"lawyer" という英語を皆さん耳にされることがあると思います。"lawyer"とは,「弁護士」の意味だ,と思われることが多いのですが,正確には"lawyer"とは弁護士,検察官,裁判官の法曹三者,法律家全体を意味する言葉なのだそうです。
英語で「弁護士」そのものを意味する言葉としては,"attorney at law"という表現が用いられます。"attorney"とは「代理人」という意味なのです。
私は以前から,どうして弁護士が"lawyer"ではなく"attorney at law"なのかがよく分かりませんでした。でも最近,あることを思いついたのです。
と言いますのは,実は検察官そのものを意味する英語は"public attorney"と言います。「公衆の代理人」という意味ですね。検察官は,発生した刑事事件について,被害者やご遺族の処罰感情,そして社会の処罰感情を踏まえて,あたかも公衆の代理人として(日本の刑事訴訟法の用語としては,「公益の代表者」という言葉を用いることが通常です),起訴を行い,公判活動を行うのです。そして被害者が,さらには社会が求める判決を得ようとします。
"attorney"という言葉につき,検察官の"public attorney"に対する弁護士,弁護人が"attorney at law"なわけです。とすると,それは「法(law)の代理人」という意味なのだと思います。
そして私は,そこに言う"law"とは,単なる法律ではなく,憲法(constisution)を指しているのだと思うのです。なぜならば,公衆の代理人,公益の代理人である検察官に対して,弁護士,弁護人は刑事手続では被告人を守る役割です。発生した刑事事件につき,被告人にとって一番いい光を当てるのが弁護人です。
憲法は国会議員をはじめとする公務員が,国民の人権を侵害する国家行為を行わないように,という趣旨で制定されています。とすると,そこには国家公務員や地方公務員の人達が守るべきルールが定められているはずであり,憲法に民間の職業が規定される必要はないようにも思います。でも,憲法には唯一規定されている民間の職業があるのです。
それは何かと言いますと,それが弁護士です。先ほどご説明しましたように,憲法は,国家権限を担う公務員の方々が守るべき法です。その憲法に民間の職業である弁護士があえて規定されているのは,憲法は弁護士に,社会の少数派の人権を守るという憲法の理念を実現するための役割を担うことを期待しているからです。
弁護人は,どんなに社会の多数派の人達が「あの被告人を許すな」と主張していたとしても,事件につき被告人側から光を当てて,裁判において被告人側からの主張を,冷静な立場から行わなければなりません。そのような役割こそ,憲法が弁護士に期待していることなのでありまして,だからこそ憲法は,唯一民間の職業として弁護士についての規定を設けているのだと思うのです。
そして憲法が,この日本の社会において,少数派の方々の人権が守られるように定められた規範であり,弁護士の活動がその少数派の人権を守るために行われている,憲法は弁護士にそのような活動を望んでいるのだ,とするならば,おそらく,英語の"attorney at law"の"law"とは,上でも述べましたように「憲法」を意味する"law"であり,"attorney at law"とは,その憲法から理念を託された存在,いわば憲法の理念を実現する代理人としての存在を意味する言葉なのではないでしょうか。
「憲法の代理人」としての弁護士。それを意味する"attorney at law"。この英語の言葉には,そのような意味が与えられるべきだと思うのですが,いかがでしょうか。