筒井康隆という異色の文豪の代表作は、何といっても「七瀬三部作」だろう。
これは、火田 七瀬(ひた ななせ)という若い女性を主人公とした3部作である。
彼女は、「テレパス」(精神感応能力者)と呼ばれる超能力を持つ人間なのである。
この女性を中心にした数々の事件を描いている三部作で、筒井康隆の最も真面目で感動的な大作だ。
SF小説『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』の3作から構成される。
この3作は七瀬シリーズあるいは七瀬三部作と総称されている。
2010年時点でシリーズ累計で430万部を発行されたベストセラーである。
筒井としては唯一のシリーズ作品である。
すでに『家族八景』は何度もテレビドラマ化されており、『七瀬ふたたび』は1度映画化されている。
『エディプスの恋人』はまだ映像化作品はない。
まずは、『家族八景』からレビューして行きたい。
「家族八景」(テレビドラマ)
原作は、1970年から1971年にかけて『小説新潮』『別冊小説新潮』に掲載された筒井康隆の1話完結の8編の短篇小説からなる。
それぞれの短編のタイトルは、「無風地帯」「澱の呪縛」「青春讃歌」「水蜜桃」「紅蓮菩薩」「芝生は緑」「日曜画家」「亡母渇仰」。
第67回直木賞候補作。筒井にとっても3度目にして最後の直木賞候補だった。
司馬遼太郎が『朝日新聞』記者に本命視することを示唆し、下馬評が高いことから筒井も期待していたが落選した。
この小説は、テレパスの才能を持つヒロインが、たくさんの家にお手伝いさんとして住み込むが、その都度いじめやセクハラに会いながら、必死に働き、必死に身を守るという笑える作品になっている。
ホラー度は低い。
とにかく人の心のうちが分かってしまうので、家族がそれぞれ何を考えているかが察知できてしまうところが実に愉快だ。
あらすじ:
18歳の火田七瀬は人の心を読めてしまう精神感応能力者(テレパス)の女性である。
高校卒業後、住み込みのお手伝いとなり、様々な家庭を転々とする。
家族それぞれの内面を読んでしまうことで、行く先々の家庭に亀裂や事件を起こしてしまう。
女性として肉体的成熟を迎えて性的な関心を向けられるようになり、20歳を迎える最終話でお手伝いをやめることを決意する。
1979年版
七瀬シリーズの初映像作品で、七瀬役は多岐川裕美が演じた。
多岐川によると、シャワーを浴びると人の心が読めるという設定でコメディー調のドラマだったという。
NHKの少年ドラマシリーズで放送されたシリーズ続編『七瀬ふたたび』で多岐川は七瀬役を演じており、『東芝日曜劇場』の話があった際、多岐川の七瀬を気に入った原作者の筒井が推薦したことで再び七瀬を演じることになったという。
キャスト(1979年版)
- 火田七瀬 - 多岐川裕美
- 高木輝夫 - 山本学
- 高木直子 - 佐藤オリエ
- 市川省吾 - 中丸忠雄
- 市川秀子 - 白川由美
- 渡辺安子
- 阿部弥一郎
スタッフ(1979年版)
- 原作:筒井康隆『家族八景』(新潮社)
- 脚本:キノトール
- 音楽:田村洋
- 演出:岸本能夫
- プロデューサー:渡瀬一男
- 制作:RKB毎日放送
1986年版
1986年1月30日に、フジテレビ系列の木曜ドラマストリート枠にて『家族八景 18歳の家政婦は見た!! すべての秘密は今暴かれる?』のタイトルで放送され、七瀬役は堀ちえみが演じた。
キャスト(1986年版)
- 火田七瀬 - 堀ちえみ
- 桐生照子 - 丹阿弥谷津子
- 桐生勝美 - 山谷初男
- 桐生竜一 - 岡本富士太
- 桐生綾子 - 中村晃子
- 桐生新二 - 寺泉憲
- 桐生菊子 - 根本律子
- 神波兼子 - 石井富子
- 神波浩一郎 - 沼田爆
- 先輩家政婦 - 山田スミ子、浅利香津代
- 定年退職した男 - 奥村公延
- スリ - 不破万作
- 火田精一郎 - 大石吾朗
- 友愛家政婦紹介所所長 - 初井言榮
スタッフ(1986年版)
- 原作: 筒井康隆『家族八景』(新潮社)
- 脚本: 剣持亘
- 音楽: 小六禮次郎
- 演出: 山本邦彦
- 製作:大映テレビ、フジテレビ
2012年版
2012年1月より、毎日放送(MBS)制作・TBS系列の深夜ドラマ枠にて『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad』(かぞくはっけい ナナセ・テレパシー・ガールズ・バラッド)のタイトルで放送された。木南晴夏は本作が連続ドラマ初主演となる。
七瀬が心の声を読むシーンでは、七瀬には勤務先の家の人々の心の声がただ聞こえるだけでなく、第1話では裸になっているなど毎回何らかの奇妙な姿に変わって見え、その人の本心がより具体的に現れる演出となっている。
事前番宣番組『異色の新ドラマ!! 家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad Navi〜家政婦の火田はミタSP〜』の中で、堤幸彦が自身なりの解釈をしたポイントとして語っている。
心を読まれた人の内面の声は木南が担当する。七瀬の年齢はこのドラマでは20歳に設定されている。
他の登場人物にも原作と異なる年齢設定がある。
第7話「知と欲」は原作にはないエピソードとして追加されている。
また各エピソードの順序も原作とは異なっており、原作最終話は「亡母渇仰」であったが、ドラマ版では「芝生は緑」となっている。
2012年2月10日、16日、23日の3回にわたってニコニコ生放送で『家族八景Presents 七瀬の夜語り』と題したトーク番組が配信され、木南晴夏とゲストが出演して撮影の裏話などを語った。
ゲストは、佐藤二朗(2月10日)、大月俊倫(2月16日)、堤幸彦(2月23日)。
メイキングを収録した映像特典付きのブルーレイとDVDが期間限定版として2012年6月6日に発売。
キャスト(2012年版)
- 主人公
-
- 火田 七瀬 (20) / 心の声 - 木南晴夏
- ゲスト
-
- 第1話
- 尾形 咲子 (44) - 葉山レイコ
- 尾形 叡子 (22) - 水崎綾女
- 尾形 潤一 (20) - 木村了
- 尾形 久国 (50) - 西岡徳馬
- 節子 (28) - 星野あかり
- 木田 (24) - 栗城秀
- 第2話
- 桐生 勝美 (57) - 田山涼成
- 桐生 照子 (59) - 千葉雅子
- 桐生 竜一 (31) - 正名僕蔵
- 桐生 綾子 (29) - 佐藤寛子
- 桐生 忠二 (17) - 須賀健太
- 桐生 彰 (7) - 池澤巧
- 第3話
- 神波 浩一郎 (50) - 橋本じゅん
- 神波 兼子 (46) - 清水ミチコ
- 神波 慎一 (23) - 山本浩司
- 神波 明夫 (21) - 浜野謙太
- 神波 道子 (17) - 茜音
- 神波 良三 (16) - 岡本拓朗
- 神波 敬介 (14) - 野口翔馬
- 神波 五郎 (8) - 武井祐人
- 神波 悦子 (5) - 末原一乃
- 神波 六郎 (4) - 藤木夢現
- 第4話
- 河原 寿郎 (45) - 堀部圭亮
- 河原 陽子 (38) - 小沢真珠
- 修 (25) - 未来弥
- 第5話
- 根岸 新三 (36) - 眞島秀和
- 根岸 菊子 (29) - 井村空美
- 若い女 - 河原実乃梨
- 赤ん坊 - 小安正笑 / 佐藤美月
- 第6話
- 竹村 天洲 (52) - 矢島健一
- 竹村 登志 (45) - 石野真子
- 竹村 克己 (21) - 菊田大輔
- 梶原 里子 - 八代みなせ
- 落合 美佐 - 真凛
- 第7話
- 山崎 潤三郎 (77) - 本田博太郎
- 山崎 洋司 (42) - 鈴木一真
- 遠藤 恵理 (31) - 阿部真里
- 大藪 満寿夫 (48) - 徳井優
- 第8話
- 清水 信太郎 (36) - 黄川田将也
- 清水 幸江 (30) - 東風万智子
- 清水 恒子 (55) - 宍戸美和公
- 清水 茂蔵 (50) - 佐藤二朗
- 飯田 幸弘 (35) - 骨川道夫
- 清水 重良 (30) - 和知大祐
- 葬儀屋 - 松岡哲永
- 怪しい男 - 入月謙一
- 里山 - 種子
- 小森 - おのさなえ
- 坊主 - 池内直樹
- スーパーの客 - 勝平ともこ
- 第9 - 10話
- 市川 省吾 (37) - 西村和彦
- 市川 季子 (34) - 星野真里
- 高木 輝彦 (40) - 大河内浩
- 高木 直子 (37) - 野波麻帆
- 第1話
スタッフ(2012年版)
- 原作:筒井康隆『家族八景』(新潮社)
- 脚本:佐藤二朗、池田鉄洋、前田司郎、江本純子、上田誠
- 音楽:野崎良太(Jazztronik)
- 主題歌:南波志帆「少女、ふたたび」(ポニーキャニオン)
- EDダンサー:川名咲貴
- 企画:大月俊倫、菅井敦、丸山博雄
- プロデューサー:平部隆明、神康幸、竹園元、深迫康之
- 監督:堤幸彦、深迫康之、白石達也、高橋洋人、藤原知之
- 制作:ホリプロ
- 制作協力:オフィスクレッシェンド
- 製作:「家族八景」製作委員会、MBS
各話のタイトルとあらすじ:
■ 第一話 無風地帯
脚本:佐藤二朗 演出:堤幸彦
(ゲスト)葉山レイコ、水崎綾女、木村了、西岡徳馬/ほか
尾形家は、家長・久国、妻・咲子、長女・叡子、長男・潤一の四人家族。潤一はナイショで父と同じ女性とつきあっていて、叡子は大学の先輩に夢中と、家族の心の中はセックスのことばかり。その中でひとり家事のことだけ考えている咲子に七瀬は興味をもつが……。
■ 第二話 水蜜桃
脚本:佐藤二朗 演出:堤幸彦
(ゲスト)田山涼成、千葉雅子、正名僕蔵、佐藤寛子、須賀健太/ほか
桐生家の家長・勝美は2年前に定年退職後、ずっと家でブラブラし続け、家族からは疎まれている。やがて勝美は七瀬に水蜜桃のイメージを重ね、彼女を抱けば若さを取り戻せると妄想を抱くようになる。ついに夜ばいをかけてきた勝美に七瀬は……。
■ 第三話 澱の呪縛
脚本:池田鉄洋 演出:白石達也
(ゲスト)清水ミチコ、浜野謙太、山本浩司、橋本じゅん
古書店を営む神波家は、とても不潔な家で異臭にまみれていた。妻・兼子(清水ミチコ)のずぼらな性格が影響し、8人の子供達もだらしなく育ってしまったのだ。あまりのニオイに耐えかねた七瀬(木南晴夏)は奮起して大掃除するが、なぜか一家は七瀬を敵視する。
■ 第四話 青春讃歌
脚本:江本純子 演出:高橋洋人
(ゲスト)小沢真珠、堀部圭亮
河原家は夫婦仲がよろしくない。妻・陽子(小沢真珠)は38歳という年齢のわりに若くエネルギッシュで、年下の男性に夢中。45歳の夫・寿郎(堀部圭亮)は中年には中年の良さがあるのだから年齢相応であれ、という考え方で陽子の行動に否定的だ。ある時から陽子は七瀬(木南晴夏)の若さをうらやみはじめて……。
■ 第五話 紅蓮菩薩
脚本:佐藤二朗 演出:深迫康之
(ゲスト)眞島秀和、井村空美
根岸新三(眞島秀和)と菊子(井村空美)夫妻には生後10ヶ月の赤ん坊がいる。一見幸せそうな夫婦だが、実は新三は浮気をしていた。菊子はそのことを知りながらもできる妻を演じている。
新三は心理学の教授で、偶然にも以前、七瀬の父親をESP能力の測定に参加させていたことがわかる。七瀬の父は高い能力を示していたことを思い出した新三は、娘・七瀬(木南晴夏)にも遺伝しているのでは?と興味を抱く。ついに七瀬の能力は発見されてしまうのか……?
■ 第六話 日曜画家
脚本:佐藤二朗 演出:白石達也
(ゲスト)矢島健一、石野真子、菊田大輔
竹村家の家長・天州(矢島健一)は平日は会社に勤め、休日は家で絵を描いている「日曜画家」。かつては新聞の挿絵も描いたことがあったが、今はお金になる絵をまったく描いていないため、妻・登志(石野真子)を苛立たせていた。芸術家だけに天州の心の中はとても特殊で図形で表されている。
そんな中で、七瀬(木南晴夏)のことだけは「雪」のイメージになっているのを見て、七瀬は少し天州に好感をもつ。
■ 第七話 知と欲
脚本:前田司郎 演出:深迫康之
(ゲスト)本田博太郎、鈴木一真、阿部真里、徳井優
山崎家は、老境に入った人気脚本家の潤三郎(本田博太郎)と息子・洋司(鈴木一真)のふたり暮らし。潤三郎は映画にもなったヒット作をもつ巨匠だが、最近、執筆が思うように進まない。彼の元に脚本をとりにやってくるテレビ局の若い女性プロデューサー遠藤恵理(阿部真里)の心の中を七瀬(木南晴夏)が読むと、彼女が潤三郎にあまり期待していないことがわかった。
もう一度、創作の炎を燃やしたい……潤三郎の考えた作戦は、七瀬を驚かせる。
■ 第八話 亡母渇仰
脚本:前田司郎 演出:藤原知之
(ゲスト)東風万智子、黄川田将也、佐藤二朗
清水家の女主人・恒子(宍戸美和公)が死んだ。葬式でひとり息子・信太郎(黄川田将也)は泣いてばかりで参列者は皆、呆れている。七瀬(木南晴夏)が信太郎の心を読んだところ、彼は極度のマザコンで母親にはげしく依存していた。
恒子は信太郎の妻・幸江(東風万智子)にいつもきつく当たり、信太郎にも幸江よりも恒子がいないと何もできないと思い込ませていた。
静かな葬式の席だが、実は心の中では皆様々な考えを巡らせている。参列者の様々な心の声を聞いていた七瀬は、そこに思いがけない声をキャッチし戦慄を覚える……
■ 第九話 芝生は緑~市川家編~
脚本:上田誠 演出:堤幸彦
(ゲスト)西村和彦、星野真里、大河内浩、野波麻帆
設計士の市川省吾(西村和彦)は、スーパーの内装設計のため一週間、自宅マンションに籠ることに。
七瀬(木南晴夏)は、その間、妻・季子(星野真里)のサポートをするために雇われた。仕事が忙しくなってくると省吾の感情は昂って、季子のやることなすことがいちいち気に入らず、怒ってばかり。
省吾は、ダメな妻よりもマンションの隣の部屋に住む高木家の妻・直子(野波麻帆)にベタ惚れだった。
一方、季子のほうも、かかりつけの医者に夢中。その医者の素性を知って、七瀬はすっかり呆れてしまう……。
■ 最終回 芝生は緑~高木家編~
脚本:上田誠 演出:堤幸彦
(ゲスト)大河内浩、野波麻帆、西村和彦、星野真里
市川家での雇用契約期間が終った七瀬(木南晴夏)は、今度はお隣の高木家の家政婦をすることになった。
高木直子(野波麻帆)の市川省吾(西村和彦)に対する思い、高木輝夫(大河内浩)の市川季子(星野真里)への言葉にならない思いを読むたび、七瀬は許し難い気持ちを抱いていく。
この4人の不道徳さを戒めることが超能力者としての使命だと考えた七瀬は、大それた実験をすることを決意。それは4人の不倫願望を実現させるというものだった。
七瀬はテレパシーを駆使して、直子と省吾、輝夫と季子を急接近させていく。ついに二組の夫婦の関係性に変化が……。
このドラマは、これまでの中で最も人気があった作品である。
特にヒロイン七瀬を演じた木南晴夏の存在感が光っている。
家族八景(2012)の動画配信はこちらから: