◎レイラ・ハサウェイ~ミュージシャンの背中に浮かび上がる音符 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎ レイラ・ハサウェイ~ミュージシャンの背中に浮かび上がる音符

【Musical Notes on the Back: Lalah Hathaway’s Spacious Live Performance】

インスピレーション。

本当に聴いているだけで、インスピレーションが湧き上がる見事なパフォーマンス。この日は、レイラ最終日・最終回ということもあり、観客も満員になり、みなのっていた。レイラのライヴは、観客にかなりミュージシャン比率が高い。

ミュージシャンにスペースを与え、ミュージシャンもそれに応え、存分にプレイする。そして、レイラは自身が楽器のひとつであることを熟知し、ミュージシャンたちと等しく同化する。ヴォーカル・対・バックバンドという主従関係でなく、ヴォーカリストもそのバンドの一員として並列・イコールの立ち位置だ。

シンガーがずば抜けていると大概、シンガー対バンド、下手をするとシンガーとそのただのバックバンド(シンガーが主人公で、バンドは誰でもいいという関係)という力関係に陥ってしまうことが多いが、レイラはシンガーとしてずば抜けているだけでなく、バンドともイコールの関係を構築できているところが素晴らしい。

そして、「スペースを与える」「スペースがある」という感覚は何事にも本当に重要で、レイラのライヴではいつもそれがあるから見事だ。バークリー出身、「ソウル」と「ジャズ」、その他の音楽ジャンルさえも自由に行き来できるからだろう。

たとえば、定番となっているスタンダードの「サマータイム」は、この日はファンキーなベースから始まり、ドラムス、キーボード、コーラスのジェイソン、トニーとソロを回した。ソロ回しがある楽曲は、毎回、中味も変われば、テンポさえも変わる。その応対は自由自在。

あるいは、ルーサーの「フォーエヴァー…」ではギター奏者、エロールの長尺ギター・ソロが空間を支配した。まるでロックのギター・ソロを思わせるその時間、エロールがこの曲を、ブルーノートをのっとった感じさえした。しかも、これほど長い変幻自在のソロでも、ドラムスのエリック・シーツがしっかりとついて、曲のビルドアップ(もりあげ)に寄与している。このあたりは、お互い、本当によく相手を聴いているなあ、と感心させられる。ルーサーのスロー・バラードがいつのまにかヘヴィーなロックになり、そして最後はまたバラードへ。たった一曲の中に、見事なストーリーが浮かび上がった。

この日、タイ・スティーブンスやシャンティと一緒に見たのだが、タイもこの「フォーエヴァー…」を歌う。彼のものを昼間の「ソウル・サーチン」でかけていたので、僕の脳内では、タイとレイラのものを「想像でデュエット」していた。ヴァーチャル・デュエットだ。タイはルーサーに出来るだけ近く歌うので、ルーサーとレイラのデュエットも、実現したら相当いい感じになると思った。この日の「フォーエヴァー…」は17分にも及んだ。

この曲に関して言えば、ルーサー亡き今、タイやレイラのものを聴いてルーサーに思いを馳せるのは自然なことだ。

プロのシンガーやミュージシャンというのは、あたり前のことだが、人に出来ないことをやってプロ、難しいことをやってもそれを簡単にやっているように見せてこそのプロ、ということをつくづく感じる。

彼らの個々のパフォーマンスを見ていると、その背中に音符がついているように見えてきた。そして、レイラが歌う歌詞にも音符がついて、空を飛ぶようだ。歌詞に息吹、命が与えられるとはこのことだ。

9曲目「イッツ・サムシング」では、土曜日にも飛び入りしたという日本のフルーゲルホーン奏者/ヴォーカリスト、トク(TOKU)が呼び出されステージに。最初はスキャットのバトル、さらにレイラの声とフルーゲルのバトルと15分以上におよぶ実にスリリングな展開になった。

ここでは、長尺のバトルのあと、いきなりコーラスのトニとジェイソンがエンディングのコーラスをいれて、曲をカットアウトして終えた。「ええっ、どうやって終えるのがわかったの?」とタイに聴いたら、「たぶん、レイラが『ヴォーカル・キュー』を出したんだと思う。何かのキーワードで、彼らはエンディングを知るんだよ」と教えてくれた。

各ミュージシャンとレイラ、レイラとトク。それぞれがレベルの高い人たちと交わることによって、お互い、より高いレベルに持ち上がっていくという相乗効果、ケミストリー(化学反応)が生まれる。この日のライヴ・パフォーマンスには、そんなマジック、ケミストリーが満ちあふれていた。

最後は観客総立ちで、アンコールも2度登場。これだけ客席ものっていれば、大サーヴィスぶりもわかる。

ソウルとジャズの狭間を行くシンガー。流行に左右されず、マイ・ペースで進むシンガー。

いつも彼女は裸足で楽屋からステージまで進む。まさにはだしのクイーンだ。熱狂のライヴは1時間40分を超えていた。

レイラはその後、ファンにサイン会、写真もOK。ステージでも「新作、聞いた? これをプラチナム・ディスク(100万枚)にしたいの。買ってね。」と宣伝。もっと認められて、もっと売れていいアーティストであることには間違いない。

何度もレイラのステージは見ているが、ジョー・サンプルと一緒にやったステージ以来の素晴らしさだった。

$吉岡正晴のソウル・サーチン
From left: Ty Stephens(singer), Shanti(singer), Lalah, Yoshioka Masaharu (The Soul Searcher)

■レイラ・ハサウェイ 「フォーエヴァー・フォー・オールウェイズ・フォー・ラヴ」

http://youtu.be/PKqMfFzLWDI




■ レイラ・ハサウェイ・オフィシャル
http://lalahhathaway.com/index.html

■ レイラ・ハサウェイ過去記事
(Soul Searchin’ Archives On Lalah Hathaway)

2012年01月07日(土)
レイラ・ハサウェイ~楽器に溶け込む「魅惑のロウ・ヴォイス」
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11128363653.html

2010年07月12日(月)
レイラ・ハサウェイ~スペースのある自由度あふれるライヴ
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10588308249.html

2010年07月14日(水)
ジャム・セッション・スペシャル~レイラ・ハザウェイ、アンジェラ・バンドらと
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10589654586.html

2008年05月14日(水)
レイラ・ハザウェイ~ダニーに抱きしめられて
http://ameblo.jp/soulsearchin/day-20080514.html
前回来日ライヴ評。

February 04, 2006
Lalah Hathaway: Some Songs Were Too Long
http://blog.soulsearchin.com/archives/000809.html
前々回来日ライヴ評。

>さらに過去関連記事

1999年6月8日
ジョー・サンプル&レイラ・ハザウエイ・ライヴ評。『魔術師の指』
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/sample19990608.html
アルバム『ソング・リヴズ・オン』発売後のライヴ。

2003/02/15 (Sat)
Barefoot Diva:Lalah Hathaway「裸足のディーヴァ:レイラ・ハザウェイ」
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200302/diary20030215.html
2003年来日時ライヴ。

2003年2月14日
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/lalah20030214.html
レイラ・ライヴ評。新聞用とオルタナティヴ・ヴァージョン。

2003年4月30日
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200304/diary20030430.html
レイラのウェッブから。Knocking on Father's Door (レイラが父ダニーの作品をどう思っているかなどについて)

2003年8月19日
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200308/diary20030819.html
レイラ、マーカス、テイク6らのライヴ評。レイラ、「サムデイ・ウィル・ビー・トゥゲザー」を歌う

2004/05/11 (Tue)
As If Two Hathaways As One: Lalah Hathaway & Frank McComb Live
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200405/diary20040511.html/
レイラ&フランク・マッコムのライヴ評

■ 最新作『ホエア・イット・オール・ビギン』(輸入盤) (たくさん、売れて、プラチナム・ディスクにして、とレイラが言っていました)

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■ 同・日本盤

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■ レイラ最大のヒット。ジョー・サンプルとの『ソング・リヴズ・オン』

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■ メンバー

Lalah Hathaway(vo)レイラ・ハサウェイ(ヴォーカル)
Toni Scruggs(back vo) トニ・スクラッグス(バック・ヴォーカル)
Jason Morales(back vo) ジェイソン・モラレス(バック・ヴォーカル)
Mike Aaberg(key) マイク・アーバーグ(キーボード)
Errol Cooney(g) エロール・クーニー(ギター)
Timothy Bailey Jr.(b) ティモシー・ベイリーJr.(ベース)
Eric Seats(ds) エリック・シーツ(ドラムス)

■ セットリスト レイラ・ハサウェイ 
Setlist: Lalah Hathaway @Bluenote
Tokyo, January 8, 2012
[ ] denotes original artist

Show started 20:48
00. Intro
01. If You Want To (+) (=from new album “Where It All Begins”)
02. Breath (+)
03. Bass solo- Key solo- Jason – Toni - Summertime
04. Medley: Angel [Anita Baker]/ Love’s Holiday [Earth Wind & Fire]
05. Wrong Way (+)
06. A Song For You [Leon Russell, Donny Hathaway]
07. Small Of My Back (+)
09. Forever, For Always, For Love [Luther Vandross]
08. It’s Something (+Toku on Flugel horn and vocal)
Enc. Street Life [Crusaders, Joe Sample]
Enc. Dreamland (Acoustic) (+)
Enc. Lean On Me
Show ended 22:29

(2012年1月8日日曜、東京ブルーノート、レイラ・ハサウェイ・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Hathaway, Lalah
2012-005