ホタル
2001年5月26日公開。
特攻隊が飛び立った知覧の地での生き残りたちの生き様を通し、夫婦愛の世界を描く。
興行収入:23.3億円。
脚本:竹山洋・降旗康男
監督:降旗康男
出演者:
高倉健、田中裕子、奈良岡朋子、井川比佐志、小澤征悦、小林稔侍、夏八木勲、原田龍二、石橋蓮司、中井貴一、笛木夕子、小林綾子、田中哲司
あらすじ:
鹿児島県知覧。
カンパチの養殖を生業としている山岡は、肝臓を患い透析を続けている妻・知子とふたり暮らし。
子供がいない彼らは、漁船“とも丸”を我が子のように大切にしている。
激動の昭和が終わり、平成の世が始まったある日、山岡の元に青森に暮らす藤枝が雪山で自殺したとの報せが届いた。
山岡と藤枝は共に特攻隊の生き残りだった。
それから暫く後、山岡はかつて特攻隊員に“知覧の母”と呼ばれていた富屋食堂の女主人・山本富子から、ある頼みを受ける。
それは、体の自由が利かなくなった自分に代わって、南の海に散った金山少尉、本名、キム・ソンジェの遺品を、韓国の遺族に届けて欲しいというものだった。
実は、金山は知子の初恋の相手で、結婚を約束した男でもあった。
複雑な心境の山岡は、しかし知子の余命が長くて一年半だと宣告されたのを機に、ふたりで韓国へ渡ることを決意する。
だが、金山の生家の人たちは、山岡夫妻の訪問を決して快く迎えてはくれなかった。
それでも、山岡は遺族に金山の遺品を渡し、彼が残した遺言を伝えた。
金山は日本の為に出撃したのではなく、祖国と知子の為に出撃したのだと。
やがて歳月は流れ、21世紀。
太平洋を臨む海岸に、その役目を終えた愛船・とも丸が炎に包まれていくのを、ひとり見つめる山岡の姿があった。
コメント:
「ホタル」とは劇中特攻で死んだ兵士がホタルになってかえって来るという逸話をタイトルにしている。
昭和天皇の崩御とともに忘れ去られようとしている特攻の犠牲を、知覧の生き残りたちの生き様を通し、夫婦愛の世界を描く。
この中で韓国人兵士のことを描いているのが珍しい。
奈良岡朋子の知覧の母がとてもいい。
そして韓国でもの婚約者の墓に参ったとき季節外れの蛍が舞っているのも象徴的。
激動の昭和が終わる頃。
時代から取り残される男を演じてきた高倉健は、特攻によって散った命と、取り残されたやり場のない自らの命に想いを馳せる。
ある者はその想いに耐え切れず自ら命を絶ち、ある者は朝鮮が祖国でありながらも特攻で命を絶った。
そんな想いを背負いながら、高倉健は朝鮮に渡る。
憎悪されながらも、高倉健だからこそ遺品を届け遺言を伝える役割を果たす。
高倉健をキャスティングしなければ、この場面は成立しなかったと思う。
想いが蛍の光となって、さらには海に浮かぶ夕日となり、苦楽を共にした燃え上がる愛船となって、具現化される様々な想い。
そのような想いを象徴的な風景に託している。
降旗監督ならではのすばらしいラストシーンだ。