「コーラス」という映画を見てきました。韓国の女子刑務所での受刑者を描いた映画です。
映画では,様々な経緯で刑に服している受刑者が,慰問に訪れた音楽家の歌声に感動し,自分達も歌いたいと,コーラスの練習を始めます。韓国での実話を元にした映画だそうです。
映画では,一人一人の受刑者につき,自分が犯した過ちについて,それが被害者や自分の家族から何を奪う結果となったのか,そのことを受刑者はどのように考えているのかが,音楽を背景に,少しずつ語られていきます。
また,韓国では死刑制度があり,現在でも死刑判決が出されているのですが,1997年以降死刑が執行されない状態が続いています。「コーラス」は,社会において死刑制度が存在する理由とその将来について,問題提起をした映画でもあります。ご関心をお持ちの方は,ぜひご覧下さい。
「空が青いから白をえらんだのです」は,『奈良少年刑務所詩集』(長崎出版,2010年)のタイトルとなっている詩です。この詩を作ったのは,奈良少年刑務所の受刑者の少年です。
奈良少年刑務所では,作家の寮美千子さん(りょうみちこさん)が,4年前に見学に訪れたことをきっかけとして,「社会性涵養プログラム」の一環として,詩作指導を行うようになったそうです。
同詩集を紹介した朝日新聞の記事(2011年2月22日付)に掲載されている寮さんの話によりますと,少年の多くは,家庭では育児放棄をされ,学校では落ちこぼれとして扱われるなど,人としてまともに相手にしてもらった経験が少ない,と感じたそうです。「結果として,情緒が耕されていない。荒れ地のまま」なのだ,という感想を話されています。
本のタイトルになった「空が青いから白をえらんだのです」は,「くも」という題で詩を作った回で,普段ほとんどものを言わない少年が作ったものだそうです。その少年はこの詩を朗読したとたん「今年はお母さんの七回忌です。お母さんは病院で,つらいことがあったら空を見て,そこに私がいるから,と僕に言ってくれました。それが,最後の言葉でした。お父さんは,体の弱いお母さんをいつも殴っていた。僕,小さかったから,何もできなくて。」と堰を切ったように語り始めたそうです(『奈良少年刑務所詩集』9頁)。
同詩集には,なんでも消せる消しゴム,いろんな人に迷惑をかけたこと,こんな自分を消せる消しゴムがあったらいいのに,という詩も掲載されています(『奈良少年刑務所詩集』58頁)。
以前の記事にも書きましたが,少年事件を担当すると,その多くで少年の家庭が崩壊している事実に気付きます。少年事件に共犯事件が多いのは,家庭という心安らげる場がない少年が集まり,集団で犯罪を行う姿でもあります。
でもそれは,逆を申しますと,少年達がどれだけ心安らげる家庭を欲しているか,ということでもあります。多くの少年事件で,少年に両親や家族の話をすると涙を流すのは,そのことを意味していると思うのです。
『奈良少年刑務所詩集』には,そんな少年の家族への思いを感じる詩がいくつも掲載されています。一つだけ,とても好きな詩を引用させていただきます(同書86頁)。
「ごめんなさい
あなたを裏切って 泣かせてしまったのに
あなたは ぼくに謝った
アクリル板ごしに ごめんね と
悪いのは このぼくなのに
あの日の 泣き顔が忘れられない
ごめんなさい かあさん」
この『奈良少年刑務所詩集』は,授業の成果として一昨年秋に,詩の一部を奈良少年刑務所で開かれた「矯正展」で展示したところ,大きな反響を呼び,出版が決まったそうです。
寮さんは,「犯罪は憎むべきもの。でも彼らを教えてきて,『人は変わることができる』ということを知りました」と言われています。
寮さんは,朝日新聞の取材に対し,少年事件と社会について,次のようにおっしゃっています。
「『おかえり』と温かく迎えてくれる社会があってこそ彼らは更生できます。
たとえ心が豊かになって出所しても,モンスター扱いされ,差別を受ければ,また心が折れてしまうかもしれない。
『やり直せるから』って皆が言える社会こそが住みよい,幸せな社会ではないでしょうか。」
刑事事件や少年事件を担当した経験を踏まえた私の意見も,全く同じなのです。