのが現状なのです。



そのような状況を受け,腎不全の診断を受けた方と,臓器の提供者との間に虚偽の養子縁組を結ばせて,その仲介者としての報酬を受け取ったとして,臓器移植法違反(臓器売買の禁止)などの罪に問われた者に対し,東京地裁で2012年1月26日に,懲役刑の判決を言い渡す事件も起きているのです。



近時爆発的な発達を遂げているインターネット・ツールですから,上掲の記事にあるようなフェイスブックの項目変更も,この問題解決への一つのきっかけとなるのかもしれません。でも私達の社会としては,この問題の解決に向けての,さらなる努力と知恵の積み重ねが必要なのでしょう。私も法律家として,その積み重ねに協力させていただきたい,と思っています。