2008年の9月に,アメリカのフロリダ州の裁判所に,宇宙旅行の旅行代金の返還を求める訴訟が提起されました。



訴訟を起こしたのは日本人の方で,約22億円をアメリカの旅行会社に払い,ロシアの宇宙船「ソユーズ」で国際宇宙ステーションに飛行する10日間の宇宙旅行を予定していました。



ところが,打ち上げの1ヶ月前になり,その方の体に,宇宙旅行に耐えられない事情が見つかった,という理由から,宇宙旅行は取りやめになりました。そして,その宇宙旅行についての約款には,「申込者の健康上の理由により,宇宙旅行が取りやめになった場合には,宇宙旅行の代金は返還しない。」という条項があったのです。



その条項を理由に,旅行会社が22億円の返還を拒んだために,訴訟となったということです。これはおそらく世界初の宇宙旅行訴訟なのではないかと思います。


仮に,そのような事件が日本の裁判所で訴訟となった場合には,消費者契約法(同法4条など。特に,同法10条「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合と比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。」の規定が問題となります。)の問題もあり,微妙な判断を求められそうです。



ある宇宙旅行関係の方とお話をさせていただいた際には,上述しましたアメリカのフロリダ州での訴訟につき,宇宙ステーション滞在旅行は席自体の買い取り契約だから,返金ということは無理だ,という話をされていました。


ただ,その席で見せていただいた契約書の日本語訳を見ますと,単なる無重力体験旅行の契約についても,申込者の体調の問題が発生して旅行に行けなくとも返金しない,との条項が書かれていたので,それは宇宙ステーション滞在旅行固有の問題ではなく,宇宙旅行一般の問題ではないかと思います。その意味で,返金がされないということをどの程度具体的に説明したのか,という点が,今後訴訟で問題とされることもあるのではないか,との感想を持ちました。



訴訟になるとすると,少し考えただけでも,その訴訟はアメリカの裁判所で起こすのか,それとも日本の裁判所ででも起こせるのか,という問題や,適用される法律は日本の法律なのか,それともアメリカの法律なのか,という問題がありそうですね。



また,その判決の内容そのものについても,裁判官としては,今まで判例もなく,教科書にも書かれていない問題を,宇宙時代,宇宙旅行時代のあるべき姿を予言して,判決を下すことになります。



それはまさに,新しい社会問題につき,法の解釈を通して,あるべき社会を実現していくという司法作用そのものだと言えるでしょう。