「イナゴの日」
(原題: The Day of the Locust)
1975年5月7日公開。
1930年代後半のハリウッドを舞台に、そこで蠢く赤裸々な人間群像を描く。
サザーランドのぶっ飛んだ演技が際立つ異色作。
興行収入:$17,793,000。
脚本:ウォルド・ソルト
監督:ジョン・シュレシンジャー
キャスト:
ホーマー・シンプソン:ドナルド・サザーランド
トッド・ハケット:ウィリアム・アザートン
フェイ:カレン・ブラック
ハリー・グリーナー:バージェス・メレディス
アール・シェープ:ボブ・ホプキンズ
クロード・エスティ:リチャード・A・ダイサート
ビッグ・シスター:ジェラルディン・ペイジ
あらすじ:
1938年、ハリウッドの秋。
エール大学を卒業したトッド・ハケット(ウィリアム・アザートン)は、ある大手映画会社の美術部に就職することになり、はるばる東部からハリウッドにやって来た。
新入社員の安月給でトッドがやっと見つけた住み家は、サン・ベルドゥという安アパート。
トッドの部屋から小さな庭をへだてた向かい側には、グリーナー父娘が住んでいた。
父親のハリー・グリーナー(バージェス・メレディス)は以前はボードビリアンだったが、今は「ミラクル」という洗剤を売り歩くセールスマン。
娘のフェイ(カレン・ブラック)は映画のエキストラで、輝かしい映画スターになることにあくなき夢を抱いていた。
そのフェイとトッドがドライブに行った帰り、フェイは自分がエキストラとして出たエディ・カンターの映画を、ボーイ・フレンド、アール・シェープ(ボブ・ホプキンズ)と見に行くので一緒に来ないかと彼を誘った。
トッドはその誘いに応じるが、不機嫌なアールの態度から、彼がトッドをライバル視していることは明らかだった。
トッドはフェイに夢中になった。
だが彼女は、十分気があるそぶりを見せながら、体を許そうとはしなかった。
私生活ではフェイに翻弄されたかたちのトッドだが、撮影所では美術監督のクロード・エスティ(リチャード・A・ダイサート)に気に入られ、新作の「ウォータールーの戦い」のセット・デザインを担当するなどまあまあのスタートを切った。
その頃、フェイの父親がセールス先の家で倒れてしまう。
その家に住んでいたのは、アイオワ州の田舎町ウエインズビルから出てきた経理事務員で陰気なホーマー・シンプソン(ドナルド・サザーランド)という男だった。
倒れた父親を引き取りにきたフェイは、この孤独な男に強烈な印象を与えた。
その日からホーマーは、フェイの愛情を求め、おずおずとサン・ベルドゥに姿を見せるようになった。
だがその度に、ませた金髪の子役アドールはホーマーをからかい、あくどいいたずらをしかけるのだった。
ある夜トッドは、フェイ、アールと共に夜のピクニックと称し、ハリウッドの丘の上に住みついている浮浪者のキャンプを訪れる。
酒がまわるにつれ、キャンプファイヤーのまわりは乱れる。
アールはミゲルという闘鶏を飼うミュージシャンとフェイを張り合い、一方トッドは酔った勢いでフェイを襲うが、みじめにも失敗する。
一方、ハリーの病状は悪化の一途をたどる。
ビッグ・シスター(ジェラルディン・ペイジ)という新興宗教の女教祖を信心しているホーマーは、ビッグ・シスターならハリーの病気を治せるとフェイを説き伏せ、その集会に重病のハリーを連れだす。
だが数日後、ビッグ・シスターの祈祷のかいもなくハリーは死んだ。
それが契機になって、フェイとホーマーは同棲を始めるが、気ままなフェイがミゲルとアールを勝手に車庫に住まわせても、ホーマーは何ともいえない。
「ウォータールーの戦い」の撮影が始まった。
トッドはエキストラ群の中にフェイとアールの姿を認めた。カメラが回り出す。
そのときトッドは、未完成のセットに立ててあった『立入禁止』の立て札がとり払われているのに気がついた。
数百人のエキストラが、崩れた足場から地面に転落する。
幸いフェイは無事だった。
数日後、トッドは久しぶりでフェイとホーマーに誘われてナイトクラブへ出かけるが、その席でフェイが人前にも構わず気の弱いホーマーをなじり、愚弄するのを見て驚く。
そのホーマーがフェイを諦めて故郷のアイオワに引き揚げることにしたと、悲しげにトッドに打ち明けた。
その夜、ハリウッドのサンセット・ブルバードは華やかなプレミア・ショーが開かれるためにライトで煌々と照らされ、スターを一眼見ようという群衆で埋めつくされていた。
トッドはその群衆の中から、トランクをさげ、人ごみをかきわけながらバス停に向かうホーマーを見つけ、話しかけようとするが、ホーマーはトッドの手を荒々しく押しのけた。
なおも群衆をかきわけて歩くホーマーの眼の前に、金髪の少年アドールが立ちふさがり、例によって悪態をつくと突然彼の頭に石を投げつける。
この瞬間、あらゆる人間に対して抑えに抑えていたホーマーの怒りが一挙に爆発する。
少年を道路わきの駐車場に追いつめたホーマーは、その場で少年を踏み殺してしまう。
この光景を目撃した群衆は、リンチを叫びながらホーマーを大通りにひきずり出し、文字通り八つ裂きにしてしまう。トッドはなす術もなくただ呆然と見つめていたが、この狂乱が、いつか映画で描きたいと思っていた「ロサンゼルス炎上」という作品のスケッチとダブる。
車に火を放ち、店を掠奪し、映画館を焼き払う暴徒の群……。
それは現実の出来事であったのだろうか、トッドの心が描いた天の啓示であっただろうか……。
それから数日後、フェイがサン・ベルドゥに戻ってきて、トッドの部屋のドアをノックするが、応えはなく、家財道具も全て消えていた。
コメント:
アメリカの作家ナサニエル・ウェストの1939年の同名小説を原作とする作品。
1930年代のハリウッドの裏側を描いたもので、タイトルの意味はクライマックスで明らかとなる。
ハリウッドの映画界では下層の人々を中心にした、虚飾の物語が綴られている。
この手のリアルな幻滅映画は、ある程度年数を経てから観ると意外と興味深いし、すこぶる面白い。
美術部での職を得たトッド青年とは裏腹に、エキストラ女優フェイは一向に芽が出ない。
そのうちフェイは、父親の死をきっかけに、熱心なキリスト教信徒の中年男性ホーマー(ドナルド・サザーランド)と同棲することになるが、浮ついた欲望は抑えることができず、カウボーイの元ボーイフレンドをホーマー宅に同宿させ、裏では生活のためにコールガールの仕事もするようになる。
さらに、禁欲的生活をし、その特異な風貌からナチスドイツのスパイと揶揄されるホーマーは、無軌道なフェイの行動を前に、次第に精神を病んでいく・・・
もう、とにかく、希望なんてないドラマ展開になっている。
そして、最後の最後にタイトルの元となった一大カタストロフィがやって来る。
セシル・B・デミル監督の新作プレビューで沸き立つ大劇場の前、群衆の中で、覗き屋・スパイと隣家の子どもに囃子立てられたホーマーが、その子どもを踏み殺してしまうのを契機にして、劇場前に集まった観客たちがホーマーを血祭りにあげようと、暴徒と化してしまう。
その圧倒的なモブシーンは、先にトッド青年が絵コンテとして描いていた暗いシーンとオーバーラップし、さらにはヒトラーの侵攻・激化する戦争とも重なり合っていく・・・
このクライマックス、ほんとうに凄まじい。
だが、自分のなかにも、暴走する群衆と同じような血はあるかもしれないと思えてくる不思議な映画である。
コメディタッチな演技で世に出たドナルド・サザーランドだったが、何度もイメージの異なる役柄を演じ、次第に暗い作品が似合うようになってきていた。
そして今回この作品で演じたのは、気がくるって若者を踏み殺し、その復讐によって自らも殺されてしまうという最悪のキャラだ。
どこまで落ちていくのだろうと思させるサザーランドの迫真の演技が凄まじい。
こんなストーリーだが、興行的には、$17,793,000という、まあまあの中ヒットだった。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「ありきたりな映画というよりも、巨大なパノラマであり、原作者ウェストの冷静な散文を細部まで忠実に描いたスペクタクルであり、奇抜な作品よりも、聖書の叙事詩によく見られるものである」と評した。
さらにこう評価した。
「アメリカ文明を容赦なく嘲笑している。映画は決して微妙ではないが、それは問題ではない。たとえ144分であっても、映画に簡単に収めることができるよりもはるかに多くの素材が撮影されたようだ。それは投影された現実である。シュレジンジャー氏監督が主要なシーケンスを撮影したほとんど狂気の画面を尊重する。 」
タイム紙はこう批評した。
「『イナゴの日』は膨らみすぎて大袈裟に見え、甲高いように聞こえるのは、自己嫌悪と希薄な倫理的優越感の組み合わせで作られているからだ。これはウェストが嘲笑していたある種の精神性によって出来上がった映画だ。ソルトの脚色…最も重要なことを見逃している:ウェストの平然とした怒りと傾いた同情の口調、人間を最もグロテスクな嘲笑にさえする彼の能力である。」
シカゴ・サンタイムズ紙は「大胆で壮大な映画…時には素晴らしい映画で、鋭いエッジの効いた演技が豊富」と評し、ドナルド・サザーランドの演技を「この映画の驚異の一つ」として挙げた。
さらに、「最後の広大な比喩に向かう途中で、『イナゴの日』は登場人物たちへの関心を置き忘れている。我々は彼らが物語の要求に応えて行進しているのを感じ始めている。彼ら自身の人生を送る代わりに、私たちは彼らのことを心配するのをやめるのです。なぜなら、彼らはいずれにせよ運命にあり、必ずしも彼ら自身の欠点のせいではないからです。」
映画批評サイト・ Rotten Tomatoesでの肯定的評価は63%で、けっこう低い。
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