以前のNHKの放送で,ノルウエーの刑務所,刑罰についての紹介がありました。「犯罪学者ニルス・クリスティ~囚人にやさしい国から~」という番組です。
アメリカなど,犯罪に対して厳罰化を進める国では,「スリーストライク法」という法律を制定して,同じ人が3回犯罪を犯すと,3回目には非常に長期の懲役刑を受けるようにしているそうです。
その結果,刑務所には非常に多くの受刑者が収容され,ベットを並べた部屋で横になるだけで,何ら教育的なことを受けず,逆に病気が蔓延するだけとなっているとの報告があるようです。その結果,その受刑者が長期間の刑を受け終えた後も,再び犯罪を犯す割合が高くなっているそうです。
それに対して興味深いのが,ノルウエーの実践例です。ノルウエーでは,犯罪を犯す人は,社会性,言い換えれば人との接し方の学び方が十分ではない人なのだ,という理念に基づき,例えば,受刑中もできるだけ普段の生活に近い生活環境で生活ができるようにしており,受刑中でも行いの良い者は,週末に自宅に帰ることを認めているそうです。それはまさに,「刑罰」という言葉から通常想像されるものとは異なる「教育」を与えていることになります。
ノルウエーの刑罰論は,修復的司法で著名な,オスロ大学の教授であるニルス・クリスティの立場に基づき立法化されています。ニルスの著作は,『人が人を裁くとき―裁判員のための修復的司法入門』(有信堂,2006年)でも読むことができます。
実はノルウエーは,参審制を採っており,日本の裁判員制度導入に際しても,参考とされた国なのだそうです。番組のあるシーンでは,被告人の裁判に関わった参審員がその被告人について,「彼を更生させて,再び社会に受け容れるためには,長期間部屋に閉じこめておくだけでは,だめなのではないか。」と言うコメントをする場面がありました。この視点は,日本の裁判員裁判でも多いに参考になると思います。
裁判員裁判は,これまでの法律の専門家だけの裁判に,市民の方々に裁判員として参加していただき,専門家にはない視点から事件に光を当てていただくものです。そして何よりも大切なことは,その社会で起きた事件を,その社会の市民の方々が参加して判決が出され,有罪であったとすると,一定の刑期を終えた被告人は,再びその市民の方々が生活している社会に戻ってくる,ということです。
被告人が再び同じ社会に戻る時のことを考えると,どのような判決内容にするべきなのか,どのような判決内容ならば,被告人はその刑に真摯に向き合ってくれるのか,そして社会に戻った時,再び過ちを犯さないために,どのような経験を刑務所でしてもらえばいいのか。これらの問題は,すべて裁判員となる市民の方々と法律家とで,一緒に考えていく必要があるものです。
これまでのブログでもお話しましたが,法律学には正解がなく,紙の上に書かれた活字としての法律に意味を与えるのは私たちです。私たちは,これまでの裁判,刑罰というものに拘束されるのではなく,裁判員裁判の施行をきっかけとして,全く新しい視点から,あるべき社会,あるべき刑罰論を考えていく必要があるのではないでしょうか。