「四十七人の刺客」
1994年10月22日公開。
「日本映画誕生100周年記念作品」。
池宮彰一郎の同名長編時代小説を映画化。
興行収入:5億円。
脚本:市川崑
監督:池上金男・竹山洋・市川崑
キャスト:
- 大石内蔵助 … 高倉健
- 色部又四郎 … 中井貴一
- かる … 宮沢りえ
- 不破数右衛門 … 岩城滉一
- 堀部安兵衛 … 宇崎竜童
- 堀部弥兵衛 … 松村達雄
- 奥田孫太夫 … 井川比佐志
- 吉田忠左衛門 … 山本學
- 小野寺十内 … 神山繁
- きよ(旧赤穂藩士の未亡人) … 黒木瞳
- ほり … 清水美砂
- 瑤泉院 … 古手川祐子
- 瀬尾孫左衛門 … 石倉三郎
- 小林平八郎 … 石橋蓮司
- 山添新八 … 尾藤イサオ
- 浅野内匠頭 … 橋爪淳
- 大石主税 … 尾上丑之助
- 一文字屋 … 佐藤B作
- わか … 横山道代
- 大野九郎兵衛 … 小林昭二
- 土屋相模守 … 久保明
- 秋元但馬守 … 出光元
- 高田郡兵衛 … 今井雅之
- 神崎与五郎 … 塩屋俊
- 吉良上野介 … 西村晃
- 進藤源四郎 … 小林稔侍
- 天川屋儀兵衛 … 板東英二
- 原惣右衛門 … 中村敦夫
- 柳沢吉保 … 石坂浩二
- りく … 浅丘ルリ子
- 千坂兵部 … 森繁久彌
あらすじ:
元禄時代。
播州赤穂藩筆頭家老・大石内蔵助(高倉健)と上杉藩江戸家老・色部又四郎(中井貴一)の戦いは、元禄14年3月14日江戸城柳の間にて赤穂城主浅野内匠頭(橋爪淳)が勅使饗応役高家・吉良上野介(西村晃)に対し刃傷に及んだ事件から始まった。
内匠頭は即刻切腹、赤穂藩は取り潰し、吉良はお咎めなしという、当時の喧嘩両成敗を無視した一方的な裁断は、家名と権勢を守ろうとする色部と、時の宰相・柳沢吉保(石坂浩二)の策略だった。
赤穂藩は騒然となり、篭城か開城かで揺れるが、大石は既に吉良を討ちその家を潰し、上杉、柳沢の面目を叩き潰す志を抱き、早速反撃を開始した。
事件発生後直ぐに塩相場を操作し膨大な討ち入り資金を作った大石は、その資金をばらまき、江戸市中に吉良賄賂説を流布させ、庶民の反吉良感情を煽る。
さらに、赤穂浪士すわ討ち入りの噂を流して吉良邸付近の諸大名を震え上がらせ、討ち入りに困難な江戸城御府内にある吉良邸を外に移転させるなどの情報戦を駆使した。
思わぬ大石の攻勢にたじろいだ色部も、吉良を隠居させる一方、仕官斡旋を武器に赤穂浪人の切り崩しを図り、討ち入りに備えて迷路や落とし穴などを完備した要塞と呼ぶべき吉良屋敷を建てさせるなど、反撃を開始する。
京都・鞍馬で入念な準備に忙殺されるその傍ら、大石は一文字屋の娘・かる(宮沢りえ)との恋を知る。
かるはいつしか大石の子を身籠もった。
追い詰められた上杉家は最後の策として吉良を米沢に隠居させようとする。
その惜別の会が開かれた12月14日、運命の日。
雪も降り止み誰もが寝静まった子の刻、大石以下47名が集まり、要塞化した吉良邸にいよいよ突入した。
迷路を越え、上杉勢百数十名との壮絶なる死闘の末、遂に大石は吉良を捕らえる。
追い詰められた吉良は大石に、浅野の刃傷の本当の理由を知りたくはないか、と助命を請う。
だが大石は、知りとうない、と答え、吉良を討つ。
吉良の死に重なるように、かるの腹から新しい生命が生まれた。
コメント:
視点を変えた忠臣蔵。
12月14日までの描写をほぼ内蔵助に絞って展開する。
上杉藩江戸家老・色部の指示により、人数を揃え、要塞と化した吉良邸。
原作は、池宮彰一郎の同名小説。
池宮彰一郎は、日本の脚本家でもあった小説家。
本名の池上金男で脚本家として活動し、『十三人の刺客』など数多くの映画・テレビドラマの制作に関わった。
69才となる1992年に、デビュー作『四十七人の刺客』を発表し、新田次郎文学賞を受賞した。
以降も、池宮彰一郎のペンネームを用いて歴史小説を著した。
小説『四十七人の刺客』は、池宮の処女作だが、重厚な文章で、歴史を元に新たな発想を加えて書き上げた作品である。
赤穂浪士討ち入りに至るまでを、主君への忠義といった要素を排して、大石ら赤穂浪士と吉良家・上杉家との謀略戦として描く。
赤穂浪士を中心としたこれまでの通説に加えて、吉良上野介を守らんと上杉藩江戸屋敷の守備を指揮する家老・色部又四郎の苦悩を描くという斬新さが光る作品となっている。
有名な「忠臣蔵」のストーリーを新しい視点で描いたらしい池宮彰一郎の原作の映画化。
有名な松の廊下のシーンやらそこにいたる吉良との確執は省いてある。
この辺は日本人なら今さらの場面なので省かれても別に構わない。
その後の浪士たちと上杉家、あるいは側用人、柳沢との駆け引きがみどころとなる。
とくにやたら金の話が会話にでてくるのがこれまでの忠臣蔵、いや時代劇と一線を画すところだろうか。
江戸時代も元禄の太平の世となれば武士の意地だけではどうにもならないのが金=経済的観念である。
内蔵助(高倉健)らが赤穂城にての評定の場面ではその金の話がでてくる。
いちはやく塩の販売の手を打った内蔵助はそこで莫大な資金も得る・・などといった観点は新鮮。
考えてみれば当たり前で無一文では仇討もままならないわけだ。
さらに吉良邸の立て直しの費用の話とかやたら金銭感覚が強調される。
見ていて世知辛くなる。
もはや昔ながらの「忠臣蔵」を見ている感覚ではない。
自分にとってはやはりこの話は伝統的な艱難辛苦を乗り越えて晴れて主君の仇を討つ、というカタルシスを得るストーリーの方が好み。
内蔵助が討ち入り寸前に浪士たちに向かって言う「これから吉良を殺す」というセリフは高倉健が言うとまるでヤクザの殴り込みのように聞こえてしまう。
これもおそらく製作者の演出なのだろう。
これまでの忠臣という観点よりもこれは太平の世を乱すテロ行為であるという視点も強い。
タイトルに「刺客」とつく所以である。
役者陣で印象に残ったのは上杉家家老色部を演じた中井貴一。
この人若いのに、いまどきめずらしいくらい時代劇のそれも武士の姿が様になる俳優だ。
忠臣蔵でありきたりの物語を現代的な視点で描いていて、敵討ちというよりも現実的な戦さである。
江戸城内での刃傷事件から即日切腹をさせられた、赤穂藩領主の復讐を誓う大石内蔵助とその仲間たち。
いくら侍の忠義といっても、侍たちの衣食住の心配や武器防具の手配など当然のディティールの豊富さ。
上杉家・吉良家は、彼らの襲撃を予想しお互いに動向を探り合う。
中井貴一は、大石内蔵助(高倉健)の仇討ちに対抗する上杉藩の江戸家老・色部又四郎を演じており、準主役だ。
時の宰相・柳沢吉保(石坂浩二)との共同戦線によって、はたして大石内蔵助率いる赤穂浪士の討ち入りは防げるのであろうか。
手に汗握る攻防に目が離せない作品だ。
闇に刀がきらりと光る、色部(中井貴一)と柳沢(石坂浩二)が策略をめぐらす場面をオレンジ色をバックにしたりと、ケレンミがあってそれが面白く感じられる。
このあたりは、市川崑らしい演出だ。
いまさら忠臣蔵を主君への忠誠心を美談として描かないであろうが、吉良が大石に刃傷の真相を知りたくないかと命乞いをすると、知りとうないと吉良を斬り捨てるシーンは独創的だ。
もしかすると、吉良が一方的に悪いというわけでもないだろうが、大石とすればそんな事を聞きたいわけではなく、ひたすら主君の恨みを晴らすことに徹するという捉え方が、今までの忠臣蔵と違うのだろうか。
宮沢りえが、内蔵助の情婦・かるを演じているが、彼女に加えて、黒木瞳、清水美砂、古手川祐子、浅丘ルリ子といった有名女優による女性の姿も多く描かれる、新たな忠臣蔵である。
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