日本の文芸映画 山本周五郎 「かあちゃん」 岸恵子主演・市川崑監督の感動の時代劇!  | 人生・嵐も晴れもあり!

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「かあちゃん」

 

 

「かあちゃん」 プレビュー

 

2001年11月10日公開。

岸恵子が演じる、江戸の長屋に生きる母の心意気が素晴らしい!

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞(岸恵子)。

興行収入:6億7700万円。

 

原作:山本周五郎

脚本:和田夏十、竹山洋

監督:市川崑 

 

キャスト:

  • おかつ:岸惠子
  • 勇吉:原田龍二
  • 市太:うじきつよし
  • おさん:勝野雅奈恵
  • 三之助:山崎裕太
  • 次郎:飯泉征貴
  • 七之助:紺野紘矢
  • 熊五郎:石倉三郎
  • 同心:宇崎竜童
  • 印半纏の男:中村梅雀
  • 禿げ老人:春風亭柳昇
  • 左官風の男:コロッケ
  • 商人風の男:江戸家小猫
  • 岡っ引:仁科貴
  • 居酒屋の亭主:横山あきお
  • 源さんの女房:阿栗きい
  • 居酒屋の小女:新村あゆみ
  • 源さん:尾藤イサオ
  • 易者:常田富士男
  • 大家:小沢昭一

 

 

あらすじ:

天保末期の江戸。

老中・水野忠邦による改革の効なく、江戸下層階級の窮乏は更に激化していた。

そんな中、若い泥棒・勇吉は、一家6人総出で働きづめ金を貯め込んでいるという噂のおかつの家に侵入する。

ところが、おかつたちが貯めている金は、3年前、生活に困った挙げ句、仕事場の帳場から盗みを働いたおかつの長男・市太の大工仲間である源さんが牢から出て来た時に、新しい仕事の元手にする為のものだったのだ。

そのことをおかつから聞かされた心根の優しい勇吉は、他人の為にそこまでやるおかつたちの気持ちに感動し、何も盗らずに去ろうとする。だが、そのままおかつに引き留められ、彼女の5人の子供たちと一緒に暮らすことになる。

やがて、おかつによって身元の証の書付まで用意して貰った勇吉は、市太の紹介で職にも就いた。

「俺ァ、生みの親にもこんなにされたことがなかった」。

ある日、勇吉は感謝の気持ちを口にした。

しかし、それを聞いたおかつは声を震わせて怒鳴った。

「子として親を悪く云うような人間は大嫌いだよ!」。

その言葉に、一層、人間を心底愛するおかつの心を知った勇吉は、心の中でそっと呟いた。

「かあちゃん」と。

 

 

コメント:

 

原作は、山本周五郎の同名短編小説。

山本周五郎が得意とした江戸時代に生きる人々を描いた時代小説。

中でもこの作品は傑作である。

 

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長屋で暮らす母六人一家と食い詰めた孤独な若い男が知り合ったことから、貧しくも他者のために懸命に生きる人々の姿を描く時代劇。

岸惠子の名演が光る。

初めての泥棒を試みた原田龍二演じる勇吉と大工熊五郎の長屋での顛末が一席の落語のように語られる。

掴みのプロローグだ。
そして、居酒屋での、まるで落語のご隠居、熊さん、八ッつぁんのような連中のおかつ一家が金をため込んでいるに違いないという噂話。

勇吉の目つきがかわり、そして、「かあちゃん」おかつの一家の物語が始まる。

なんと純粋で真っすぐな映画だろうか。

主人公一家の生真面目な生き方が素敵だ。
娘のおさん役の勝野雅奈恵が初々しい。

なんの屈託もない、ただ真っすぐな眼差しは、「かあちゃん」おかつの教えだろうし、そういう彼女は決して不幸にはならないだろうと思わせる。
他の子供らも、それぞれ、とても真っすぐだ。



親子の情愛が、真四角な切り取り方で提示される。

きっちりと切り取られたそれは、やりようによっては嫌味に映るものだ。

だが、脇を固めている個性豊かな名優たちが、その優しさを際立たせて見せる。

これぞ市川昆の芸といっていい。



主役の岸惠子がすばらしい。

当時69歳。

わざと老け顔にして、江戸の長屋のおかみさん風にしているが、内面から表現されるのは美しく気高い庶民の母の顔だ。

この演技で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得した。

 

とにかく、かあちゃんの心が温かい。

困っている人を見ると絶対に放っておけないのだ。

彼女のきっちりとした物言いと、それに相通ずる立ち居振る舞いの凛とした形が、貧すれど窮せずという母親の心を見事に表わしている。

感動の波が観客の心に押し寄せる秀逸な作品である。

モノクロに仄かに朱を帯びたような映像は、主人公たちの赤貧といってもいい生活を暗く彩る。

だが、そこから立ち上がるかあちゃん一家のまっとうな生きざまは、光ってさえ見える。

この色合いに市川昆の思いを感じる。

厳しい現実の中にある、かあちゃん一家の情愛の微かな暖かさを、すくいとるように見せてくれる。
これこそ山本周五郎が描いた江戸時代の町民の真骨頂なのだ。

 

江戸時代の庶民たちの中に「かあちゃん」のような人物は、実際にはいなかったかもしれない。

毎日食いつなぐのに精一杯だった江戸の底辺で生きる庶民たちに、そんな余裕があるはずもないのだから。

 

しかし、山本周五郎は江戸の世にはきっとこんな神様のような人たちがいたに違いないと信じていたのではないか。

江戸時代の日本というのは、世界で類を見ない、戦争というものが全く無い不思議な国だったのだ。

 

今世界ではロシアがウクライナに侵攻し、NATOがウクライナを支援する形でロシアを間接的に攻撃するという果てしない戦争が続いている。

中国という国も台湾を我が物にせんと着々と準備していて、これに対抗して米国が戦闘準備をしている。

北朝鮮という狂犬のような国は核保有国としての体勢を確立すべく今年も実験を続行している。

 

こんな危険な今の世界と比較したら、日本の江戸時代はなんと平和だったことだろう。

これは、絶対に神様のような清い心の人たちがたくさん日本にいたからではないだろうか。

山本周五郎はそう思ったのだろう。

 

焼け野原となった敗戦国・日本で小説を執筆していた山本周五郎は、日本のおとぎ話のような平和な世界を江戸の町を舞台に描こうと思ったにちがいない。

 

この映画は、数多い山本周五郎原作映画の中でも最も心に残る名作である。

 

 

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