虹の国をみつけたら past 18
マサイとサムライ  革命を信じる雄




ある金曜日-騒々しいリビングのはしゃぎ声で目をさました。
ミイェレ達が朝からウイスキーを飲み宴を楽しんでいる。
珍しいなと思ったが起き抜けに1口だけ付き合った。
その日の夜には何人かで外食に出掛かる予定だ。僕は早々に切り上げ海に向かった。

夕方に部屋に戻るとミイェレはすっかり酔っぱらい完全に出来上がってしまっていた。
普段ほとんど外出せずパソコンに向かい合っている。
運動不足も手伝い朝から羽目を外し飲み続けていた様子で千鳥足。
レストランに出かけても彼の泥酔振りが原因で利用を断られた。
支配人の白人に「レーシスト、レーシスト」呂律が廻らない、それでもくだを巻きと詰め寄る。
帰りすがりに知り合いを見つけると、ミイェレは先に手を出してしまい殴り合いになる。
散々な夜だ。
仕舞いにはタクシーの助手席に乗り込み運転手に絡み立て篭もる。
水を飲まそうとしても聞かない。
僕は彼に水をかけた。喧嘩なら買ってやる外に出るんだ!
それでもミイェレはタクシーから出てこなかった。



数日後
僕が寝ているとミイェレが絡んできた
「おい起きろいつまで寝てるんだ?」
不貞寝を決め込みそれでも眠っているとミイェレは更に奇襲を仕掛けてくる。
普段はマサイの民族衣装に身を包んでいる彼だが様子が違う。
眠い目をこすり、よくよく見るとそれは僕の洋服だった。

「  whata fucking doing ?? ミイェレ!!?? 」

彼は僕がホームレスからもらった高級ブランドのジャケットを身につけふざけ遊んでいる。

「デラニー!!デラニ!!!」リビングにいる弟分のデラニを呼びつける。
「デラニ何とかしてくれ。あれは大事な服なんだ」
寝起きの頭でデラニに伝えるもデラニも年上のミイェレにどう注意していいのか困惑している。
ミイェレはますます調子に乗り、おどり挑発してくる。

「ミイェレstop it please」

「何を言ってるかまったくわからん、speak English」

speak English

我慢の限界だった。僕はベッドから飛び起きミイェレに詰め寄りローキックをお見舞いした。

「かかって来いよ!マサイ!」

そこからのミイェレは予想以上の反撃に出てくるのだった。
かっと頭に血が上り目が血走る。真っ赤な目をした彼は玄関先に置いてあった銅製の花瓶を手に取ると迷いなく振り被るのだった。

ちょっと待て!

僕は慌ててリビングのソファーの上に逃げるが、彼は僕を追い詰め右手に持った花瓶をフルスイングした。ファイティングポーズから瞬間的に半身になり左の背中でそれを受け止める。
イッタ!!!
背中に激痛が走るが僕の防衛本能も負けていない。アドレナリンが急ピッチで作られているのを感じる。イッタ、けど痛くねーっと思った矢先2発目の花瓶が飛んでくる。嘘だろメチャクチャフルスイングじゃん。ミイェレは花瓶を投げ出すと僕の部屋に走り僕の荷物を玄関の外に投げつけた!

「出て行けレーシスト!お前は家族でもブラザーでもない!」

口の開いたリュックからノートや本が散らばる。テーブルは蹴飛ばされ椅子はひっくり返る。彼はそれを手に取り怒りの感情をそのままぶつけ廊下に投げ出す。
僕のノートパソコンを手にする、一瞬迷った様子が彼の背中から見て取れた。彼はそれを比較的優しく廊下に置きその次に手に取ったフィルムカメラは思い切り地面に叩きつけた。
「わかった出て行く、出て行くから落ち着け!!」

ミイェレは長い指の手で顔や頭をなでリビングを右往左往する。
僕は玄関から外に出て散乱した自分の荷物を拾い集める。
2分程時間を費やし更に3分ほど時間を置いた。

「荷物をまとめる部屋に入るぞ」ミイェレは何も言わない。

部屋に入るとデラニと同じく弟分のトムが駆け寄ってきた。
大丈夫かブロー?煙草を吸おう。トムが火をつけてくれた。
「イヤーびっくりした。」トムとデラニが苦笑いする。寝起きで10秒で血を流すとは想像もしていなかった。ミイェレは僕が先日水をかけたのを根に持っているのだろう。
僕もその一件は謝ったが彼も彼でプライドが高く、またドレッドはメンタル的にも神聖なものなのだろう。僕はゆっくりゆっくり荷物をまとめる。ミイェレは黙ってパソコンに向かっている。
一息つくと急に背中が痛み出した。保険会社に事の真相を報告すれば通院費は出るのだろうか?

部屋を出る前に何か口に入れておいたほうがいいな。
僕は一度ミイェレの方を見る。彼は相変わらずmacに向かっている。
キッチンでフレンチトーストを作る事にした。


卵を割り優しくとき砂糖を混ぜる。牛乳を入れさらに混ぜ熱を通したフライパンにバターを落とす。
食パンを取り出し丁寧に卵をしみこませた。フライパンのバターは少し茶色くなりいい香りがキッチンに立ち込める。僕は火を弱めフライパンでパンをゆっくり焼いた。狐色に焦げ目がつき返しを使い
もう片方を焼いていく。不思議と怒りは消え僕は落ち着きを取り戻した。
2枚の食パンを残し5枚のフレンチトーストが出来上がった。
ミイェレの居る食卓にそれを運びデラニとトムを呼びつけ4人で遅くなった朝食を食べる。
「eat first & understand first だ 。それに everybady win 」

いつもの調子でyesとは彼は答えなかった。
彼が相槌する口癖「Yes」それに「understand first」は言葉以上に不思議な力を感じるのだった。

暫く無言で食べていたミイェレが口を開く

「good teste だ」いつもの低い博学的な声に戻っている
何をどう使って作ったんだ?僕は手順を説明した。
ミイェレが先に笑った。僕もデラニもトムもつられて笑った。
「背中めちゃくちゃいてーぞ」
 お前が先に蹴るからだ。
なるほど。。。また暫く無言が続いた。
カメラを壊して悪かったな。ジャーナリストの仕事に影響するだろう。
「ジャーナリストの仕事の契約はもう終わっている。帰ってからもするかどうかわからん。気にするな」
「ジャーナリストは辞めるな。モデルはやめてもいいがジャーナリズムは捨てるんじゃない」
やれやれだ。返す言葉が見つからなかった。

彼は真剣に世界を変えようとしている。革命家に憧れそれに見合う意志を持った男だ。
だからどこか憎めない。毎日毎日MACに向かっている姿を見ているとなおさらだ。
お前も少しは体を動かしたほうがいいぞ。何度も言うが赤い電球は外したほうがいい。
食事を終え1時間もしないうちにまた口論が始まった。

「お前はコンドームなんて持って正気か?ビニールとセックスして気持ちいいのか?」
やれやれだ。本当にやれやれだ。
「ミイェレ俺はジョバーグに行く。マンデラに会ってくる。お前は歩く人だな、俺は何だ言ってみろ?」


「you are repezen japanese you are runner 」
「yes make revolution 」
レヴォリューション?なんて意味だ?
ミイェレの好きそうな言葉、辞書を引け!!



2~3日で戻る、デラニとトムに伝え僕は部屋を後にした。

ミイェレが散らかした荷物
なくしたと思っていた銀行のカードが(僕の持つ唯一のキャッシュカード)出てきた。
やれやれだ。



4日後、部屋に戻ると皆が歓迎してくれた。銅製の花瓶はひっくり返されベランダに放置されていた。






マサイとサムライ  革命を信じる雄
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