その後、綾部の買収話も大詰めに来たころ、栃木の本丸の買収話がどうもキナ臭い方向にいっているという、この業界にありがちな胡散臭い噂となって広まっていた。

ここ数年、TVドラマの影響もあって、企業買収という言葉がよく知られるようになっていた。ホテルの買収話も特に珍しいことではなく、景気の低迷とともにその数も日増しに増え続けていた。

大林に来て、まさかホテルの買収劇の主人公を演じることになるとは、自分でも少々自嘲気味である。営業支援を依頼されて来てみたものの、まさかこれほど酷いとは・・・・。

勿論、最初から分かっていれば、一志には悪いが断っていたのだが、親父譲りのお人好し根性がどうしても頭をもたげてしまう癖が、恨めしく思えてならない。

綾部の本丸の買収話は、千葉のグループと近年日帰り温泉施設などで実績を上げてきたグループとの攻防が激しさを増して来ていた。この連中は、表ではホテル経営というクリーンなイメージを出しているが、その裏では政治家や建設会社、そして投資家などと組んでは危ない橋を渡っていることも、業界ではよく知られていた。

それだけに、「本丸と関口社長を分断できれば、こちらに勝算はある。」と読んでいた。

しかし、問題は融資先だった。

「この八方塞がり状態をどうやって打開するか?」

私は、「あれに賭けるしかない。」と心の中でつぶやいていた。


ここの景色は、ハワイのダイヤモンドヘッドを彷彿させ、都会の喧騒から解き放ってくれるだけの価値を持っている。一度来たら、必ずもう一度来たいと思わせる・・・まさに一級品の観光資源だろう。

そんな財産を持ちながら、一体何故ここまでこのエリアの観光が衰退してしまったのか、不思議でならない。地震の影響もあるだろうし、交通手段のインフラの問題も大きいのだろう。しかし私は、ここに来て約一年を過ごしてみて、問題の本質が全く違うところにあると気づき始めていた。