「タクシードライバー」
1976年2月8日公開。
元ベトナム帰還兵のタクシー運転手が自分の存在を示そうとする心のプロセスを追う異色ドラマ。
興行収入:$28,000,000。
受賞歴:
アカデミー賞主演男優賞ノミネート(ロバート・デ・ニーロ)
アカデミー賞助演女優賞ノミネート(ジョディ・フォスター)
脚本:ポール・シュレイダー
監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:
トラビス・ビックル: ロバート・デ・ニーロ
アイリス: ジョディ・フォスター
ベッツィ: シビル・シェパード
スポート: ハーヴェイ・カイテル
パランタイン上院議員: レナード・ハリス
あらすじ:
ニューヨーク。
毒々しい夜の色彩と光の洪水に飾りたてられたその『闇』をじっと見つめる虚ろな、しかし熱っぽい感情をこめた視線があった。
彼の名はトラビス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)。
タクシーの運転手である。
ベトナム戦争帰りの元海兵隊員で、戦争による深刻な不眠症を患っているため定職に就くこともままならず、タクシー会社に就職するが、深い闇の中にいた。
彼は他の運転手のように仕事場をきめておらず、客の命令するまま、高級地区だろうと黒人街だろうと、どんなところへも行く。
そんなトラビスを、仲間たちは守銭奴と仇名した。
ある日、トラビスは大統領候補パランタイン上院議員の選挙事務所に勤める美しい選挙運動員ベッツィ(シビル・シェパード)に目をつけた。
数日後、彼は事務所をたずね、選挙運動に参加したいとベッツィに申し込み、デートに誘うことに成功した。
だが、デートの日、トラビスはこともあろうに、ベッツィを風俗映画館に連れて行き、彼女を怒らせてしまう。
以来、トラビスはベッツィに花を贈ったり、電話をかけても、なしのつぶてだった。
毎日、街をタクシーで流すトラビスは、「この世の中は堕落し、汚れきっている。自分がクリーンにしてやる」という思いにとりつかれ、それはいつしか確信に近いものにまでなった。
そんなある日、麻薬患者、ポン引き、娼婦たちがたむろするイースト・ビレッジで、ポン引きのスポート(ハーヴェイ・カイテル)に追われた13歳のアイリス(ジョディ・フォスター)が、トラビスの車に逃げ込んできた。
トラビスはスポートに連れ去られるアイリスをいつまでも見送っていた。
やがて、トラビスは闇のルートで、マグナム、ウェッソン、ワルサーなどの強力な拳銃を買った。
そして射撃の訓練にはげみ、やがて4丁の拳銃と軍用ナイフを身体に携帯し、それらを手足のように使いこなせるまでになった。
ある夜、トラビスは食料品店を襲った黒人の強盗を射殺した。
この頃から、彼はタクシー仲間から『キラー』と呼ばれるようになった。
そしてアイリスとの再会。
泥沼から足を洗うように説得するトラビスは、運命的な使命を信じるようになった。
大統領候補パランタイン(レナード・ハリス)の大集会。
サングラスをかけモヒカン刈りにしたトラビスが現われる。
彼は拳銃を抜こうとしてシークレット・サービスに発見され、人ごみを利用して逃げた。
ダウンタウン。
トラビスはスポートのアパートを襲撃、重傷を負いながらもスポートをはじめ、用心棒、アイリスの客を射殺した。
アイリスは救われ、新聞はトラビスを英雄扱いにした。
やがて、トラビスは何事もなかったように、またタクシー稼業に戻るのだった。
コメント:
アメリカの繁栄に翳りが見え始めた1976年(昭和51年)の作品。
前年サイゴンが陥落して、約15年にも及んだベトナム戦争に実質的に敗北したアメリカ。
歴史上、初めての屈辱的な体験に喪失感と虚脱感が国全体に漂っていた。
その国民に蔓延している重苦しい雰囲気を見事に映画化した作品がこれ。
スコセッシ監督と、個性派デニーロが四つに組んで作り上げた名作。
ロバート・デ・ニーロは、「レイジングブル」ではなく、この映画でアカデミー賞をとるべきだったという声も多い。
正義感が空回りする青年期。
理想と現実のギャップ、思い通りにいかない人生。
何かひとつ大きなことをしてこの閉塞感をぶち壊したい。
そんな誰もがいつかは抱えていた焦燥感を、これほど可視化した映画は他にない。
トラビスが次第に狂気を帯びていく過程の演技が何度観ても胸に迫ってくる。
何年近く経っても今なお色褪せない、都会に生きる人間の心の闇を描く名作だ。
日本人にとっては、ベトナム戦争後にアメリカが抱えた若者の暗い焦燥感を扱った映像作品への理解は非常に困難なようで、この作品を単なる不良青年が自暴自棄になっただけのようにしか評価しない向きが多い。
現在アメリカで若年層に蔓延している政治不振や覚醒剤中毒などの問題は、この映画が公開された1976年頃からのベトナム戦争失敗による社会不安から始まったのだ。
そういった歴史背景を踏まえたハリウッド映画の鑑賞をお勧めしたい。
夜の世界で生計を立てる少女アイリスを演じたジョディ・フォスター。
公開当時わずか13歳であったことで大きな話題を呼んだ。
彼女は、この作品でデ・ニーロとの共演で演技に開眼したと語っており、突然アドリブを入れるなど、子役として活躍してきたフォスターには刺激的な体験となった。
本作で第49回アカデミー助演女優賞にノミネートされ、本格的に女優としての第一歩を歩み始めた。
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