「刺青(1966)」
1966年1月15日公開。
谷崎潤一郎の短編小説「刺青」&「お艶殺し」を映画化。
キャッチフレーズ:「妖しい官能の異常な世界にひきいれる谷崎文学の完全映画化!」
原作:谷崎潤一郎「刺青」、「お艶殺し」
脚本:新藤兼人
監督:増村保造
出演者:
若尾文子、長谷川明男、山本学、佐藤慶、須賀不二男、内田朝雄
あらすじ:
外に雪が舞うある夜。
質屋の娘お艶(若尾文子)は、恋しい手代の新助(長谷川明男)と手に手をとって駈け落ちした。
この二人を引きとったのは、店に出入りする遊び人の権次(須賀不二男)夫婦だった。
はじめは、優しい言葉で二人を迎え入れた夫婦だったが、権次も所詮は悪党だ。
お艶の親元へ現われ何かと小金を巻きあげたあげくに、お艶を芸者として売りとばし、新助を殺そうとしていた。
だが、そんなこととはつゆ知らぬお艶と新助は、互いに求め合うまま狂おしい愛欲の日々をおくっていた。
しかし、そんなお艶のなまめかしい姿を、権次の下に出入りする刺青師清吉(山本学)は焼けつくような眼差しでみつめるのだった。
そして、とある雨の晩。
権次は、とうとう計画を実行に移し、殺し屋・三太を新助の下に差しむけた。
ところが、必死で抵抗した新助は、逆に三太を短刀で殺してしまった。
ちょうどそのころ、土蔵に閉じこめられていたお艶は、刺青師の清吉のために、麻薬をかがされ、気を失い、その白い肌一面に巨大な女郎蜘蛛の刺青をほどこされた。
恍惚として見守る清吉の姿は、刺青の美しさに魂を奪われたぬけがらのようであった。
やがて眠りから醒めたお艶は、この刺青によって眠っていた妖しい血を呼び起こされたように、その瞳は熱をおびて濡れていた。
それからというもの、お艶は辰巳芸者染吉と名を改め、次々と男を酔わせていった。
だが、昔のやさしいお艶の姿を忘れきれない新助は嫉妬に身をやき、染吉と関係を持った男を次々と殺し、ついにある夜、短刀を持って染吉に迫った。
だが新助には染吉を殺すことはできず、逆に染吉が新助を刺した。
一部始終をかいま見ていた清吉は、遂にたえきれず自らが彫った女郎蜘蛛を短刀で刺し、自らも命を絶った。
死んでいく染吉の顔には、すでに男をまどわした妖しい影はなく、優しいお艶の安らぎの顔があった。
コメント:
原作は、谷崎潤一郎の短編小説「刺青」(いれずみ)および「お艶殺し」(おつやごろし)の2作品。
原作は、質屋の娘お艶の物語「お艶殺し」と、刺青師清吉がある若い女性の美しい肌に惚れこんで女郎蜘蛛の入れ墨を彫り込んでしまう物語「刺青」の2作である。
この2つの短編小説を合併させて新たなシナリオで映画化しているのだ。
しかし、若尾文子主演で出来上がった作品を見ると、まったく不自然さがない一本の完成されたエロチックで恐ろしい映画になっているのだ。
若尾文子が演じる質屋の娘お艶は、名家のお嬢様ではなく、最初から蓮っ葉なビッチだ。
そして、自分を芸者にさせた男たちを手玉にとって、ことごとく復讐する悪女。
気づけば皆愛人の新助の手により死んでしまう。
女郎蜘蛛の背中フルヌードシーンは、少しふくよかだが、これはボディダブル(吹き替え)だという。
いずれにしても、妖艶という言葉は、本作が制作された1966年頃の若尾文子にこそ当てはまるのだろう。
これまで数多くの女性を演じてきた若尾文子が、本作で初めて、男を夢中にさせ、さらに男を手玉に取って殺しまくるという、美しい女郎蜘蛛に成り切っての熱演である。
おそらく若尾文子作品の中で最も憎たらしい悪女のキャラクターであろう。
本作は、若尾文子が増村監督と格闘して作った映画で、全編にわたる熱演が伝わってくる。
背中の蜘蛛が生きているようだ。
この妖艶さが堪らない。
独特の若尾文子の声にしびれる。
全編、絵画的な美しい構図と光と影のコントラスト。
さすが、名キャメラマン・宮川一夫だ。
谷崎潤一郎の小説での主人公は、女郎蜘蛛を掘られて人格が豹変してしまうのだが、映画のお艶は使用人と駆け落ちしようとする最初から肝の据わった娘という設定だ。
若尾文子に合わせた脚色になっている。
名脚本家でもある新藤兼人の手によるもの。
若尾文子の少し低いトーンの声は、時にドスがきいていて、時に甘ったるく、なんとも不思議な魅力がある。
これぞ若尾文子の世界だ。
あの当時は時代劇が多かったので、スター女優はみな和服での所作が美しいのだが、本作の若尾文子は格別の色気。
若尾文子の魅力を知り尽くした増村保造監督の演出が冴え渡っている。
愛人である手代の新助を演じる長谷川明男の熱演が際立っている。
本気で心中できる役柄を超えた演技だ。
脇役の、彫り物師に扮した山本学の青白い狂気の芸術家ぶりと、佐藤慶のスケベ旗本ぶりもハンパない。
こういう映画を創り上げた増村監督の演出のレベルの高さには脱帽だ。
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