Perfume(パフューム)は,広島県出身の女性3人組「テクノポップユニット」です。今とても人気のあるポップグループですね。
パフュームには「エレクトロ・ワールド」という曲があります。実はこの世界は作り上げられた虚偶の世界で,誰かがスイッチを押してしまったために,もうすぐ消えてしまう,という内容の曲です。
いわゆる税金について争われるのが税務訴訟と言われる訴訟です。国や地方公共団体が主張する納税額と,納税者が主張する納税額が異なる場合に提起されるのが税務訴訟です。それはまさに数字で作り上げられた世界でありまして,国などに対して主張をしますと,あたかも数字の世界を刀で切っている感覚を覚えます。私は税務訴訟を担当していると,必ずパフュームの「エレクトロ・ワールド」を思い出すのです。
日本では,弁護士で税務関係を扱う方はあまり多くありません。そのことから,日本の税務について,法の支配は本当に確立しているのか,などと言われることもあります。国などが主張している納税額が,本当に法律に基づいた金額なのかが問題なのですが,税務調査に入られたら,法律は別にして,和解的に納税してしまうケースが多いということも聞きます。
その一方で,外国では「タックス・ロイヤー」といわれる弁護士がいます。以前にもご紹介した阿川尚之さんの『アメリカン・ロイヤーの誕生』(中公新書,1986年)123頁には,ロースクールの学生の採用面談で,国際税法について楽しそうに話をする弁護士が登場します。また,私が以前オランダ・ハーグの国際刑事裁判所及び国際刑事弁護士会に参った際にお会いしたドイツの弁護士は,「自分はcriminal lawyer(刑事弁護専門弁護士)だ。でも妻はtax lawyer(税務専門弁護士)なんだ。」と言われていました。
考えてみれば,アメリカ独立戦争のきっかけとなったボストン茶会事件(Boston tea party)は,イギリスによる重税に怒った植民地のアメリカ人が,アメリカ・インディアンに扮装して,港に停泊中のイギリス船に進入し,東インド会社の紅茶の船荷を海に投げ捨てた事件でした。また,フランス革命も,重税に対する怒りから起こったものでした。税という問題は,実は国家社会の存立そのものに関わるものなのです。その意味で私は,今後も税務訴訟を積極的に手がけていけたら,と考えております。
さて,税について,1つ面白い判決がありますので,ご紹介いたします。EUの欧州司法裁判所の判決です。
「ケーキかビスケットか? 課税をめぐり英国で論争(2007年4月15日配信産経新聞掲載の記事より)
10年以上も課税対象のビスケットに分類されてきた英小売店チェーン、マークス・アンド・スペンサー(M&S)の『チョコレート・ティーケーキ』について欧州司法裁判所はこのほど,非課税の『ケーキ』と判断した。最終判断は英上院の上訴委員会に委ねられるが,総額350万ポンド(6億9000万円)の税金を返還しなければならない恐れがある英歳入関税庁は大あわてだ。
英BBC放送によると,英国の税制では,製パン店でつくられるパンやケーキなど昔ながらの食品は非課税だが,シリアルバーやビスケットには17・5%の付加価値税がかかる。問題のチョコレート・ティーケーキは外見が菓子のように見えるためか,1994年にビスケットと認定され,課税対象となった。
これを不服として法廷闘争を続けてきたM&Sは『私たちの主張が支持された』と大喜びだが、歳入関税庁は『コメントは時期尚早』と渋い顔だ。」
伝統を重んじるイギリスの社会で,長い間「ビスケット」であるとされてきたものが,欧州司法裁判所によって,それは「ケーキ」である,とされてしまい,イギリスの税務当局の方々があわててらっしゃる姿が目に浮かぶようで,クスッと笑いがこぼれそうな判決ですね。私はこの判決がとても好きなのです。