「釣りバカ日誌」
1988年12月24日公開。
長期人気シリーズ「釣りバカ日誌」の第1作。
やまさき十三、北見けんいちの同名漫画を脚本・山田洋次で映画化。
配給収入:12億5000万円。
原作:やまさき十三 、 北見けんいち「釣りバカ日誌」
脚本:山田洋次、桃井章
監督:栗山富夫
キャスト:
西田敏行 、 三國連太郎 、 石田えり 、 山瀬まみ 、 谷啓 、 アパッチけん 、 江戸家猫八[3代目] 、 戸川純 、 名古屋章 、 鈴木ヒロミツ
あらすじ:
鈴木建設の四国支社高松営業所に勤める浜崎伝助(西田敏行)こと「ハマちゃん」は3度の飯より釣りが好き。
出勤前に大きなクロダイを釣った日に東京本社への「栄転」を営業所長から命じられる。
しかし、当初はハマちゃんは「東京では釣りができない」と断り消極的だったが、妻のみち子(石田えり)さんに「東京湾にも魚がいる」と説得され、船宿の向かいのマンションに引っ越す。
初日から遅刻ばかりで社内ではあくびばかりの毎日を送るハマちゃん。
近くの食堂で憂鬱な顔をした男(三國連太郎)と出会う。
出会ったばかりの男に「こんな風にヒラメを骨だけ残して食べるものだ、それが魚に対する供養だ」と、残りを食べてあげる(みち子さんと知り合ったのも同じパターンだった)。
連絡先を通じて気晴らしにと釣りに誘う。
しかし、この男が鈴木建設のワンマン社長・鈴木一之助だった。
船釣りに登山の格好で現れた男を「スーさん」と呼び、東京湾を楽しみ、初めてながら大漁になる。
夜はみち子さんから気さくな歓迎を受け、初めての本格的な釣りに疲れて眠り込み、そのまま浜崎の家でお泊まり。
数日後にスーさんは、ハマちゃんの勤めている会社に連絡しようとして秘書から我が社の社員だと知る。
その日の自宅でスーさんは「社長の顔を知らないとは」と妻に愚痴る。
すると、彼女は「背中丸めて、陰気な顔をしてるから。不幸せな老人と思われても仕方ない。でも、その老人を優しく労ってくれたんでしょ」と言う。
次の日曜日、再びハマちゃんと投釣りに出掛け、再び浜崎家にお世話になる。
問題児のハマちゃんは「世の中一生懸命な奴ばかりじゃつまらない。会社だってアジもメバルもサバも、いろんな人がいるから面白い」と妙に説得される。
ハマちゃんはスーさんを食うに食わずの孤独な老社員だと思い込んで、仕事を世話してあげるが、スーさんは社長であることを明かさずに断る。
しかし偶然、会社に訪れたみち子さんはスーさんの素性を知って「私たちをだましていたのね」と涙ぐむ。
スーさんはそれでも、「公私を別にして、友人として今後とも付き合いをしてほしい」とハマちゃんに電話をする。
しかしハマちゃんは「俺も辛いけど、この関係はスーさんのためにならないよ」と関係を絶ってしまう。
その後、ハマちゃんの突然の栄転もコンピューターの入力ミスと分かって、定期異動の際に高松営業所へ戻ることになる。
人事部長が事情を説明すると、「ぜひ高松に戻りたい」と言ったハマちゃんにガッカリするスーさんだが、「せめて役付で戻してやれなかったのか?」と問いかける。
すると人事部長は係長の昇進を約束したが、浜崎はこれを断り、ヒラのまま高松営業所に転勤することになったと答える。
別れの言葉も無く、スーさんとの別れを惜しんだみち子さんは新幹線から電話をして「ひどい事言ってごめんね」と謝罪し、3人のわだかまりも溶ける。
コメント:
松竹の大人気シリーズ「男はつらいよ」が40作を超えて人気が下がり始めた頃、山田洋次監督が脚本を担当する形でスタートしたのが、通算20作にも及んだコメディ映画「釣りバカ日誌」シリーズだ。
主人公は、釣りが大好きで仕事で出世することなど全く考えたこともないという、まさに「釣りバカ」の男・ハマちゃん。
そしてヒロインが、石田えり。
このカップルに偶然出会って人生を変える会社社長・スーさんを演じるのが、三國連太郎である。
仕事のストレスで憂鬱な毎日を送っていたスーさんは、社長業が嫌になったわけではないが、自分の思った通りに部下が仕事をせず、自分が描いた通りの業績が上がらず、毎日苦悩していた。
そんな時に、偶然同じ会社の部下とも知らずに、釣り大好き人間のハマちゃんと出会って、釣りの魅力にはまる。
そして、ハマちゃんとみちこさんの夫婦に暖かく歓迎されて、新たな生きがいを見出すのである。
その後スーさんの素性が分かってハマちゃんは交流を止めるが、最後にハマちゃんが高松に帰ることになって、仲直りの電話ができるところで第1話は終わる。
ハマちゃんを演じる西田敏行が素晴らしい。
この俳優は、以前にも独特の個性で映画界でその存在感を発揮してきた。
しかし、この映画シリーズほど西田敏行にピッタリの役柄はないだろう。
思い切りぶっ飛んだ、釣りバカの姿を見せつけている。
彼の妻・みちこさんを演じる石田えりが良い。
彼女が、世界で一番ハマちゃんを理解し、愛しているのだという事を、この映画で完ぺきに見せつけている。
おそらく石田えりの本作での演技は、彼女の女優人生の中で第1位であろう。
彼女の明るい笑いと本気の涙は、本作における最高のシーンだ。
この映画は、人生の喜びとは何かを真正面から問いかけている。
仕事を頑張って、出世することが全てという、当時の日本のサラリーマンなら皆考えていた常識を根本から覆す作品なのだ。
令和の時代になって、コロナの長期感染もあって、都会で満員電車にも頑張ってとにかく会社に行くのだというサラリーマンの長年の習慣が、ここに来て、変わりつつある。
リモートオフィスという新たな概念だ。
自宅にいて仕事をすることが奨励される時代になったのだ。
100%仕事人間だった人たちが、どんどん家庭中心、趣味中心に変貌している。
今こそ、この『釣りバカ日誌』を観て、自分の人生を再設計してみたらどうだろうか。
きっと別の世界が待っているだろう。
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