アメリカの作家,Oヘンリーは,人の優しさ,温かさを感じることができる名作を,多く残された方です。



その代表作は,「最後の一葉」でしょう。重い病気で入院中のジョンシーは,窓から見える木に残された葉が落ちてしまったら,自分も死ぬのだ,と思っている女性です。



もう一人の登場人物は,絵描きのベールマン老人です。ベールマン老人は,40年間絵筆を振るってきたものの,作者のOヘンリー曰く「芸術の落伍者」でした。ベールマン老人は,口癖のように,「いつか傑作を描く」と言いながら,その傑作を描くために購入したカンヴァスに,何も描けずにいました。



その二人の間に起こった出来事は,まさに「人の優しさ,温かさ」そのもののことだったのです。



Oヘンリーは,他にも珠玉の名作群を残されました。とても貧しい生活をしている若い夫婦が,せめてクリスマス・イブには贈り物をしようとした日の出来事を描いた「賢者の贈りもの」は,多くの方がご存じなのではないでしょうか。







そのように,Oヘンリーは,今でも世界中の人々に愛され続ける作品を残された方です。でも,実はOヘンリーは,35歳だった1897年に,妻と子を亡くし,さらにその翌年の1898年に,勤務先の銀行の金を自分が経営していた週刊誌の経営のために流用した罪で有罪判決を受け,懲役5年の刑に服した経験があるのです(『オー・ヘンリー傑作選』(岩波文庫,1979年)257頁)。



しかしながら,Oヘンリーは,その後,本格的に文筆活動を行い,作品を書き続けたのです。1910年に47歳で亡くなるまでに,13冊の短編集と,272の作品を残しました。Oヘンリーがその人気の絶頂を迎えたのは,その死後のことでした。



Oヘンリーが,世界中のいかなる国の人が読んでも,「人の優しさ,温かさ」を感じる,そして世界中の人々に愛される作品を生み出すことができたのは,ひょっとすると,妻と子を亡くし,その直後に懲役刑を受けるという,これ以上想像できないような辛い思いをしたからなのかもしれません。







賛美歌の「アメイジング・グレイス」は,1725年にイギリスで生まれたジョン・ニュートンが作詞をした作品です(作曲者は分かっていません)。日本では,オリジナルの曲のみでなく,2005年に亡くなられた本田美奈子さんの歌った曲も愛されていますね。



実は,その世界中で愛されている「アメイジング・グレイス」の作詞をしたジョン・ニュートンは,自らが船を運転しながら,奴隷貿易を行い,巨万の富を得た人でした。



それが,ジョン・ニュートンが22歳の時,船長として乗っていた船が嵐に遭いました。彼は神に祈り,難を逃れました。



その後,ひょっとするとその嵐は,奴隷貿易を行っている自分に対する神の怒りだったのだ,と思ったのでしょうか,ジョン・ニュートンは,船を降り,勉学を重ね,牧師になったのです。



そして書かれたのが,「アメイジング・グレイス」です。「アメイジング・グレイス」は,奴隷貿易に関わったことに対する後悔・懺悔の念と,それにも関わらず赦しを与えてくれた神への感謝の気持ちが歌われている,と言われています。



ジョン・ニュートンが,やはり世界中のいかなる国の人の心をも捉える曲を作ることができたのは,奴隷貿易という過ちに関わり,そこで奴隷の人達に起きたこと,自分がしてしまったことを直視し,心からそれを悔いたからこそなのかもしれません。







前回の記事「ノルウェイの森とサンタクロース」でも引用いたしましたね。


アメリカのサン新聞は,「サンタクロースはいないの?」という8歳の少女の問いに,「サンタクロースはいるのです。大切なものは目には見えないのですよ。」と社説で答えました。


またサンテクジュペリは「星の王子さま」で,「いちばん大事なものは,目には見えない」と書きました。







この世では,大切なものは目には見えないのだとするならば,そして,でも人はそれを感じることができるのだとするならば,ひょっとするとOヘンリーとジョン・ニュートンは,過ちを犯したことで,そしてその過ちを心から悔やむことで,それまで見ることも,感じることもできなかった大切なものを,感じることができるようになったのかもしれません。



いや,ひょっとすると,過ちを犯し,それに打ちひしがれた二人には,私達が見ることができないものを,見ることができるようになったのかもしれません。



過ちを犯した人だけが感じることができること,見ることができることが,あるのかもしれませんね。







実は今日,予期せず,いつも私を可愛がってくださる先輩弁護士からご連絡をいただきました。その先輩弁護士の事務所に参りましたら,先輩弁護士とその奥様が,届いたばかりのカステラを,御馳走してくださいました。




その先輩弁護士のブログです。


http://ameblo.jp/ogmomo/



カステラの写真です。





弁護士作花知志のブログ





今日は,私にとっても,思わない形で,人の優しさ,温かさを感じることができた日でした。もちろん,その優しさ,温かさは,私の目には見えないものでしたが,私は確かに,それを感じることができたのです。



先輩弁護士,そして奥様。カステラと温かいおもてなしを,ありがとうございました。今日いただいた「目には見えないもの」を大切にして,また明日から頑張っていきたいと思います。



カステラは目に見えましたが。