田中裕子の映画 「ええじゃないか」 デビュー作にして、日本アカデミー賞最優秀助演女優受賞! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「ええじゃないか」

 

 

ええじゃないか 予告編

 

1981年3月14日公開。

江戸時代末期に発生した「ええじゃないか騒動」を描く異色作。

田中裕子の映画デビュー作。

第5回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞(田中裕子)、新人俳優賞(田中裕子)受賞。

興行収入:4億2200万円。

 

 

脚本:今村昌平・宮本研

監督:今村昌平
 

キャスト:

  • イネ:桃井かおり
  • 源次:泉谷しげる
  • イトマン:草刈正雄
  • お松:田中裕子
  • 吉野:池波志乃
  • 金蔵:露口茂
  • 鵜飼作之丞:小沢昭一
  • 月野木伴次郎:倉田保昭
  • 孫七:火野正平
  • 原市之進:河野洋平
  • ヤモメの六:犬塚弘
  • お甲:倍賞美津子
  • 小出大和守:高松英郎
  • 三次:樋浦勉
  • ゴン:丹古母鬼馬二
  • 千松:矢吹二朗
  • 中沢一作:河原崎長一郎
  • 伝助:深水三章
  • 伊集院主馬:寺田農
  • 卯之吉:野口雅弘
  • 庄屋:浜田寅彦
  • 上州屋:殿山泰司
  • ヤミクモ太夫:白川和子
  • 綾若:かわいのどか
  • 古川縫:生田悦子
  • およし:亜湖
  • 又吉:小林稔侍
  • 北町奉行所与力:江角英
  • クジラ:村田雄浩
  • カルワザ:河西健司
  • 仙吉:片岡功
  • 組頭:上田忠好
  • ところ天屋のおやじ:青木富夫
  • 鉄砲奉行:尾形伸之介
  • ヤモメの六の子供:小林遠野
  • 桝屋富衛門:三木のり平
  • 虎松:伴淳三郎
  • 古川条理:緒形拳

 

 

あらすじ:

慶応二年、日本は激動期の真只中にあった。

源次(泉谷しげる)はそんな江戸へ六年ぶりにアメリカから帰って来た。

上州の貧農の出の源次は横浜港沖で生糸の運搬作業中に難破し、アメリカ船に救けられ、そのまま彼の地に渡ったのだ。

その間、妻のイネ(桃井かおり)は、病身の父に売られ、現在、東両国の“それふけ小屋”(ストリップ劇場)で小紫太夫と名乗って出演している。

源次はなんとかイネを発見し、六年ぶりの再会に二人は抱きあった。

見せ物小屋の立ち並ぶ東両国は、芸人、スリ、乞食、ポン引きなどアブレ者の吹き溜り。

源次は三次(樋浦勉)、ゴン(丹古母鬼馬二)、孫七(火野正平)、卯之吉(野口雅弘)、旗本くずれの古川(緒形拳)など、したたかな連中に混ってそこに居ついてしまう。

そして、金蔵(露口茂)がここら一帯を取り仕切っている。

自由の国アメリカが頭から離れない源次は、イネを誘いアメリカ渡航を計るが、結局、彼女はこの猥雑な土地を見捨てられず、源次もイネの肉体に引かれて残ってしまう。

この頃、幕府と薩摩、長州連合の対立は抜きさしならないところにきており、金蔵は薩摩の伊集院(寺田農)などの手先となって、一揆の煽動など、天下を騒がす仕事に飛びまわっていた。

「ええじゃないかええじゃないか」という世直しの幟やムシロ旗を立てた群衆は次々と豪商の倉を襲っていった。

この群衆の中に、金蔵配下の源次、ゴンたちが扇動者としてまぎれこんでいた。

更に、この騒ぎの中に、親兄弟を虐殺された琉球人のイトマン(草刈正雄)が仇の薩摩藩士の姿を求めて鋭い目を光らせていた。

そして、「ええじゃないか」の勢いは止まるところを知らず、群集は、歩兵隊の制止も聞かず、大橋を渡ろうとした。

「死んだって ええじゃないか」と叫びながら大橋を渡ろうとした時、騒動を収めるために幕府の役人たちが民衆を銃撃する。

先頭にいた源次は銃弾に倒れた。

数日後、復讐をとげたイトマンの舟が琉球へと滑り出した。

舟を見送るイネ。

その翌年、元号は明治となるのだった。

 

 

ネタバレ:

 

慶応2年(1866年)夏。

 

アメリカ合衆国の商船に乗り合わせていた日本人の男・源次が横浜港に着いた。

上野国(上州)出身の農民であった源次は、小舟に乗って沖合に停泊するアメリカ商船に荷を積み込む仕事に従事していた。

だが、難船のために漂流したことをきっかけに、そのままアメリカで6年間生活したすえ、妻・イネ恋しさに、密航の罪に問われる危険を承知で帰国したのだった。

 

船を降り、砂浜にひざまづいた源次は、砂で乳房の形を作り、顔をこすり付けた。

神奈川奉行所に引き渡され、牢に収監された源次は、琉球出身の漂流民・イトマンとともに牢を破り、故郷の村を目指した。

村ではイネの父・虎松から、源次の両親はすでに亡くなり、生活苦のためイネを江戸の千住宿へ身売りしたことを告げられる、

源次はイネを村へ連れ帰るために江戸へ向かう。

 

イネはすでに千住を離れ、歓楽街・東両国(向両国)にある「それ吹け小屋(岩戸小屋)」の芸人として人気を得ていた。

源次とイネは再会を喜び合うが、農民の生活に戻ることを嫌がったイネは村へ帰ることを拒否したため、源次は身動きが取れなくなる。

また、イトマンもそのまま江戸に居着く。

 

ある日、東両国の見世物小屋にインドの象使いがやってくる。

群衆に興奮した象が暴走し始めるが、象使いの言葉を通訳した源次の機転で、事故が防がれる。

小屋の元締め・金蔵が偶然その様子を見ており、源次の英語をほめてみせる。

金蔵はイネの親方でもあり、東両国一帯を仕切りつつ江戸幕府や薩長同盟と通じる政商であった。

 

そのうち源次とイトマンは、金蔵の一味に加わり、社会不安を煽って一味の儲けにつなげるため、「世直し一揆」の扇動や、泥棒稼業に参加するようになった。

そのまま源次は、かつての雇い主・上州屋の打ちこわし計画に参加するのに乗じてイネを残して江戸を離れ、村へ帰郷した。

イネは源次をあきらめ切れず、後を追った。

 

上州屋の打ちこわし成功の後、イネの兄・千松がその首謀者として、村人・代官所の双方同意の「生贄」にされ、逃亡を図った千松は役人に斬殺される。

さらに、何者かにイネが陵辱され、同じ集団によって虎松も殺害される。

失意のイネは江戸に戻り、源次は村に残って土地の開墾を続ける。

だが、庄屋に「メリケン帰りには土地をやれん」と告げられた源次は逆上して庄屋を切りつける。

捕り手から逃れるため、また虎松・千松らの位牌を渡すため、イネのもとへ向かう。

季節は冬になっていた。

 

年が明け、慶應3年(1867年)を迎えた。

源次はイネと再会したのち、千住の女郎屋の遣り手・お甲にかくまわれる。

やがて源次はイネとともにアメリカへ渡ることを思い立ち、アメリカ公使をたずねて旅券発行の交渉を行うが、かつて告げられた「漂流民は合衆国市民として公使の保護下に置かれる」という規定と異なり、傷害罪の前科があることを理由に無下に断られる。

 

これはかねて金蔵が、英会話の腕前を見込んでいた源次を出国させないようひそかに手を回し、庄屋を斬った前科のある源次の身柄を、ひそかにアメリカ公使館へ売っていたためだった。

金蔵は彼を幕府・薩長の双方へ納入する銃の輸入交渉のための通訳者として使った。

源次は観念し、金蔵一味によるほかの仕事も再開した。

金蔵はイネを囲い、源次とお甲が惚れ合っているという嘘を吹き込んでイネの嫉妬を煽り、その勢いで女郎の仕事を再開させる。

派遣場所は横浜の商館で、金蔵の商談の輸入元だった。

 

金蔵のたくらみを知ったお甲は横浜へ急ぎ、イネを逃がそうとするが、ふたりとも商人に見つかり、そのまま、ともに仕事をする。

そのうち誤解が解け、お甲は源次をイネのもとに返すことを約束する。

 

金蔵は、自身の野望である西洋料理店出店の便宜を図るため、さらに北町奉行所に源次の情報を売った。

ある夜に源次は奉行所に逮捕される。

まだ通訳が必要な金蔵の差し金によって、密航や窃盗の罪は不問に付され、源次は2か月入牢ののち、百叩きの刑を受けて出所した。源次入牢の間、金蔵の保身に基づく奉行所側との取引のために、泥棒仲間・孫七が殺害されていた。

源次はイネともども金蔵の私欲のためだけに利用されていたことを悟った。

 

一方その頃、東両国の長屋に住む元旗本の浪人・古川条理は、かつての同僚・鵜飼と中沢から、幕僚・原市之進の暗殺を依頼される。

原は古川の仲人であり、かつて古川が遊女・吉野との心中未遂騒動を起こし、妻・縫と別居することになったのちも、古川を気にかけ、幕府への誘いや、夫婦の復縁に腐心する恩人だった。

そのため、古川は一旦依頼を固辞するが、鵜飼と中沢に遊女屋へ連れられ、生活のため遊女として働く縫の姿を無理やり見せられる。

さらに吉野と偶然再会するにおよび、命を捨てることを決意し、桜の咲いた頃、原のいる京都へ行く。

 

原の居宅に着いた古川は、原のもとで働くことを了承したふりをして、原を刺殺し、その場を立ち去る。

その帰途、京都の街中では、どこからか舞い落ちてきた大量の神札をきっかけに、民衆が「ええじゃないか」と叫びながら集団で踊り狂う騒動が多発していた。

 

船頭として働いていたイトマンは、金蔵の西洋料理店の客だった薩摩藩士・伊集院主馬を、帰り船に乗せる。

伊集院は琉球でイトマンの家族を虐殺した仇敵であり、イトマンが江戸に残った目的はかたき討ちの機会をうかがうためだった。人けのない川中へ船を進めたイトマンは伊集院を牛刀で殺害し、その血を壺に入れて持ち帰り、帆布の塗料に使った。

江戸に舞い戻った古川はその仕事ぶりをながめ、それぞれが自分の使命を果たしたことを暗に認め合い、笑顔を見せ合う。

古川はすでに原殺しの足がついており、やがて吉野とともに捕り手に囲まれ、お互いの身を脇差で刺し、川に飛び込んで絶命する。

 

夏頃。

「ええじゃないか」の騒ぎは、江戸にも波及した。東両国の連中は、ニセの神札を密造して屋根の上からばらまくことで、騒ぎを日に日に大きくしていく。これは金蔵のあずかり知らぬことだった。

人々はめいめい、色とりどりの衣装で着飾ったり、顔を白く塗ったり、異性装をしたり、裸になったりしながら、来る日も来る日も踊り狂っていた。

 

ある日、ついに群衆の波が両国橋を越え、将軍の直轄地である西両国へ到達しようとしていた。

幕府陸軍は両国橋を封鎖し、威嚇射撃を行うが、群衆はそれでも構わずに突き進むばかりか、女連中が軍隊に尻を向け、放尿してみせるなど、挑発的な行動をとるばかりだった。

 

金蔵は、この騒ぎがやがて自身が利権を持つ陸軍演習用地の買収反対運動に波及することを恐れ、われを忘れて群衆を沈静化させようとひとりで走り回るうち、群衆の先頭へ出てしまう。

「ここで踊ったってええじゃないか」と叫び、先頭で音頭を取っていたのは源次・イネ夫妻ら、自身の子飼いであるはずの東両国の連中だった。

しびれを切らせた金蔵が背中の入れ墨を見せ、「どうしてもやりたきゃ、俺を殺してやれ」とすごむと、群衆の熱狂はしぼみ、誰もが元の道を引き返し始める。

金蔵も安心し、帰途につく。

 

そこへ射撃命令が下り、源次、そして金蔵が背中から撃たれる。

金蔵は即死、源次は「撃たれたってええじゃないか」「死んだってええじゃないか」とつぶやきながら絶命し、イネは泣き叫ぶ。

 

騒ぎが収まった日暮れ、イトマンはひそかに仕立てた丸木舟を両国橋のそばに浮かべ、伊集院の血を塗り込めた帆を立て、琉球へ帰った。

イトマンを送り出したイネは、源次の血が染みた地面を見やり、そこへ泣きながら頬を寄せ、爪を立ててかきむしるのであった。

 

コメント:

 

難しい群像劇を邦画の2時間半の枠で挑戦した今村監督の挑戦は素晴らしい。

群衆がええじゃないかと叫び踊りながら両国橋を渡って行くシーンは、凄まじい。

女たちが幕府軍の鉄砲隊に向かって尻をまくって放尿するシーンは、ユーモアと庶民の権力に対する無言の抵抗を象徴している。

今村昌平ならではの表現である。

明治維新に向かう日本の混乱と未来に向けたエネルギーを際立たせる意欲作である。

 

慶応2年(1866年)といえば、徳川慶喜が将軍になった年。
江戸幕府がおかしいというか、倒されてしまうかもしれないという江戸の雰囲気が充満する。
そして、庶民のエネルギーの爆発が起こりそうな予感。

金に物を言わせて、江戸幕府にも薩摩藩にも賄賂を贈り上州での 農民一揆に対しても、両方のマッチポンプをする。
商人が チカラを持っていた。
そういう 洗いざらいが、ええじゃないかの踊りのなかに、巻き込まれていく。

 

キャストがいい。

 

桃井かおりが演じたイネ、泉谷しげるの源次、イトマンの草刈正雄の存在感が際立っている。



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 イネ (桃井かおり)

 

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 源次 (泉谷しげる)

 

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 イトマン (草刈正雄)

 

さらに、古川条理を演じている緒形拳、お甲を演じた倍賞美津子も、また良い。

 

 

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 古川条理 (緒形拳)

 

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 お甲 (倍賞美津子)

 

最も注目すべきは、この作品が映画デビュー作となった田中裕子だ。

NHK「マー姉ちゃん」で俳優デビューして たった二年。

 

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 お松 (田中裕子)
 

田中裕子は、「角屋」で働くお松という女郎を演じている。

お松は、桝屋富衛門(三木のり平)が見初め、金蔵の金で身請けすることが決まっていた。

だが、源次・イネ夫妻と同郷で、見かねた源次が先に身請け金を支払い、郷里に返す。

その後、親にふたたび売られて江戸に戻る。

そして、お甲とともに金蔵のもとを離れ、ニセの神札づくりに参加する。

 

その色っぽい演技は新人とは思えない。

 

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なんと、本作で日本アカデミー賞の新人俳優賞のみならず、最優秀助演女優賞まで獲得してしまったのだ。

既に大女優の風情が漂っている。

 

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