東日本大震災により被害を受けられた皆様に,心からお見舞いを申し上げます。
以前このブログにも書かせていただきましたが,私も参加させていただいている,消防職員の方々の団結権訴訟で,今日広島高裁岡山支部において,画期的な判決が出されましたので,ご報告いたします。
憲法28条は,労動者の労働三権(団結権,団体交渉権,争議権)を保障していますが,その一方で地方公務員法52条5項は,消防職員の団結権を禁止しています。
ところが,日本も締約国であります,労働者の権利についての国際人権条約であるILO条約の内,87号条約では,消防職員についても団結権を保障しなければ,ならないとしているのです。
つまり,条約で保障されている権利が,日本の国内法では禁止されていることになります。
実は,条約は日本の国内法でも効力を有しておりまして,憲法よりも効力は下でありますが,国内法よりも上の効力を有する,とされているのです。
今回の判決が出された事件は,岡山県の東備消防で働く消防職員(一般的な用語で申しますと消防士)の方々が,より良い消防体制の構築のため,問題点などを話し合う団体を結成しました。
ところが,職場の上司が,その団体を地方公務員法に違反するものと考えて,活動を妨害する行動を繰り返したり,団体の中心メンバーを昇任試験に合格させなかった,とされ,慰謝料を請求する訴訟が提起されたのです。
この訴訟で注目するべきなのは,原告として,妨害行為を受けた個人2名の外に,その団体そのものも原告となった,ということです。
上司から「地方公務員法違反の団体だ」と言われている団体が,訴訟を提起したわけですね。
第一審の岡山地裁は,原告らの請求をすべて棄却して,認めませんでした。ところが今日の広島高裁岡山支部の判決は,全く逆に,職場の上司による妨害行為,特に試験の昇任差別を認め,個人原告2名にはそれぞれ金110万円,そして団体原告には金55万円の慰謝料の支払いを,被告側に命じたのです。
http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2011042822361856/
今回の判決は,労働法と憲法,さらには国際法のすべての領域において,画期的な判断がされたといえると思います。
特に国際法の分野では,国際人権条約を引用して国内法上の行為の適法性を問う方法が,なかなか良い結果に結びつかず,弁護士が苦労している領域でありました。この点において,国際人権保障の観点から,一つ社会のお手伝いできたように感じ,とてもうれしく思っております。
この訴訟については,以前岡山で日弁連国際人権問題委員会主催の研究会が行われた際の様子が,以下のブログでご覧いただけます。そこに,訴訟で提出した主張書面をベースにした,条約と国内法についてまとめた書面も引用されております。
http://yoshimine.dreama.jp/blog/127.html
今後は,この訴訟を通じて得たものを,さらに消防職員の団結権そのものを回復する訴訟として発展させていくか,が問題となると思います。その問題につきましては,以前のブログ記事「消防職員の団結権とILO条約」で書いておりますので,よろしければご参照下さい。