空を飛ぶ土竜 -2ページ目

25Feb
- Mac miniを買いました
  「最近買ったもの」の話です。昨日、大学4年の卒業生と夕食を食べたら、妹が大学進学でパソコンを買う、ああそう僕もMac miniを買ったよみたいな話になり、そんなことを書いてみようかと思いました。Windows８.１のサポートが終了してしまったのでPCの買い替えを検討していたところ、同僚からMac miniを紹介されました。スマホやタブレットを持ち歩けば、家で使うものはノートでなく画面が大きい方がいいのでデスクトップがいいとは思っていたのですが、Macには全く馴染みがなく、どうしようかと思いながらも、パソコンに詳しいその同僚の「絶対、Macがお勧め！」と言う言葉を信じて買いました。検討中には家電量販店に行って陳列されている幾つかのPCも見たのですが、少し信頼度のあるものをと思うとノートパソコンでも15万円くらいはしてしまい、「長く使うならいいものを」と言う店員の言葉に誘導されてしまうと20万円くらいのものを買わなくてはならなくなってしまい、そんなお金はないと迷っていたのですが、Mac miniはこんな感じでした。■Mac mini本体僕が買った時は77,800円でした。７万円台のものもありますが、ポイント（4,240）を考えると大きな差はないかと思います。Apple Mac mini M1 2020 (8GB RAM,256GB SSD,8コアCPU/8コアGPU) (整備済み品)Amazon（アマゾン）82,000〜86,000円Apple 2023 Mac mini M2 チップ搭載デスクトップコンピュータ: 8コアCPUと10コアGPU、8GB ユニファイドメモリ、256GB SSDストレージ、ギガビット Ethernet、iPhone や iPad との連係機能Amazon（アマゾン）84,800円 Amazon（アマゾン）で詳細を見る楽天市場で詳細を見る ■モニターは家電量販店で20,000円程度のものを適当に選び、■マウスはこれまで使っていたものをそのまま使い、■キーボードは何と友人がくれました。買っても数千円で買えると思います。この本体にモニターとキーボードとマウスをつなぐだけで完成です。あとはPCに言われるままにWi-Fiをつなげて完了。ただ、Word・Excelなど、Microsoft Officeを使う場合には ■Microsoft Office のソフトを購入する必要があります。それなりの値段ですが、学生や教員用にMicrosoft Office Academic 2021 for Mac（これは現在楽天のページにあるURLです）というバージョンがあり、僕は家電量販店で18,400円で買いました。合計で117,180でした。ポイントが55,00Pくらいつきました。以上が会計報告（笑）です。もし購入を検討されるならということで馬鹿みたいに詳しく逐一書いてみました。汚い机で申し訳ありませんが、セットした状態はこんな感じです。場所も取らずコンパクトで、使い勝手は上々です。ネットも何も全部の作動はサクサク快適。ただ、deleteキーがWindowsでのバックスペース動作であったり、マウスのスクロールの上下方向が逆であったりそれなりの混乱はありますが、使っていくうちにだいぶ慣れてきました。以上、あくまでも個人的な感想とご了解下さい。
18Feb
- 漢文の白文を読む手掛かり
  高校生の学習を意図して作ったページです。非常に拙いものですが、漢文の白文を読む手掛かりについて　①文法で読む　②句法で読む　③対句で読む　④内容で読むの四つのポイントについて説明してみました。ここには白文をヨム問題として、例題１～８の全く同じ問題が２回載せてあります。最初のＡは選択肢付の問題、２回目のＢは選択肢がない問題です。どちらか自分の力に合わせて選んで解いてみてください。なお、意図としては、例題１・２は文法でヨム、例題３・４は句法でヨム、例題５・６は対句・対応表現でヨム・例題７・８は文脈でヨムというかたちです。■解答と解説はこちらの映像で見てください。動画を視聴の場合には、はまったりダラダラしゃべっていますので、音量と速度をあげてご覧ください。マイムービー白文縦動画を横で編集してしまいました。見にくいと思います。加えてまったりグデグデ話しているので、音量と速度を調整してください。高校生の学習のために漢文の白文を読む手がかりについてしゃべっています。訂正があります。最初の方①の部分で「我欲飲之」を「飲むを欲す」と読んでいますが「飲まんと欲す」、③で「獣之走壙」を「壙を」...youtu.beＡ：次の白文を読もう：選択問題例題１盗賊に父と夫を殺された謝小娥という女性が、自分の所に、夢で父と夫が語った犯人示す謎のことばを持って、その意味を知りたいとやってくる。・毎来寺中、示我十二字謎語。選択肢①寺中に毎に来たり、我に十二字の謎語を示す。②毎に来たる寺中に、我をして十二字の謎語を示さしむ。③毎に寺中に来たり、我に十二字の謎語を示す。④寺中に来たる毎に、我と十二字の謎語とを示す。⑤寺中に来たる毎に、我が十二字の謎語を示す。例題２舟が川底の岩に当たって壊れないために「積荷を積み過ぎない」という注意書きが必要。・当以大字刻石置駅前。選択肢①以て大字を当てて石を刻して駅前に置くべく、②大字の石に刻すに当たりて以て駅前に置き、③当に大字を以て石を駅前に置くを刻すべく、④当に以て大字を石に刻すべく駅前に置き、⑤当に大字を以て石に刻して駅前に置くべく、例題３例題１の続き。友達から小娥の謎のことばについて相談を受けた男が小娥を呼んで話を聞く。・令寺童疾召小娥前至、詢訪其由。選択肢①寺童をして疾く小娥を召し前み至らしめ、其の由を詢ね訪はしむ。②寺童に令して疾く小娥を召し前み至り、其の由を詢ね訪ふ。③寺童をして疾く小娥を召し前み至り、其の由を詢ね訪はしむ。④寺童をして疾く小娥を召し前み至らしめ、其の由を詢ね訪ふ。⑤寺童疾く小娥を召し前み至らしめ、其の由を詢ね訪ふ。例題４かつて川の浅瀬を山が崩れて舟の通行を害した岩。（第六回P124・６行目・未能悉去。選択肢①ほんの少しも取り除くことができない。②だれ一人として取り除こうとはしなかった。③たちどころに取り除かれるというわけではない。④今までに取り除けなかったことはない。⑤すべて取り除くことができたわけではない。例題５孟子が言う。天下を得るには民の心を得る必要がある。民の心を得るには民のして欲しいことをし、して欲しくないことをしないことだ。・民の仁に帰するや、猶水之就下、獣之走壙也。（※壙＝広野）選択肢①　猶ほ水之を下に就きて、獣之を壙に走るがごときなり。②　猶ほ水の下きに就くがごとく、獣の壙に走るなり。③　猶ほ水の下きに就きて、獣の壙に走るべきなり。④ 猶ほ水の下きに就きて、獣の壙に走るがごときなり。⑤　猶ほ水の就き下り、獣の壙に走るべきなり。例題６昨今では、なかなか杜甫などに学ぶ者がいなくなった。・幾廃而不行。①幾んど廃れて行かず　②廃せらるを幾ひて行かず　　③幾んど廃れて行はれず　④幾ばくか廃れて行はれず。⑤廃せられて行はざるは幾ばくぞ　　例題７下の本文を読んで答えよう。生物はみな死を恐れる。人は・・・当従畏死之中、揀出不畏死之理。選択肢訓読　　①当に死を畏るるの中に従ふべく、死を畏れざるの理を揀び出だす。②当に死を畏るるの中に従ひ、死の理を畏れざるを揀び出だすべし。③当に死を畏るるの中よりも、死の理を畏れざるを揀び出だすべし。④死を畏るるの中に当て従ひ、死を畏れざるの理を揀び出だす。⑤当に死を畏るるの中より、死を畏れざるの理を揀び出だすべし。解釈①当然死を恐れることの中にも、死を恐れない道理を選び出すべきだ②当然死を恐れることの中から、死の道理を恐れないすべを探し出すべきだ③当然死を恐れることよりも、死の道理を恐れないすべを探し出すべきだ④当然死を恐れる心の内に従って、死を恐れない道理を選び出すべきだ➄死を恐れる心の動きに従うべく、死の道理を恐れないすべを探し出すべきだ例題８下の本文を読んで答えよう。生物はみな死を恐れる。人は・・・吾何畏焉。選択肢訓読①吾何をか畏るる②吾何ぞ焉を畏るるや③吾何ぞ焉を畏れんや④吾何ぞ焉を畏るるか⑤吾何を畏るるか解釈①いったい自分は何を恐れているのだろうか。　②自分は死を恐れたりはしない。③何と死ぬことの恐ろしいことよ。　　　④自分がどうして死を恐れないだろうか。⑤自分には恐れるものなど何もないのだ。Ｂ：次の白文を読もう：選択肢なし例題１盗賊に父と夫を殺された謝小娥という女性が、自分の所に、夢で父と夫が語った犯人示す謎のことばを持って、その意味を知りたいとやってくる。・毎来寺中、示我十二字謎語。例題２舟が川底の岩に当たって壊れないために「積荷を積み過ぎない」という注意書きが必要。・当以大字刻石置駅前。例題３例題１の続き。友達から小娥の謎のことばについて相談を受けた男が小娥を呼んで話を聞く。・令寺童疾召小娥前至、詢訪其由。例題４かつて川の浅瀬を山が崩れて舟の通行を害した岩。・未能悉去。例題５孟子が言う。天下を得るには民の心を得る必要がある。民の心を得るには民のして欲しいことをし、して欲しくないことをしないことだ。・民の仁に帰するや、猶水之就下、獣之走壙也。（※壙＝広野）例題６昨今では、なかなか杜甫などに学ぶ者がいなくなった。・幾廃而不行。例題７下の本文を読んで答えよう。生物はみな死を恐れる。人は・・・当従畏死之中、揀出不畏死之理。例題８下の本文を読んで答えよう。生物はみな死を恐れる。人は・・・吾何畏焉。マイムービー白文縦動画を横で編集してしまいました。見にくいと思います。加えてまったりグデグデ話しているので、音量と速度を調整してください。高校生の学習のために漢文の白文を読む手がかりについてしゃべっています。youtu.be
06Feb
- 和歌41−53：基本のアプローチと修辞法
  ■和歌へのアプローチと修辞法このことについて拙いものですが動画を作ってみました。ボソボソまったり喋っているので音量と速度を調整してお聴きください。文章による説明と演習問題はこちらです。■→和歌を読む基本の考え方の説明・■→個々の修辞法の説明１：和歌を区切る２：語法文法による直訳３−１：主体の特定3−２：前後関係で読む４−１：掛詞4−２：序詞4−３：その他の修辞法
01Feb
- 2022　東大　第四問　武満徹「影絵の鏡」
  2022　東大　第四問　武満徹「影絵の鏡」Ａ：本文の構成（省略）→（B）を参照Ｂ：論と設問の問の基本骨格全体から気になる中心的なフレーズをまず拾ってみると、冒頭、筆者は自分の作曲家としての営みの意味について触れ「宇宙的な時間からすれば無に近い束の間」にすぎないのかと自問。続いて「知的生物として、宇宙そのものと対峙するほどの意識を持つようになった人類も、結局は大きな、眼には感知し得ない仕組の内にあるのであり、宇宙の法則の外では一刻として生きることもなるまいと感じられるのである」と書き、「生物としての進化の階梯を無限に経て、しかし人間は何処に行きつくのであろうか」と再び自問してキラウェア火山でのエピソードを紹介。後半、インドネシアを旅したエピソードには「私たちはともすると記憶や知識の範囲内でその行為を意味づけようとしがちではないか」として、フランスの音楽家たちの姿勢と違和感を書き、最後に影絵を演じる老人の在り方に接し「何か」を見出したとしている。とても大雑把な把握であるが、音楽の在り方を考える上で、人間の思考や意識による知的営みと、人間を包む宇宙（自然）の仕組みの在り方について書いているという大筋が見える。自然（宇宙）と人間の関係性という観点で各設問の中心を以下のように考えてみた。設問（一）圧倒的な力を前にした無力感（自然に支配される）設問（二）それをナンセンスとする考え（自然・人間≠支配・被支配）設問（三）西欧近代＝自然を知的対象化（自然を支配しようとするあり方）設問（四）宇宙との交感（自然との一体化）C：全体要約と問の役割設問の解答をつなげることで全体要約とした。（一）キラウェアの火口を前に、私たちは意味付けを拒絶する宇宙の摂理の大きな力に圧倒され、自分の無力に心をとらわれていた。（二）（その）私たちの重苦しい沈黙をナンセンスと評した言葉は、自然の因果律にとらわれ自分を見失う必要はないと思わせてくれた。（三）西欧の音楽家たちは異文化の音楽をその土地の自然や生活と切り離して対象化し、自分たちの利用に供する資源として捉えがちであった。（四）影絵を演じながら宇宙と会話するという老人の姿に、知を離れ意識を超えた次元で対象（音）そのものと一体になる自分の目指す音楽の在り方を見た。D：各設問メモ設問（一）「私のひととしての意識は少しも働きはしなかったのである」とあるが、それはなぜか、説明せよ。■解答主旨＝意識を超えた大きな力の存在への衝撃■解答メモ「圧倒的な自然の力を前に」言葉を失った＝思考を斥けられたということになる。「意識の彼方からやって来るものに眼と耳を向けていた」にはプラスのニュアンスも感じられるが、「空想や思考を拒む・どのような形容も排ける・支配される」などのことば、あるいは次の場面でも「気難しい表情」とあるように、この傍線部は、言い過ぎでなければ、自然の力に対する、大きな力による圧殺のようなニュアンスを帯びている。「ひととしての意識」を後半の段落の言葉を用いて「知による意味づけ」としてみた。■解答例：キラウェアの火口を前に、私たちは意味付けを拒絶する宇宙の摂理の大きな力に圧倒され、自分の無力に心をとらわれていたから。設問（二）「周囲の空気にかれはただちょっとした振動をあたえたにすぎない」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝人間と意味づけられない力の肯定■解答メモ傍線部「ただ・・すぎない」をマイナスで取るか否かは難しい。ケージも、例えば次の場面のフランスの音楽家のような知を優先する音楽家のひとりとしてその言葉を見るかどうか。でも彼の「バカラシイ」という言葉は言葉をその場の人々は「ごく素直な気持ちで受容」「否定的に受けとめたのではなかった」とプラスに作用しており、「歌うように」言われた言葉にはむしろ場を和ませる意図的なジョークのようで辛辣な響きも感じられない。「すぎない」ということばはその前の「沈黙の劇に註解を加えようとしたものではない」を受けていると考えられる。疑問は残るが、傍線部の大筋は、「（周囲の空気に）重苦しい沈黙に（振動を与えた）解きほぐすよう作用した」のようなニュアンスで理解すればよいのだと思う。■解答例：ケージのバカラシイという軽い言葉は、人間の無力をあまりに深く受け止めてしまっている私たちの重苦しさを解きほぐしてくれるものだったということ。ただ「人間の思考や意識による知的営みと、人間を包む宇宙（自然）の仕組みの在り方」を全体主旨と考えると、ケージの言葉がプラスとして作用しているなら、その意味は「それでも人間はそれ（力・仕組みに囚われた）だけの存在ではない」、あるいは「すべてを意味づけられるものではない」というニュアンスを帯びると考えてみたい。考えすぎかもしれない。■解答例：私たちの重苦しい沈黙をナンセンスと評した言葉は、自然の因果律にとらわれ自分を見失う必要はないと思わせてくれたということ。（圧倒的な自然を前にした重苦しい沈黙に、バカラシイというケージの言葉は、それでも私たちはそれだけの存在ではないことを示唆していたということ。）設問（三）「かれらが示した反応は〈これは素晴らしい新資源だ〉ということだった」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝西欧近代の知的対象化という在り方■解答メモ「私たちはともすると記憶や知識の範囲内でその行為を意味づけようとしがちではないか」「聴くことは音そのものと化すこと」という前提があり、インドネシアのガムランに接したフランスの音楽家がそれを「新資源」として利用すること（知的対象化）の違和感が「異質の音源を自分たちの音楽表現の理論へ組み込むことにも熱中しえない」と書かれている。「私の生活は、バリ島の人々のごとくには音楽と分かちがたく一致することはないだろう」のニュアンスも汲みたい。■解答例：西欧（フランス）の音楽家たちは異文化の音楽をその土地の自然や生活と切り離して対象化し、自分たちの利用に供する資源として捉えていたということ。設問（四）「そして、やがて何かをそこに見出したように思った」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝そのものとの一体化・交感という在り方■解答メモ説話を語りながら影絵を演ずる老人に対し「何のために誰のために行っているのか」と問うと「自分自身のためにそして多くの精霊たちのために星の光を通して宇宙と会話している」「何かを、宇宙からこの世界へ返すのだ」と応える。その時、「私は意識の彼方からやってくるものがあるのを感じ」、何も現われないスクリーンを眺め続けると「そこにやがて何かを見出したように思った」と書かれている。基本的には老人の在り方に象徴されているのは「宇宙（見えない大いなる力）と交感」である。意識を超えたものに対する「宇宙・自然の摂理へ畏れ（問一・二）」から「共にある、そのものとの交感」への展開ととらえる事はできないか。それは傍線部ウの手前にある、聴くということは記憶や知識の範囲でその行為を意味づけることを超える「音の内に在るということで、音そのものと化すこと」という在り方が重ねられる。「何か」も難しいが、冒頭、筆者は自分の作曲家としての営みの意味について触れており、老人への「何のために誰のために行っているのか」という問いかけもそれに重なっているか。設問三のフランス人の音楽に対する考え方とも対になっている。これらを踏まえるとこの文章は自分の作曲家としての在り方について述べていると考えられ、それが見出した「何か」だと捉えてみたい。■解答例：影絵を演じながら宇宙と会話するという老人の姿に、知を離れ意識を超えた次元で対象音そのものと一体になる自分の目指す音楽の在り方を見たということ。
- 2022東大第一問鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」
  2022東大第一問鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」Ａ：本文の構成■ 第①段落カイロの博物館でのエピソード日本人ガイドから盗み聞き？を糾弾される・ガイド＝日本人的：集団に分かれて壁を作る・よそ者は目ざとく見つけ容赦なく切り捨てる・筆者＝「同じ日本人なんだから許されるだろう」という日本人的甘え→「排除を通じてある種の帰属を確認」→設問一＝日本人に排除されることで日本人の同一性に依存する日本人であることに気づく。■ 第②段落日本のナショナリズム内部：同一性への志向→国民の一部を非国民として（きちんと）摘発、切断、除去する力→それなくして・外部：外国人を排除する力をわがものにできない中流幻想から覚め急速な階級分断→ナショナリズムは残忍な顔を外と内に同時に見せ始めている→設問二■ 第③段落ナショナリズム原義・nation：出生→人種・種族・国民・nature：出生→自然→当然・自明・無論生まれの同一性・「生まれ」が「同じ」者の間で、「自然」だからこそ「当然」として主張される「平等性」・それと表裏一体の「生まれ」が「違う」者に対する「排他性」しかし・生まれの同一性とは？・「ただひとり」である人間を「ある集団の一員」にする・仮構されたもの・自然ではなく強力に自然化された制度・国民的同一性は自然でないものを自然化する操作によって作られる→設問三しかも完了することなく、逆流の可能性もある。→日本人であることに誰も安心できない。→設問四Ｂ：論と設問の問の基本骨格設問（一）日本人からの排除の経験＝無意識な同一性への依存設問（二）ナショナリズムの排撃性＝同一性のための異質の排除設問（三）ナショナリズムの依拠する生まれの同一性の恣意性設問（四）ナショナリズムの排撃性とその根拠の恣意性・可変性→同一性は幻想C：全体要約と問の役割設問の解答をつなげ全体要約とする。（一）同じ日本人によそ者として排除されることで、自分の中に日本人としての同一性への依存（甘え）が潜んでいたことに気づかされた。（二）日本は（格差による）階級分断の中で排除を強めつつあるが、それは日本人としての同一性を根拠に異質を摘発、排除しようとする心性によるものである。（三）（しかし）ナショナリズムが依拠する生まれの同一性はあたかもそれが自然のものであるかのように作用しているが、実は恣意的に操作された仮構に過ぎない。（四）ナショナリズムは生まれの同一性を根拠に異質を摘発、排除するが、それはあたかも同一の国民であると思わせる仮構であり、絶えず操作される可変的な制度にすぎないため、分断が広がる今日、誰もが突如として日本人に排除される危険を孕んでいる。D：各設問メモ設問（一）「その『甘さ』において私はまぎれもなく『日本人』だった」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝日本人に排除された経験→日本人的同一性への依存（甘え）の潜在の発見■解答メモ①傍線部「その『甘さ』」とは直前に「（日本の中では集団に分かれて壁を築く）しかし、ひとたび国外に出れば・・」とある。「・・」の部分は次の形式段落に「同じ日本人なんだから・・」とあり、日本人の同一性への依存を示していると考えられる。②もうひとつ、傍線部に「まぎれもなく『日本人』だった」とあり、この括弧付きの「日本人」はいわゆる日本人的な在り方を示している。それは「集団に分かれて壁を作る・よそ者は目ざとく見つけ容赦なく切り捨てる」という記述から、日本人ガイドの「区別と排外」であり、同時に①に示した筆者の「同一性への依存」である。「内と外の間に境界を引き、内に依存し、外を排除する」日本人的な在り方であろう。③また、「まぎれもなく『日本人』だった」という言い方には「気づき」があり、自分の中にさえそうした『日本人』がいたことへの驚きが表現されている。④解答としては①の文脈に依って「国内では・・外国では・・」とすれば書きやすいが、③を端的に言い表しているのが「排除を通じて帰属を確認することを余儀なくされた」という逆説表現であり、これを生かしたい。それは②のように「ガイドの日本人的在り方によって自分の中の日本人的在り方に気付かされた」という骨格になる。⑤ただ例えば「内と外の間に壁を作りよそ者を排除する日本人的な在り方への反感自体が、日本人としての同一性への依存に支えられていたことに気づかされたということ。」のように実際に書いてみるといかにも簡潔さを欠いた解答になってしまうため、全体主旨の「同一性の幻想」に沿って次のような解答例に収めた。（迷って説明がくどくなりました。すみません）■解答例：同じ日本人によそ者として排除されることで、自分の中に日本人としての同一性への依存（甘え）が潜んでいたことに気づかされたということ。設問（二）「その残忍な顔を、〈外〉と〈内〉とに同時に見せ始めている」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝ナショナリズムの排撃性＝同一性のための異質の排除■解答メモ・「その残忍な顔」は日本のナショナリズムが「摘発、切断、排除」する力。・「外と内」とあるは「外国人と日本人」。・「中流幻想に浸っていた日本人社会は、急速に階級に分断されつつある」と書かれているのは格差の広がりによる「分断」だろう。これも要素として加えたい。・解答としては「内外同時に」とあるので、「日本のナショナリズムは格差による階級分断の中で、外国人だけでなく、同じ日本人の内部においても異質を排除する動きを強めつつあるということ」でよいと思うが、少し気になるのは、日本のナショナリズムの特異性が、「内部に働く力がなくして外部に働く力とならない」という説明になっており、ここでも「日本人内部で働く同一性の意識」を中心に置いてみたい。■解答例：日本は（格差による）階級分断の中で排除を強めつつあるが、それは日本人としての同一性を根拠に異質を摘発、排除しようとする心性によるものであるということ。設問（三）「文字通りの『自然』の中には、もともとどんな名も存在しない」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝ナショナリズムの依拠する生まれの同一性の恣意性■解答メモ・問四との解答の重複を避けるためか、守備範囲を狭く設定し、例えば「名は恣意的に与えられたものにすぎない」という主旨で「名」に限定した解答が多く見られる。それでよいのだとは思う。・ただ、あえてということで書いてみるのだが、「生まれが同じとはどういうことだろう」という自問に答える形で次の形式段落、あるいは最終段落まではひとつのカタマリを作っていて、「自然」は自然ではなく「当然」と思わせるための仮構であり、ナショナリズムが拠り所とする生まれの同一性は恣意的に作られたものにすぎないという主旨が書かれている。そのひとつの比喩（例）として「名」ということが書かれているのではないかと思うがどうだろか。■解答例：ナショナリズムが依拠する生まれの同一性はあたかもそれが自然のものであるかのように作用しているが、実は恣意的に操作された仮構に過ぎないということ。設問（四）「日本人であることに、誰も安心はできない」とはどういうことか、本文全体の趣旨を踏まえて100字以上120字以内で説明せよ。■解答主旨＝ナショナリズムの排撃性とその根拠の恣意性・可変性→同一性は幻想■解答メモ・全体要約である。ナショナリズムの生む異質の摘発と排除、分断は生まれの同一性に依拠するが、それは恣意的な仮構であることが述べられてきた。ここで最後に述べられている可変性を加え、同一性への安住の危険性をまとめる。■解答例：ナショナリズムは生まれの同一性を根拠に異質を摘発、排除するが、それはあたかも同一の国民であると思わせる仮構であり、絶えず操作される可変的な制度にすぎないため、分断が広がる今日、誰もが突如として日本人に排除される危険を孕んでいるこということ。
26Jan
- パネルヒーター
  随分久しぶりの投稿です。みなさま、お元気でお過ごしでしたでしょうか。退職はしたものの、再任用という形で勤務し、二年が経とうとしています。再任用というのは過酷な労働を強いられるのに、給料は安く（笑）、鰻には手が出ぬ土用の冷ややっこといった暮らしぶりです。絵で表現するとこんな感じでしょうか。老いも順調に進み、夏には小さな川の傍でよろめいて川に落ち、多大な精神的ショックを受けました。音声入力にも、タッチパネルからも拒否されがちで、お笑いの漫才にいたってはほとんど何を言っているのか分かりません。それこそ「お笑い」です。冬にはヒートテックやレッグウォーマーが手放せなくなり、9枚も重ね着をして部活をしています。湯たんぽをせねば寝られなくなり、机の足元が寒くて仕方がないのでカミさんに訴えたら、パネルヒーターを買ってくれました。期間限定4820円OFF大特価！【ロイヤル最上級モデル！】パネルヒーター足元 360°発熱ラウンド型遠赤外線足元ヒーターオフィスデスクヒータータイマー付き筒型暖房ヒーター暖房器具足元暖房フットヒーター電気ヒーター省エネ冷え対策受験勉強節電エコ PSE楽天市場4,980円どうせ、大したこともあるまいと思っていたのですが、なかなかの優れもの、温かく過ごしています。受験勉強とかには最適な感じがします。猫もまた老いてきました。彼女はおもしろいことに夕飯には必ず食卓の自分の席に着き、カミさんの方を見ながら「私もゴハン」と言って催促するのですが、それが一回の食事の中で数回に及ぶようになり、「ああ、こいつもそろそろ」と思っている昨今です。そんなわけで猫は太り出し、ついでに寒さに弱くなり、カミさんは夜には湯たんぽを傍に置いてやります。首や背中のツボを押してやると気持ちよさそうにしています。おお猫よおまえも体がバキバキかといったところです。大寒波が来ています。温かくお過ごしください。
26Feb
- 2020　京大理系　第二問　小松和彦『妖怪学新考・・妖怪から見る日本人の心』
  2020京大理系　第二問　小松和彦『妖怪学新考・・妖怪から見る日本人の心』ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格（一）陰翳の消失＝美のみでなく「人間」に影響（二）近代文明流入＝自然への畏怖の感覚の喪失（三）大正歌謡の暗さ＝畏怖を知る大人への訴えＢ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）電灯の普及による闇の消失は、光と闇が織りなす陰翳に根ざす日本の美を失わせただけでなく、日本人の精神や文化、人間の在り方を変質させてしまったという意味で「危機」であった。（二）急速に進展する近代化の中で西洋文明に飲み込まれた日本人は、かつて闇が持っていた、人知を超えたものに対する畏れの感覚を喪失してしまった。（三）大正期の歌謡は子供向けのものでありながら、その明るさの中に秘められた暗さは、前近代の闇への畏怖を身体に刻んだ大人たちの感覚を呼び起こすものとして作用した（に訴えることを前提として書かれたものであった）。Ｃ　各設問メモ（一）■（設問）「『闇』の喪失の危機」について、どのような意味で「危機」なのか、説明せよ。■（解答例）電灯の普及による闇の消失は、光と闇が織りなす陰翳に根ざす日本の美を失わせただけでなく、日本人の精神や文化、人間の在り方を変質させてしまったという意味で「危機」であったということ。■（解答メモ）・闇の喪失は、陰翳の消失を招き、日本の美だけでなく、日本人の精神・文化にも弊をもたらした、そういう意味で谷崎が「危機」を感じ取ったと筆者はしている。（二）■（設問）「それとともに多くの妖怪たちの姿も消え去ってしまったのである」のように言うのはなぜか、本文に即して説明せよ。■（解答例）急速に進展する近代化の中で西洋文明に飲み込まれてしまった日本人は、かつて闇が持っていた、人知を超えたものに対する畏れの感覚を喪失してしまったから。■（解答メモ）・「妖怪」という具体性を除き、近代化によって失われた「人知を超えたものへの畏怖」の喪失を軸とした。（三）■（設問）「大人たちの心情に訴えかける」ことができたのはなぜか、説明せよ。■（解答例）大正期の歌謡は子供向けのものでありながら、その明るさの中に秘められた暗さは、前近代の闇への畏怖を身体に刻んだ大人たちの感覚を呼び起こす（に訴えることを前提として書かれた）ものとして作用したから。■（解答メモ）・子ども向けの童謡が「大人たちの心情に訴えかける」ことができ、それをプラスに書いていることは、大人たちの身体経験の中に「闇への恐怖・畏怖」が刻み付けられていたためである。むしろ明確には、急速に進展する近代化とそのシステムの中に組み込まれることの恐れの反映、批判の意を汲むべきと考える。
- 2020　京大文系　第二問随想　小山清「井伏鱒二の生活と意見」
  2020　京大文系　第二問随想　　小山清「井伏鱒二の生活と意見」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格（省略）Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）太宰は師である井伏から多くを学んだと言っており、また井伏の太宰への単刀直入な物言いや、太宰が師をよく理解し尊敬する言葉からは二人の親密な関係が感じられ、そうした中で醸成された太宰の雰囲気に井伏の面影が感じられるように思った。（二）井伏の話は日常の瑣事であっても気持ちを込めて滋味豊かに話し、その落ち着いた話しぶりについ引き込まれ、気持ちが寛いでくる。（三）井伏宅の訪問記を書くことになったが、豊かな井伏の人柄を書き表すのは至難の業であり、自分の筆が井伏の魅力を損なってしまうのではないかと恐れを抱いている。（四）井伏は恰幅もよく、近寄りがたい風貌をしているが、決して自分を立派に見せようなどと思うところはなく、むしろ、冗談交じりに自己卑下してみせる洗練した振る舞いや、権威を笠に着ない軽快な若さを持ち続けているということ。（五）井伏の生活は簡素で、物に執着することもなく、生家で見つけてきたという馬糞紙でできたメンコを見ていると心が和らぐと言う井伏の言葉を聞いていると、その人柄を通して自分の心に人というものへの懐かしさが自然とこみ上げてきた。Ｃ　各設問メモこの問題については■（解答メモ）を特につけない。出来る限り広く記述を拾うことを考えて解答を作成した。（一）■（設問）「井伏さんと対坐してゐるときほど、逝くなった太宰さんの身近にゐる気のされることは、私にはないのである」のように感じられるのはなぜか、説明せよ。■（解答例）太宰は師である井伏から多くを学んだと言っており、また井伏の太宰への単刀直入な物言いや、太宰が師をよく理解し尊敬する言葉からは二人の親密な関係が感じられ、そうした中で醸成された太宰の雰囲気に井伏の面影が感じられるように思ったから。（二）■（設問）「こちらの気持ちが吸い込まれるやうな感じがする」のように感じられるのはなぜか、説明せよ。■（解答例）井伏の話は日常の瑣事であっても気持ちを込めて滋味豊かに話し、その落ち着いた話しぶりについ引き込まれ、気持ちが寛いでくるから。（三）■（設問）「井伏さんという芳醇な酒を、私といふ水で、いたづらに味ないものにしてしまふのではないかと思ふ」はどういうことか説明せよ。■（解答例）井伏宅の訪問記を書くことになったが、豊かな井伏の人柄を書き表すのは至難の業であり、自分の筆が井伏の魅力を損なってしまうのではないかと恐れを抱いているということ。（四）■（設問）「殊更に自分を野暮ったく印象付けようとしてゐるのかも知れない。それほどに井伏さんはスマートなのである」はどういうことか説明せよ。■（解答例）井伏は恰幅もよく、近寄りがたい風貌をしているが、決して自分を立派に見せようなどと思うところはなく、むしろ、冗談交じりに自己卑下してみせる洗練した振る舞いや、権威を笠に着ない軽快な若さを持ち続けているということ。（五）■（設問）「井伏さんと対坐してゐるときほど、逝くなった太宰さんの身近にゐる気のされることは、私にはないのである」のように感じられるのはなぜか、説明せよ。■（解答例）井伏の生活は簡素で、物に執着することもなく、生家で見つけてきたという馬糞紙でできたメンコを見ていると心が和らぐと言う井伏の言葉を聞いていると、その人柄を通して自分の心に人というものへの懐かしさが自然とこみ上げてきたということ。
- 2020　京大文系　第一問評論　　小川国夫「体験と告白」
  2020　京大文系　第一問評論　　小川国夫「体験と告白」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格（一）体験談＝真実の隠蔽は自己の弱さの隠蔽（二）自己の弱さの隠蔽は人間に共通する心理（三）自己の弱さの隠蔽のために他人の弱さに目を向ける（四）真実の告白としてリアリズム小説→決定論に陥る（五）体験談→小説→人生の真実を探求するＢ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）体験を語るとき人は真実の姿を美化して語ろうとするものだが、それは自分の臆病さを隠したい心理と同時に、そうしたことにこだわりを持つ自分を見抜かれたくないという思いが働いている。（二）自らの弱さを防御しようとする過敏な心性は人間誰しもが共有するものであり、自分の隠したい弱さに目を向ければ、他人の、ひいては人間の真実を理解できるはずだ。（三）人間にとって誰もが持つ弱点を明らかにすることは大きな関心事だが、その関心は自己の弱さには向けられず、むしろ他人の運命をあわれみ、それに酔うことで自分のあわれさを直視することを避ける自己認識の甘さに通じている。（四）体験談は真実を隠蔽してしまうために、それをあらわにしようとしてリアリズムの小説が興ったが、それは人生が一つの崩壊の過程に過ぎないという決定論を導くことになってしまった。（五）小説家は、自分を美化し真実を覆い隠そうとする体験談を脱し、それを克服しようと自分の真実の姿を暴き告白したリアリズム小説の試みを超えて、その使命として、人間の生の言葉を手掛かりに、分厚い階層の中に隠された果て知れない人生の意味を明らかにしたいと意思する者である。Ｃ　各設問メモ（一）■（設問）「それと今一つ、それにこだわっている自分も見抜かれたくない」はどういうことか説明せよ。■（解答例）体験を語るとき人は真実の姿を美化して語ろうとするものだが、それは自分の臆病さを隠したい心理と同時に、そうしたことにこだわりを持つ自分を見抜かれたくないという思いが働いているということ。■（解答メモ）・傍線部、二つの「それ」が指示しているのは、自分が「臆病であること」。自分を美化して体験を語るのは自分の臆病さを隠すためであると同時に、そう考えている自分を隠すためだということ。（二）■（設問）「他人を有効に罵りたければ、自分の欠点を相手のこととして並べ立てればいい」はどういうことか説明せよ。■（解答例）自らの弱さを防御しようとする過敏な心性は人間誰しもが共有するものであり、自分の隠したい弱さに目を向ければ、他人の、ひいては人間の真実を理解できるはずだということ。■（解答メモ）・傍線部を額面通り受け取れば、解答例としては次のようになる。たとえ自分の弱点を見抜かれた場合でも、自らの弱さを隠そうとする心性は人間が共有するものだから、相手も同じ弱点を持つゆえに自分を罵ることを指摘すればよいとうこと。・次の形式段落冒頭に「ここまで、私は体験談について書いてきた」とあるため、まず素直に「体験談を自分の弱さが暴かれないように語る人間共通の心性」をとらえたい。ただ、全体の「自己の真実を直視する」という主旨から流れから考え、設問一「体験談＝自分の弱さの隠蔽」と、設問三「他人の弱点に目を向けるが、自分の欠点には目を向けない」の橋渡しとして違和感がある。傍線部は「つまり」という要約表現に続けて「人間には共有の過敏な粘膜がある」とし、それが「リアリズム小説の第一の着眼点なのだ」としている。したがって敢えて「（二）真実は自分の弱さの中にある」のに「（三）他人しか見ない」という流れを作ってみた。（三）■（設問）「人間が人間に対して抱くこの種の興味が、いかに矛盾しているか」はどういうことか、アウグスチヌスの議論を参考に説明せよ。■（解答例）　人間にとって誰もが持つ弱点を明らかにすることは大きな関心事だが、その関心は自己の弱さには向けられず、むしろ他人の運命をあわれみ、それに酔うことで自分のあわれさを直視することを避ける自己認識の甘さに通じているということ。■（解答メモ）・傍線部を傍線部「この種の興味」は直前の「小説を書いたり読んだりすることが面白い」ことだが、もう少し前にある「誰もが持つ弱さを『暴く』こと」であろう。それが「矛盾」と書かれているのは、その興味が「自分」には向かず、「他人」に向くからである。（四）■（設問）「かつては、真実は小説でなければ語り得ないという信念さえあった」について、このような信念が失われたのはなぜか、説明せよ。■（解答例）体験談は真実を隠蔽してしまうために、それをあらわにしようとしてリアリズムの小説が興ったが、それは人生が一つの崩壊の過程に過ぎないという決定論を導くことになってしまったから。■（解答メモ）・体験談（真実の隠蔽）→リアリズム小説（真実の告白）→リアリズム小説の限界（人生が崩壊の過程であるという決定論に陥る）を書く。（五）■（設問）「これからも、或る種の人々は言葉・言葉に挑み続けるであろう」のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。■（解答例）小説家は、自分を美化し真実を覆い隠そうとする体験談を脱し、それを克服しようと自分の真実の姿を暴き告白したリアリズム小説の試みを超えて、その使命として、人間の生の言葉を手掛かりに、分厚い階層の中に隠された果て知れない人生の意味を明らかにしたいと意思する者であるから。■（解答メモ）・「或る種の人々」は「真実を追い求める人」であろうか、「小説家」であろうか、判然としないが、小川国夫の文章であり、随所に小説に関する記述があるので、「小説家」と取るのが妥当かと考えた。小説家はトルストイがそうであったように、単なる体験談を脱し、リアリズム小説の陥った決定論を超えて人間の真理に迫ることを宿命的に使命として身に負う者だとしたい。
15Jan
- がんばるバナナ
  受験生のみなさん。がんばるバナナを作ってみました。頑張ると言うと力んでしまいますが、がんばるバナナとつぶやくと、頑張りながらも程よく力が抜けるかもしれません。焦らない、慌てない、諦めない、です。
10Jan
- 2021 東北大　第二問小説　重松清　『鷹乃学習』
  2021 東北大第二問小説　重松清　『鷹乃学習』ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観離婚のために子どもを妻に渡すことになり、自分の両親と最後の別れをさせるため帰省する場面を描いている。『鷹乃学習』というタイトルどおり、内心に複雑な思いを抱えながらそれでも自立して前に進もうとする子供の成長と、それをＢ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（二）私は夫婦の離婚について翔太と直接話をすることを避けたかった。（三）（また両親との関係も）互いが自然に忘れるために両親と翔太の親密過ぎない関係は好都合と思いたかった。（四）別れの晩を明るくしようとする互いの気遣いによって却ってよそよそしくなる場の空気が、自分を責めているように感じられた。（五）（しかし）翔太が傷つきながらも自分の助けを拒み懸命に歩いて行こうとしている姿を見て、自分の立場ばかり考え翔太の思いに寄り添ってこなかった自分を痛切に感じている。Ｃ　各設問メモ■設問二「早口になった」とあるが、「私」はなぜそのような態度をとってしまったのか。三十字以内で説明せよ。■解答例私は夫婦の離婚について翔太と直接話をすることを避けたかったから。■（解答メモ）「おじいちゃんとおばあちゃんにバイバイって言った方がいい？」と言う翔太に対して「べつにお別れじゃないんだって、・・言うなよ、おばあちゃんが寂しがるから」と答える。それが「早口になった」のは、その言葉がマイナスのニュアンスを帯びているからだ。早口の理由は、翔太が祖父母ともう会えないことを翔太が分かっていることに動揺したからともとれる。「お別れじゃない」と言いいながら、それは嘘であることをごまかそうとしているとも取れる。「おばあちゃんに言うな」と諭しながら、それが自分の都合でしかない、息子にとって理不尽な要求であると感じたからとも取れる。ただ、全体主旨が、私の「傍観」から「直視」の変化であると考えると（設問五の解答メモ参照）、それ以上、翔太と直に離婚について込み入った話をするのがためらわれた、避けたかったからと考えたい。内心は複雑な思いがあろうが、親の離婚を受け容れる言動を選んでいる翔太に対する「うしろめたさ」も働いていたに違いない。■設問三「かえってそのほうがお互いによかったんだよ」とあるが、どういうことか。本文の内容に即して四十字以内で説明せよ。■（解答例）互いが自然に忘れるのに両親と翔太の疎遠は幸いだったと思い込もうとしたということ。■（解答メモ）「そのほうが」という指示語が指しているのは、祖父母と翔太には「微妙なよそよそしさ」があって「それを解消できないままになってしまった」ことである。ごく自然に考えれば「よそよそしい関係が、かえって別れの辛さを軽減する」ということであり、それでいいと思う。ただ、「解消できないままになってしまったが、かえってそのほうが」というつながりは離婚によって引き離された今後の状態を「川の水が・・ごく自然に・・忘れていけばいい」を指していると思われる。また傍線部末尾の「・・んだよ」には、次の「と自分を納得させた」のニュアンスが含まれると考え「思い込もうとした」とした。■設問四「そっくりそのまま苦みになってしまっていた」とあるが、「私」がこのように感じた理由は何か。本文の内容に即して六十字以内で説明せよ。■（解答例）別れの晩を明るくしようとする互いの気遣いによって却ってよそよそしくなる場の空気が、自分を責めているように感じられたから。■（解答メモ）ビールの苦みは三度書かれている。①：祖父母の気遣いに応えようと無理をする息子を見たとき。②：見られない秋の祭を話題にしてしまい場の雰囲気を繕うために母がテレビを点けたとき。③：場の空気を変えようと燕の巣の場所を訪ねると、それが街の寂びれを母に言わせることになってしまったとき。③のみの内容を対象とする解答ではなく、三つの描写を踏まえるべきであろう。共通するのは、「場の空気を何とか暗くしないようにする気遣い」であり、それがかえって微妙で不自然な空気を作ってしまう。そこに自分の落ち度が責められているような「いたたまれなさ」を感じているのである。「夕食の場が暗いものにならないようにと努める息子や祖父母の互いの気遣いが、どうかすると却って沈んだ空気を生んでしまうことに、自分が責められているようないたたまれなさを感じたから」という内容になる。■設問五「遠ざかる息子の背中を、じっと見つめた」には、「私」のどのような思いが表れているか。本文全体を通じた「私」の翔太に対するまなざしの変化に着目して、七十五字以内で説明せよ。■（解答例）翔太が傷つきながらも自分の助けを拒み懸命に歩いて行こうとしている姿を見て、自分の立場ばかり考え翔太の思いに寄り添ってこなかった自分を痛切に感じている。■（解答メモ）何度も転んで傷を負いながら走る翔太の姿からは、両親の離婚を素直に受け容れる聞き分けの良さの陰に、隠された内心の屈折を抱え、それが衝動となって現われている感じを受ける。しかも父親の手を払いのけて。それは、父への反抗や恨みではなく、それでも自分の力で前に進もうとする姿勢だと考えたい。一方、父親である私は、そうした翔太の抱える内面に気付こうとしてこなかった。離婚についても翔太に話したのは妻であり、その報告を聞いただけ。両親が自分たちの離婚をどう思うかが気になる。両親がもし亡くなったら翔太を参列させるべきかなどと考える。そんな描写が、そういう目で見るといくつもあることに気づく。父親は「翔太の心に傷を残すことはするなよ」と言うが、自分のことばかり考え、どこにも翔太の気持ちに寄り添ったり、その気持ちを直に聞いたりすることはない。それが変化したのが最後の場面だろう。懸命に自力で前を向こうとする翔太の姿に、今までの自分の在り方の非を突き付けられたのである。「私の翔太に対するまなざしの変化」と言ったとき、「抱き取ってやろうとした」「迎え入れる体勢をとった」などの描写から、いかにも自然に「保護・庇護」から「自立を見守る」対象への変化と考えやすいが、問の指定に「本文全体を通じた」とあることを考えると、「傍観」から「直視」へのまなざしの変化を読むべきだと考えられる。
- 2021 東北大第一問評論　河本英夫　『経験をリセットする　論理哲学から行為哲学へ』
  2021 東北大第一問評論　河本英夫　『経験をリセットする　論理哲学から行為哲学へ』Ａ　全体概観3.11での経験を冒頭に置き、今までの経験で処理できない思いにたいして、哲学者は何ができるかと問う。その手がかりとして「吟遊詩人」の、言葉を紡ぐことで言葉にならない思いに形を与え、新たなきっかけを導く在り方を引き、哲学者もそれまでに獲得した自分の枠組みを捨てて、生きている人々の声に耳を澄まし、その経験を組織化し、自らが語る言葉を見つけ出す必要があるとしている。Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（二）（哲学者である私は3.11の際）経験を超える悲惨に言葉を失い立ち尽くすしかできなかった。（三）（吟遊詩人は）苦しむ人々の思いに耳を傾け、言葉を与えて区切り、形にすることで、新たな契機を生み出す（者だが）。（四）（哲学者も）置かれた状況下で自らを問い直し既成の知の枠組みを捨てることで、柔軟な視点や新しい経験が得られる。（五）未曾有の悲劇を前に哲学ができることは、既成の思考を捨て、言葉の出現する場所である人々の中に赴き、言葉の力がもたらす経験を組織化しつつ、自らの語る言葉を模索することである。Ｃ　各設問メモ問二■（設問）「持って行き場がない」とはどのようなことか。本文の内容に即して30字以内で説明せよ。■解答例経験を超える悲惨に言葉を失い立ち尽くすしかできなかったこと。■解答メモ3.11という未曾有の経験の前では「過去の経験は役に立たない。またそこでの思いは、持って行き場がない」が傍線部である。「持って行き場がない」のは、その時感じた「思い」であり、次の吟遊詩人の箇所に「思い余ったまま言葉にならない事態」「身の丈をはるかに超え出た自然事象に立ち尽くすよりない場面」とあるような衝撃である。後の記述に言葉がクローズアップされているので「言葉に表せない」「意味づけられない」、あるいは「手続きや手順が見つかれば」という記述からは「どこにどう処理すればいいか方法が見つからない」などのニュアンスが見える。ただこの「思い」は被災者と言うよりは（「誰にとっても」ともあるが）、「哲学はいったい何ができるのか」と続く文脈上、哲学者としての筆者の「思い」が強いと考えるのが妥当？かと思う。そういう事態に直面して「何もできない自分」を感じている。問三■（設問）「貧窮と寒さに耐えることを歌ったような長詩や短歌」とあるが、なぜそのような詩や歌が作られたと筆者はとらえているか。本文の内容に即して45字以内で説明せよ。■解答メモ■解答例苦しむ人々の思いに耳を傾け、言葉を与えて区切り、形にすることで、新たな契機を生み出すため。■解答メモ「哲学者はいったい何ができるのか」と問いかけておいて、筆者は「吟遊詩人」の話を持ち出している。そこにヒントがある、ということである。「言葉にならない事態」「立ち尽くすよりない場面」でも「何かしら言葉を紡ぎ、思いにかたちをあたえてくれる」「声にならない声を感じ取り・・きっかけをあたえる」「予想外の言葉の断片が、新たな脈絡を見いだすようにその場の雰囲気に輪郭をあたえ、リセットしていく」。傍線部は山上憶良の例だが、そこにも「持って行き場のない思い」に「区切りをあたえるような歌」とある。山上憶良も困窮している当事者ではない。「苦しむ人々＝声にならない声＝言葉によって区切り、形をあたえる→新たなきっかけを作る可能性がある」とまとめる。問四■（設問）「捨てることのなかで初めて見えてくる」とはどのようなことを指すか。本文の内容に即して50字以内で説明せよ。■解答例置かれた状況下で自らを問い直し既成の知の枠組みを捨てることで、柔軟な視点や新しい経験が得られること。■解答メモ前問での「吟遊詩人」のあり方が、「吟遊詩人に匹敵するだけの言葉を、哲学はもつことができるのだろうか」と、哲学者のあるべき姿として重ねられていく。キーワードは「捨てる」という言葉である。「時間と労力をかけて獲得し、修得したもの」「小さな完成品」を捨てる。そのことが、「新たな経験」「経験ののびやかさ・心の起伏の弾力」「別様に進むことのできる道」「そのままの状態での維持成立」を導いてくる。字数制限があって厳しいが、「吟遊詩人」の「放浪」して人々の苦しみに接するニュアンスを「置かれた状況下」とし、導かれるものは「柔軟な視点」「新しい経験」とした。問五■（設問）「吟遊する哲学は、ある種の詩人でもなければならない」とあるが、どういうことか。本文全体の内容を踏まえて90字以内で説明せよ。■解答例未曾有の悲劇を前に哲学ができることは、既成の思考を捨て、言葉の出現する場所である人々の中に赴き、言葉の力がもたらす経験を組織化しつつ、自らの語る言葉を模索することであるということ。■解答メモ傍線部は「哲学は吟遊詩人のようでなければならない」ということだろう。「吟遊詩人」は「放浪」し「苦しむ人々の思いに耳を傾け、言葉を与えて区切り、形にすることで、新たな契機を生み出す」という存在である（問二）ので、これをベースに「自らの枠を取り去る」（問三）を加える。冒頭に未曾有の悲劇を前にしたとき（すなわちそれまでの経験が役に立たない場面で）求められる新しい哲学像が提起されている（問一）ので、それを大枠とする。新しい哲学像とは何かというと、文中にも「行為」という語があり、「論理哲学から行為哲学へ」というサブタイトルが付けられていることから分かるように、観念ではなく、行為だということになる。論理哲学に該当する部分を本文中に拾うと、「世界や人間についての説明・整合的な説明図式を与えようとする」が該当する。頭による解釈ということである。一方「行為」とは、末尾の一文に「言葉の出現する場所に佇み、言葉とともに経験が動きを開始し、経験の動きが言葉とともにかたちをとる行為は、いずれにしろ詩的である」とあって、抽象的で捉えにくいが、頭の中で考えるだけではなく、言葉による経験の組織化（によって自らの言葉を獲得）する動的なものと言える。と同時に「言葉の出現する場所に佇み」「言葉の出現する場所へと戻っていく」に注目すると、「吟遊詩人」の「放浪」と重ね合わせ、「苦難に遭っている人々の中に自ら入っていき直にその声に耳を澄ます」ことだとも考えてみたい。
- 2020　東北大　問題二　随想　須賀敦子「となり町の山車のように」
  2020　東北大　問題二　随想　須賀敦子「となり町の山車のように」Ａ　全体概観基本的には須賀敦子の文筆家としての自身の在り方、脱線しがちな夢想家だった自分の思考と感性にどう形を与えればいいかを模索する過程が書かれている。そう考えた時、「時間が駅で待っていて、夜行列車はそれを集めてひとつにつなげるために、駅から駅へ旅を続ける」というこの文章の軸になる着想が比喩であること、「どう書くか」についての模索の過程が書かれていることを考えて全体の解答を統一する必要があると思う。ここで試みるのはそれを意識した解答なので記述に忠実に書く解答からかなりズレた解答例になっていることを承知いただきたい。全体概要は次のＢで、各設問の考え方はＣに示した。Ｂ　全体要約と問の役割以下、青字が設問解答。黒字の内容を補い、つなげると全体要約をなすようにした。私はいろんな考えが沸いてきて脱線しがちな性癖であったのをよく叱られた。そのため脱線しないようにしようと無駄な決心をして生きてきたが、ある時、山間の駅に止まった夜行列車の中で無価値と思われるイメージの断片でも拾い集められることでひとつの意味を作り出すという着想を得た。しかし若い頃はその自分の記憶の断片をつなげる論理を見い出せないことへの焦りを感じ、自分のいる場所が見えなかった。山間の駅で得た着想をずっと大切にあたためてきたが、年をとってからようやくそれが、断片的な記憶を、一つの論理に従って組み立てると同時に、多様で具体的な要素として織り込むことで作られる人間性豊かな物語になることだと気づき、誰もが一線を退くほどの老齢になってやっと気づいた創作の在り方をもとに懸命に活動している。Ｃ　各設問メモ■設問一（１）何の脈絡もなく突然に（２）修辞の継続的な反復練習■設問二「もう旅が退屈ではなかった。暖房のきかない列車も気にならなかった」とあるが、「わたし」をそうさせたのは何か。四十五字以内で説明せよ。■解答例無価値と思われるイメージの断片でも拾い集められることでひとつの意味を作り出すという着想■解答メモ傍線部「もう旅が退屈ではなかった。・・」はプラスの思いであり、その思いを起こさせた「時間が駅で待っていて、夜行列車はそれを集めてひとつにつなげるために、駅から駅へ旅を続けている」という考えも、後々まで筆者を支えるプラスのイメージである。これを「列車」「時間」を具体的に、例えば「夜行列車が、時間を拾い集めつなげながら走っているというイメージ」のように書くことが普通に考えられるが、全体概要で示したように、全体が筆者の創作姿勢の模索であると考え、解答の並び自体が全体要約の一部となると考えようとすると、これを比喩として「記憶（時間）の断片が論理（列車）によってつながれる」としてみたい。また、冒頭の母とのやりとりが、「いっぱい考えがわいてきて」「脱線」しがちな自分の性癖を戒められ、「（一般的な考え方から）脱線しないようにしよう」と「無駄な決心をした」と書かれているつながりを踏まえれば「記憶の断片」は「意味をなさない飛躍したイメージ」とでも言えるものだろう。また、「列車が時間にしたがって走っているのではない」は、普通の論理からはみ出しがちな筆者にとって「最初からそういう既存の論理があるのではない」という意味合いも含まれていると考えたい。■設問三「太陽がオレンジ色に輝く国に帰りたかった」には、「わたし」のどのような心情が込められているか、三十字以内で説明せよ。■解答例自分の記憶の断片をつなげる論理を見い出せないことへの焦り。■解答メモ「パリにいて、イタリアの明るさを思う」と読める。またもう少し読むと、イタリアへの思いは「ほんとうは日本に、家に帰りたいんじゃないか」と書かれているので、「イタリアに重ねられた望郷の念」と読める。ただ、やはりそれでは問の解答が全体としての部分の役割をなさない。ここで示されている「望郷の念」は、続く記述の「自分に位置をはかるたったひとつの手がかり」「わたしはあせってばかりいた」が示唆する筆者の「迷い」の裏返しと考えられる。「迷い」の中身は、私は「脱線が好きなのか？」→私のは「脱線とは少し違う」→「線路に沿って走らないと思考と思考はつながらない」→「でも、どれがいったい線路なのか？」と書かれており、「線路に沿って走ること（論理）が大事なのは分かるが、どれが線路（論理）かわからない」ということではないかと思う。■設問四「それだけでは、いい物語は成立しない」とあるが、「わたし」の考える「いい物語」とはどのような物語か。本文の内容に即して六十字以内で説明せよ。■解答例断片的な記憶を、一つの論理に従って組み立てると同時に、多様で具体的な要素として織り込むことで作られる人間性豊かな物語■解答メモこの問いはこの部分の記述の「縦糸・横糸」をきちんと読めば書ける。「論理」と同時に「多様で具体的な個別の人間的事象」を織り込むことで「いい物語」ができる、ということになる。ただ、設問三の欧州での列車の記述の最後に「時間が駅で待っていて、夜行列車はそれを集めてひとつにつなげるために、駅から駅へ旅を続ける」イメージをずっと大切にしてきたと書いてあることは大事で、それがこの部分、老齢になって初めて自分に理解されたということになる。飛躍しがちなイメージ（思考・感性）の断片は、縦糸の論理でもあり、横糸の人間味豊かな具体的エピソードや情感でもあるということを理解したのだろうと思う。補足的に言えば、この部分の解答から、他の設問の解答の中心のニュアンスを定めたい。■設問五「みなが店をばたばた閉めはじめる夜の街を、息せき切って走りまわっている」とは、どのようなことを言っているのか、本文の内容に即して四十五字以内で説明せよ。■解答例誰もが一線を退くほどの老齢になってやっと気づいた創作の在り方をもとに懸命に活動している。■解答メモ中心主題は設問四で言っており、傍線部はその補足的な役割をしている。比喩表現なので「みなが店をばたばた閉めはじめる夜の街」は「誰もが仕事の一線を退く老齢期」、「息せき切って走りまわっている」は「奮闘している」とする。老齢になってやっと道が見つけた道に従って懸命に執筆しているということ。蛇足だが、最後の一文。山間の夜の駅で「かん高い汽笛が前方に響い」たことを引き金として最初の着想が導かれ、欧州の列車で「ジュネーヴ」という「鋭い叫び」が、その着想を思い起こさせている。「音」が筆者に新たな思考の展開を生むきっかけを与えていることが分かる。
- 2020 東北大第一問評論　安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか　教育を生物学的に考える』
  2020 東北大第一問評論　安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか　教育を生物学的に考える』ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観人が進化の過程で生物学的に、一般的・規範性の高い価値基準を、人に教え、人から学ぶ能力を相補的に備えることで、私的世界だけでなく他者と互恵的に生きる公的世界を意識する社会的動物であることを書いている。Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。青字が解答本文、黒字の内容を補うと全体要約が見える形をとった。解答自体としては同じ字句の繰り返しになるのであまりよくないが、次の構成内容が理解されていればよいだろう。人が、（二）一般性・規範性の高い価値基準を無意識に教えようとする行動を取り、同時に（三）一般性・規範性の高い価値基準を無意識に学ぼうとする能力を持つが、それは（四）進化の過程で同時に獲得されてきた、相補的で互恵的な関係にあり、（五）それは人が、一般的、規範的な価値基準を伝え学ぶ能力を備え、利己的私的世界とは別に他者との関係性を互恵的に生きる公的世界の存在を意識し、公私の折り合いをつけることで社会に円滑に在ろうとする動物であることを示唆している。Ｃ　各設問メモ■（設問二）「大人の側では「教育」などと思っていない何気ない行動」とあるが、これはどのような行動を指すのか。本文の内容に即して30字以内で説明せよ。■（解答例）一般性・規範性の高い価値基準を無意識に教えようとする行動■（解答メモ）設問（一）「無意識に教える」、設問（二）「無意識に学ぶ」を並列させる。■（設問三）「子どもは、自分の好きな赤いほうではなく、第一の実験者が見て視線追従した青いほうをさす割合のほうが多いのです」について、この実験の結果は、子どもが何を学んだことを示しているのか。本文の内容に即して30字以内で説明せよ。■（解答例）一般性・規範性の高い価値基準を無意識に学ぼうとする能力■（解答メモ）設問（一）「無意識に教える」、設問（二）「無意識に学ぶ」を並列させる。■（設問四）「教える能力と教わって学ぶ能力」の両者の関係を筆者はどのようにとらえているのか。本文の内容に即して30字以内で説明せよ。■（解答例）進化の過程で同時に獲得されてきた、相補的で互恵的な関係■（解答メモ）「無意識に教える・学ぶ」ことが「相補的」なものとして、進化の過程で獲得されてきたことを答える。■（設問五）筆者はこの文章で「ヒト」をどのような動物ととらえているのか。本文全体の内容を踏まえて90字以内で説明せよ。■（解答例）一般的、規範的な価値基準を伝え学ぶ能力を備え、利己的私的世界とは別に他者との関係性を互恵的に生きる公的世界の存在を意識し、公私の折り合いをつけることで社会に円滑に在ろうとする動物■（解答メモ）「無意識に教え・学ぶ」ことが「相補的」に獲得されてきたことは、人が私的世界だけでなく公的世界に生きる社会的動物であることを答える。
- 2021京大理系　第二問　岡井隆「韻と律」
  2021　京大理系　第二問　岡井隆「韻と律」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格■作歌の態度として、身の周りにある言葉に「安住」せず、短歌という「定型」の制約を超えて内容を表現するために、言葉を求め、高める「努力」が必要だとしている。（一）短歌＝日常語の自然に反する定型の制約下にある非日常的詩形（二）短歌の困難＝現代日本語との不協和ではなく定型詩ゆえの困難（三）作歌の姿勢＝定型の制約の中で詩としての言葉に高める努力Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）短歌の音数律は日常語から自然に成立したかに思われるが、その五七の音の特殊な組み合わせは、短歌も定型詩としての人工的な規約に制約されてあることを示している。（二）短歌の難しさは古代日本語との乖離（現代日本語との不協和）にあるのではなく、内容を定型に凝縮させ、日常語とのせめぎ合いを経て言葉を非日常的に昇華させなくてはならないことに由来する。（三）古今東西のあらゆる言葉を用いて自らの思いを短歌に表現した茂吉のように、安易な日常語への依存を避け（安住を戒め）、定型の厳密な約束のもとに言葉を詩の言葉に高める努力が求められる。Ｃ　各設問メモ■設問一「日常語から自然に、するすると引き出され、定着したなどというものではない」のように筆者が考える根拠はなにか、説明せよ。(三行)■（解答例）短歌の音数律は日常語から自然に成立したかに思われるが、その五七の音の特殊な組み合わせは、短歌も定型詩としての人工的な規約に制約されてあることを示しているということ。■（解答メモ）短歌の五七の音数律、五拍七拍の句のカタマリなど、短歌は日常態から自然に移行したもののようにも思われるが、その五七の組み合せ、重ねられ方は特殊・不自然なものであると筆者は言う。その不自然さを筆者は、「定型とは、つねに、超自然的な不自然な規約にほかなりません」「定型の概念は、もともと、その詩形が、以上の意味で自然に反し、人工の約束という側面を持つことによってのみ成立するものではあるまいか」とあるように、短歌自体が持つ定型詩として不自然さ（超自然的、不自然な規約・反自然、人工の約束）にあるとする。短歌が自然なものではなく、定型自体のもつ制約の下にある不自然なものであることを対立させて中心主旨とする。■設問二「古代日本語を背景にした時には、短歌詩型は、今よりもはるかに自然で、作りやすかったろう」の考えに筆者が反対するのはなぜか、説明せよ。(三行)■（解答例）短歌の難しさは古代日本語との乖離（現代日本語との不協和）にあるのではなく、内容を定型に凝縮させ、日常語とのせめぎ合いを経て言葉を非日常的に昇華させなくてはならないことに由来するから。■（解答メモ）傍線部は一般にありがちな考え方として、近代短歌の貧困さが、「古代日本語との乖離」あるいは「現代日本語との不協和」にある、すなわち言葉の問題にあるとする見方を示している。それに対して筆者はそうした問題ではなく、「定型詩は、その型へと内容を還元、集約しなければならない」、「日常語を非日常世界へと昇華、飛躍したところに短歌の世界がある」、すなわち「定型の制約」が問題であるとしており、その対立を書く。問の指定は傍線部の考え方に反対する理由を問うており、「定型の制約は古代においても変わらないから」と書くのが普通だが、全体が「作歌の姿勢」を述べていることから、「古代においても同じ」ことより、「定型の制約」を中心と考え、後半に置く解答とした。■設問三「彼の全教養をあげて、うたうべき思想内容と短歌定型律とに忠実たらんと努めている」はどういうことか、説明せよ。(三行)■（解答例）古今東西のあらゆる言葉を用いて自らの思いを短歌に表現した茂吉のように、安易な日常語への依存を避け（安住を戒め）、定型の厳密な約束のもとに言葉を詩の言葉に高める努力が求められるということ。■（解答メモ）歌人は古語に執着してきたように言われるが、実際は一部を除いた一般歌人は口語の世界にのみ安住している現状を、「表現内容を厳密な提携の約束のもとに表明するために、古今東西の言葉を求める態度」がないと筆者は指摘する。そのうえで、現代口語、ラテン語、文語表現を用いた茂吉の歌を紹介し、「・・概念を、短歌の言葉に翻訳して、しかもそこに沈痛なひびきをこもらせている」と言い、「彼の全教養をあげて、うたうべき思想内容と短歌定型律とに忠実たらんと努めている」という傍線部につなげる。傍線部の直後には「この態度」とあり、傍線部は歌人としてのあるべき姿勢として書かれている。だから、ここでの主旨は茂吉を讃えることにあるのではなく、茂吉は「あるべき姿勢」の「例」であり、解答も「努力」と「安住」の対立を書きたい。「安住」に対して、「言葉の世界（への見識）を広げる」「安易な日常語への依存を避ける」「言葉の概念に寄りかからない」態度であり、「制約の中で言葉を高める」姿勢が求められていると捉えてみたい。
- ２０21京大文系　第二問　石川淳の随想「すだれ越し」
  ２０21京大　第二問　石川淳の随想「すだれ越し」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格【設問一】は戦火における少女の死。【設問二】は少女の死と慰めの喪失。【設問三】は筆者の傍観的態度。そこまでは話の流れが乱れなく進む。【設問四】もそれなりに書こうと思えば焼け跡に残った古今集の一片とに書ける。ただ【設問五】が難しい。藤の花の象徴するものが「少女」だと考えれば、話は通じるのかもしれない。しかし、少女と重ね合わせるのは無理ではないかと思う。わたしは少女をすだれ越しに見ていたわけでもなく、少女を求めていたのでもない。また、少女と考えると【設問四】の焼け跡に残った古今集の挿話が全体の中で何の位置も占めない単独のエピソードということになる。ただ全焼したというのであれば問題ないが、そこに古今集の一片が残っていたという挿話は、切り捨てるには特殊である。意味のない挿入はない？気がする。そうして読み返したとき「人生における真実」という言葉が引っかかる。「傍観的姿勢」と「真実」の間に考えるべき接点がないか。すると【設問五】の「花」が象徴するのは「真実」ではないかという気がしてくる。これは深読みの無謀な解釈かもしれないが、あえてその方向で解答を考えてみたい。Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）ひとりの少女が直撃弾を受けて路上で死んだが、死が日常化している戦時下ではそれはどこにでもある小さな出来事でしかなかった。（二）少女が隣室で歌うシャンソンの明るい音色で目覚めることが、戦火の不安な状況下で束の間の私の安息になっていたが、少女の死によってその楽しみも失われてしまった。（三）当時の私は、心を慰めてくれた少女の死にもさしたる関心も払わず、悪化する戦局にも遠い世界の他人事のように、それが頭上を通過するのをただ待っていたような気がする。（四）空襲で全焼したわたしの部屋の焼跡に古今集の一頁だけが焼け残っていたという友人の話は、合理的にはありえない、いかにも作家の逸話らしく作られた嘘のようだが、こんな世の中にも真実というものがあることを信じたいと私は思った。（五）戦後、旅先で古いすだれ越しに見た藤の花に心惹かれ、直接触れようと庭に出たが手はわずかに花に届かなかった。わたしにはそれが、真実の存在を信じたいと思いつつも現実を傍観的にやり過ごす自分には、つかもうとしても結局つかみ得ないものだということを象徴的に表しているように思われた。Ｃ　各設問メモ■設問一「後日の語りぐさになるやうなことではない」のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。(２行)■解答例ひとりの少女が直撃弾を受けて路上で死んだが、死が日常化している戦時下ではそれはどこにでもある小さな出来事でしかなかったから。■解答メモ人の死が日常的なことだったからである。■設問二「あはれなカナリアもまた雷にうたれた」はどういうことか、説明せよ。(３行)■解答例少女が隣室で歌うシャンソンの明るい音色で目覚めることが、戦火の不安な状況下で束の間の私の安息になっていたが、少女の死によってその楽しみも失われてしまったということ。■解答メモ傍線部「カナリア」は、心を癒してくれた少女の歌声の比喩であるから、少女の死によってそれも失われたことを答える。■設問三「わたしは当時すべての見るもの聞くものとすだれ越しの交渉しかもたないやうであつた」はどういうことか、説明せよ。(４行)■解答例当時の私は、心を慰めてくれた少女の死にもさしたる関心も払わず、悪化する戦局にも遠い世界の他人事のように、それが頭上を通過するのをただ待っていたような気がするということ。■解答メモ傍線部「すだれ越しの交渉」とは、次の形式段落に「すだれからすかして見た外の世界の悪口をいって笑った」とあるように、外界（少女の死を含むが、特には戦局）との直接交渉を避け、傍観していることを示している。また「ともかく時間に堪えつづけてゐた」とあるのを「ただ頭上を通過するのをただ待っていた」とした。気になるのは、自分の事でありながら「やうであった」と他人事のように、あるいは自分でもとらえきれていないような表現をしていることである。■設問四「これははなしができすぎてゐて、ウソのやうにしかおもはれないだらう」のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。(４行)■解答例空襲で全焼したわたしの部屋の焼跡に古今集の一頁だけが焼け残っていたという友人の話は、合理的にはありえない、いかにも作家の逸話らしく作られた嘘のようだが、こんな世の中にも真実というものがあることを信じたいと私は思ったから。■解答メモ東京大空襲でアパートが全焼。自分では焼け跡を見に行かない。友人が焼け跡に「古今集の一ひら」だけが焼け残っていたことを告げる。これは合理的に考えれば、「文学に携わる者の逸話らしく」作られた「出来過ぎた・ウソ」と思うのが当然である。そう解答すればいいことになるが、全体概要に示したように、全体主旨と関わりのある挿話と考え、そのキーとして「人生の真実のために、このはなしはウソではないと信じておかなくてはならぬ」を拾い、「こんな世の中にも真実があることを信じたい」としてみた。■設問五「わたしが花を垣間見るのはいつもすだれ越しであり、そしていつもそこには手がとどかないやうな廻合わせになつてゐるらしい」はどういうことか、前年(昭和二十年)の「すだれ越しの交渉」を踏まえて説明せよ。(５行)■解答例戦後、旅先で古いすだれ越しに見た藤の花に心惹かれ、直接触れようと庭に出たが手はわずかに花に届かなかった。わたしにはそれが、真実の存在を信じたいと思いつつも現実を傍観的にやり過ごす自分には、つかもうとしても結局つかみ得ないものだということを象徴的に表しているように思われたということ。■解答メモ（迷いがあるので説明が長くなります。）終戦の翌年、旅先の座敷で簾越しに藤の花を見つける、その美しさに惹かれ外に出て花に触れようとするが、それは高くにあって手に届かなかった。そういう実際の出来事が書かれている。当然それは末尾の傍線部の筆者の感慨と呼応するわけである。傍線部は、わたしが「花」を見るのは、いつも「①すだれ越し」、そしていつも「②花」には「手が届かない」、そういう「③廻合せ」らしい、となる。いま番号を付けた語がそれぞれ何を象徴的に言い表しているかを検討していく。まず、①「すだれ越し」は、設問の中に前年の「すだれ越しの交渉」を踏まえよという指示があり、当然【設問三】で答えた「世の中に対する傍観的姿勢」ということになる。この最後の場面で「あたかもわたしの室の焼けたすだれがここにそっくり移されてきたやうであった」とあり、その関連は明らかだろう。加えて「すだれ」はここで、「煤けた、古い、気にもとめられず、うち捨てられた、うっとうしく、切れ落ちそう、黒ずんだ塵」など否定的な形容がされており、それは「あの頃の在り方への否定的な思い」として重ねられていると考えられる。筆者は「花」に対して今度は外に出て直接手に触れようとしている・・それは、「すだれ越し」的な姿勢から一歩前に踏み出そうとした行為である・・しかし、「花」は手に届かなかった・・そこに自嘲的に自分の運命みたいなものを感じている・・そういう読みができるように思う。そうすると、②「花」は何を象徴しているだろう。全体概要に書いたが、藤の花の象徴するものが「少女」だと考えれば、なるほどそうかとは思える。それを少し抽象的に「美しいもの・尊い人間関係」などと抽象化してみると解答として「手が届かない」の持つニュアンスをうまく言い当てていることになる。ただ、「花」を「少女」と重ね合わせるのはどうか。わたしは少女をすだれ越しに見ていたわけでもなく、少女を求めていたのでもない。むしろ、【設問四】の焼け残った古今集の一片の挿話の部分にある「人生の真実」に重ねた方がいいのではないかと思う。そうすると、その挿話がただ単独な挿話に終わらず、全体に関わるものとして生きてくる。「どこかに人生の真実を求めながら、ただ現実を傍観していた自分、一歩進もうとしたけれどやはりかなえられなかった自嘲」のような読みになるか。ただ、③「廻合せ」とあるのは、そうした自己責任の意識と少しずれる感じもする。【設問三】でも「すだれ越し」の自分が「やうであった」と書かれている。「運命」として感じたということなのだろうか。戦争という「廻合せ」が意識されているのだろうか。わからない。
- 2021 京大文系　第一問　随想　西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」
  202１　京大文系　第一問随想　西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、できるだけ解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。Ａ　全体概観・問の骨格全体の構成は、（一）～（三）は山崎という友人の言葉によって「サイドスポット」が当てられ（他者という鏡による自分の発見→自分に対する無自覚の罪）、「世間を知る」こと（つながりの重要性・無自覚の自覚）ができたというエピソードが書かれる。そのエピソードをもとに、（四）でそれが「忘れ得ない言葉」になった理由（抽象的知とは異なる実在的・身体的つながり）が述べられ、（五）で「本当の人間関係（現実レベルを超えた自己内部における他者との実在的つながり）」の在り方が示されるという流れである。各設問で書かれる中心主旨は、上記、赤字の部分になる。本文の読解としては、全体の解答の中に必要な要素が取られていればよいと思うが、各設問に対して答えるときに、傍線部の近接、あるいは内容の重複が気になる。それをどうスミワケていくのかが意外に難しい。Ｂ　全体要約と問の役割以下、漢数字は設問番号。解答末尾（～こと・～からなど）を略し、つなげると全体要約をなすようにした。（一）友人である山崎の穏やかで何気ない言葉は、他者という「鏡」を通して、自分では気付かない自分が存在していることに気付かされた衝撃的なものであった。（二）山崎の言葉は、友情や他者の犠牲に無頓着な自分の言動が他者を損なう可能性を示唆するものであり、他者への配慮を欠く自分に対する無自覚こそが自分の幼さだと痛感した。（三）山崎という人間の人柄に直に触れることで、それまで自分を取りまくつながりを軽視していた自分の狭さと自分が他者とのつながりの中で生きていることを実感として得た。（四）忘れ得ぬ言葉とは、書物の言葉のように著者のイメージが希薄化してしまう抽象的観念ではなく、生きた人間の肉声として語られ、その人の実在が自分の内部で一体化すると同時に、その言葉が想起、反芻されるたびにその人が実在として顕ち現れて来るものだ。（五）本当の人間関係とは、他者が身体を介して自分の内部に実在として確立され、相互に対話を重ね深く理解することでつくられる確かなつながりであり、それは現実的、具体的なつながりとは異なる、生死や時空を超えた内的で深遠な関係性であるから。Ｃ　各設問メモ■設問一「それが私には『忘れ得ぬ言葉』になってしまった」について、なぜ「忘れ得ぬ言葉」となったのか説明せよ。(３行)■解答例友人である山崎の穏やかで何気ない言葉は、他者という「鏡」を通して、自分では気付かない自分が存在していることに気付かされた衝撃的なものであったから。■解答メモ・傍線部に「忘れ得ぬ言葉」という全体を通したキーワードがあり、この部分が文章の序としての役割を持っていると考えれば、文章後半の「実在性」や「本当の人間関係」と結びつけ、「山﨑の言葉は彼の実在性を介して真の人間関係を教えてくれたから」といった解答主旨になるだろう。ただ、そうすると【設問四・五】との重複が生まれるのが悩ましい。それを避けるため、ここでは、空白行までの文章はあくまでエピソードを書いたものとして捉える見方をした。このエピソードの意味は、文章中に「サイドライトが当てられた」「世間を知った」とあり、【設問一・二】が前者、【設問三】が後者に相当すると考えられる。【設問一】と【設問二】のスミワケは微妙だが、【設問一】は「サイドライトが当てられたこと」による気付き自体を、【設問二】はその気付きの内容とした。・傍線部の「それ」は、山崎の何気ない「おぼっちゃんだなア」という言葉。それが「忘れ得ぬ言葉」になったのは、「彼の友情、彼が私のために払ってくれた犠牲、についての思いが、そこに少しも影を落としていないことに気付かされた」からである。その時の、それまでの自分の心持（自分というもの）が「鏡に映し出されたかのような感じであった」を押え、「山崎の指摘は、他者という鏡による未知の自己への気付きだった」という骨格でまとめたい。サイドライトは「正面」からでなく、思いがけない「側面」からというニュアンスであろう。■設問二「私の眼には、その自分の『罪のない』ことがそれ自身罪であることと映って来た」はどういうことか説明せよ。(３行)■（解答例）山崎の言葉は、友情や他者の犠牲に無頓着な自分の言動が他者を損なう可能性を示唆するものであり、他者への配慮（眼差し）を欠く自分に対する無自覚こそが自分の幼さだと痛感したということ。■（解答メモ）【設問一】の解答メモに書いたように、ここは「わたしの気付き」の内容である。「自分の『罪のない』ことがそれ自身罪である」からは、他者に対する無自覚というより、自分自身の無知・無自覚こそ罪のニュアンスを拾いたい。何に対する無自覚かというと、「散々厄介をかけながら好い気持ちでしゃべっていた」、友情や他者の犠牲に無頓着・無意識な自分の存在に無自覚であったということである。■設問三「今度は、自分が、以前に言われたこととは全く別の意味において『世間知らず』であったことを知った」はどういうことか、説明せよ。(３行)■解答例山崎という人間の人柄に直に触れることで、それまで周囲とのつながりを軽視していた自分の狭さと、自分が他者とのつながりの中で生きていることを実感として得たということ。■解答メモ傍線部に「今度は・・以前に・・」とあるので、「世間知らず」の意味の変化、端的には「世間」というもののわたしの捉え方の変化を書くことが原則と考える。ただ、「世間」を説明するのに明確に言い換えたような表現がうまく拾えない。一か所、「虚妄でない実在」という表現があって、虚妄（うつろ）・実在（明確な実体）という対立が見える。ただ、傍線部の前には「世間的なものを十束一からげに自分の後にしてきた」など、世間を知ったつもりになっていた（もっと言うと、なめていた）わたしが書かれ、山崎の言葉によって、それが「つながり」として見えるようになったと読めるので、つながりの「軽視」から「重視」への変化を中心と考えたい。また、「世間知らず」は「自分知らず」であったと書かれており、自分に無自覚な自分への反省のニュアンスがあることも拾いたい。その変化を促したのが「実在性」や「実感」である。■設問四「言葉が生き身の人間の口から自分に語られた場合は、全く別である」のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。(４行)■（解答例）忘れ得ぬ言葉とは、書物の言葉のように著者のイメージが希薄化してしまう抽象的観念ではなく、生きた人間の肉声として語られ、その人の実在が自分の内部で一体化すると同時に、その言葉が想起、反芻されるたびにその人が実在として顕ち現れて来るものだということ。■（解答メモ）傍線部が「言葉が生き身の人間の口から自分に語られた場合は、全く別である」とあるので、言葉が「人間の口から語られた場合」と「別」の意味する「書物の言葉」を対立させればよい。大きな括りで言えば「知と身体」という対立が見える。ここで大事なのは「語り手の実在性の有無」である。「書物の言葉」は「著者のマークがだんだん薄れてくる」ために「抽象的な意味内容だけ」しか残らない。「人間の言葉」に関する記述は長い。他者の実在が言葉と一体化して自分の内部に入る。それは自立した実在を保ちながら定着し、自分とつながる。その言葉を想起・反芻するたびに、その人の実在が現れ、さらに理解・実在性が深まる・・と続く。「言葉が自分の内部でその人の実在性とともに残り続ける」というニュアンスが書ければよいだろう。全体の流れから、二つの対立を並列させるだけでなく、主語を「忘れえぬ言葉」とした。■設問五「本当の人間関係」について、「生きているとか死んでいるとかという区別を越えた」のように言われるのはなぜか、説明せよ。(４行)■（解答例）本当の人間関係とは、他者が身体を介して自分の内部に実在として確立され、相互に対話を重ね深く理解することでつくられる確かなつながりであり、それは現実的、具体的なつながりとは異なる、生死や時空を超えた内的で深遠な関係性であるから。■（解答メモ）この設問も【設問四】とのスミワケが微妙であるが、全体要約的に前半にここまでの内容を書き、後半に傍線部の「生きているとか死んでいるとかという区別を越えた」のニュアンスを加えた。「縁」という言葉、「不思議」という言葉のニュアンスから、その関係性を「深遠な」としてみた。
12Dec
- 2021　東大　第四問　夏目漱石「子規の画」
  2021　東大　第四問　夏目漱石「子規の画」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、解答例の並びが全文要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。試案にすぎませんので、その点、ご了解ください。よろしければ→「このページ」をお読みください。（Ａ）論の全体と設問の問の基本骨格■全体主旨・・子規の「拙」に対する漱石の思いを書いた文章である。【設問二】【設問三】については誰も同じような解釈になるのではないかと思うが、【設問一】【設問四】についてここに紹介する解答は、あえてそう考えてみたという解答になるという解答かもしれない。【設問四】から逆に考えていくが、【設問四】の「淋しさの償いとしたかった」の「淋しさ」は漱石の淋しさではなく子規の病床での淋しさであり、「償い」は漱石の償いのようにも読めるが、これは「あがなう」に近く「埋め合わせ」という意味だと考えたい。すると【第四問】は「拙」をもって「子規の淋しさの埋め合わせとしたかった」と漱石が考えたと読める。その時「拙」は、子規の人間的魅力を表すものであり【設問三】、病床の孤独を和らげる可能性を持つものである。そうした「拙」が注目される背景には「拙」の欠乏した優れた男としての子規像があり、それ（何事においても優れていた子規は拙をさらけだせなかった）が【設問一】の解答主旨になるであろうと考えた。その文脈で、全体の内容を簡潔に文章化すると次のようになる。自分の「拙」（拙さや弱さ）を認めようとしない子規は、一方では孤独を抱きながら死と向き合っていた。子規が描いた画からは、完璧に見えた子規に「拙」であることの魅力があふれており、それに早く気付き共有できれば、子規の孤独の慰めになったのではないか。■各設問解答の中心主旨設問一＝自らの「拙」を見せようとしない子規設問二＝反面、抱え込まれた子規の孤独設問三＝子規の持つ「拙」の味わい設問四＝「拙」の認識・魅力を子規の孤独の慰めとしたかった。（Ｂ）全体要約と問の役割（一）（生前、画を私に送ってくれた子規は）俳句や短歌を作るようにはうまくいかない自分の画の拙さを知りながら、それを病床に臥して描いたためと釈明することで、自分の拙さや弱さを人に見せまいとした。（二）（しかし）子規が送ってくれた画は、描かれた花の図も色合いや表装も冷たい印象であるうえ、そこに死と向き合いながら友に心を寄せる子規の孤独と哀しみを感じさせるものであった。（三）短歌や俳句を造作もなく作る文才を持ちながら、画才には恵まれず、しかも律儀な真面目さで拙い画を描く子規の愚直な「拙」自体が、子規の魅力であると感じられた。（四）あらゆる点で優れ過ぎていた子規が、拙さゆえの人間的な味わいに溢れていたことを生前に見つけ共に笑い合えるようであれば、彼の孤独な死との闘いの慰めになったのではないかと考えている。（Ｃ）各設問メモ設問（一）「下手いのは病気の所為だと思いたまえ」にあらわれた子規の心情について説明せよ。■解答主旨＝画の拙さは病のためとする釈明→「拙」の否認■解答のポイント（メモ）傍線部を素直に取れば「画が下手なのは病床にあるため」という言い訳である。問題はその釈明の理由、心理だが、例えば、漱石に自分の歯がゆさや懸命さの理解を求めていると考えられる。それでいいだろうとも思う。ただ、全体を通してこの心理が【設問三・四】で言われる子規の「拙」の魅力と、それが孤独の「償い（埋め合わせ）」になるという内容の前提として働いているとすれば、「拙の否認」というニュアンスが答えられるべきではないかと思う。ただこれは、強がり・気丈さ・壁・頑固さとも、なんとも一言で括りがたい。優れているゆえに「拙」を見せまいとする気持ちと言えるだろうか。解答例に「弱さ」と書いたのは【設問二】の内心の「淋しさ」に対応させたものだが、言い過ぎのようにも思う。■解答例：俳句や短歌を作るようにはうまくいかない自分の画の拙さを知りながら、それを病床に臥して描いたためと釈明することで、自分の拙さや弱さを人に見せまいとした。設問（二）「いかにも淋しい感じがする」とあるが、それはなぜか、説明せよ。■解答主旨＝子規の画＝画自体の冷たさ＋内面の寂しさ■解答のポイント（メモ）傍線部「淋しい感じ」は、画自体の淋しさであると同時に、病床にある子規の死と向き合う淋しさが重ね合わされている。それは画に、遠く熊本にいる漱石の帰郷を思う「東菊活けて置きけり火の国に住みける君が帰り来るかな」という一首が添えられていたことから推測できる。■解答例：子規が送ってくれた画は、描かれた花の図も色合いや表装も冷たい印象であるうえ、そこに死と向き合いながら友に心を寄せる子規の孤独と哀しみを感じさせるものであったから。設問（三）「余は微笑を禁じ得ないのである」とあるが、それはなぜか、説明せよ。■解答主旨＝子規の持つ「拙」の味わい■解答のポイント（メモ）傍線部は当然プラスの思い。ただ、子規のマイナスにプラスを発見するという微妙な微笑みである。「いかにも無造作に俳句や短歌を作り上げる彼の性情」「才を呵して直ちに章を成す（才能のおもむくままに作品ができあがる）彼の文才」であるのに、子規の画には「隠しきれない拙が溢れている」、しかも「あれだけの単純な平凡な特色を出すのに、あのぐらい時間と労力を費やさなければならなかった」「馬鹿律儀」に描かれた絵に「働きのない愚直ものの旨さ」がある、ということになる。優れた文才＝無造作・乏しい画才＝馬鹿律儀・真面目を対立させて捉え、その愚直な「拙」の人間的な味わいの魅力を発見したと説明する。「写生」については拾わなかった。■解答例：短歌や俳句を造作もなく作る文才を持ちながら、画才には恵まれず、しかも律儀な真面目さで拙い画を描く子規の愚直な「拙」自体が、子規の魅力であると感じられた。設問（四）「淋しさの償いとしたかった」にあらわれた「余」の心情について説明せよ。■解答主旨＝「拙」の認識・魅力を子規の孤独の慰めとしたかった。■解答のポイント（メモ）論と設問の問の基本骨格に書いたが、傍線部「淋しさの償いとしたかった」の「淋しさ」は子規の病床での淋しさであり、「償い」は漱石の償いのように読めるが、これは「あがなう」に近く「埋め合わせ」という意味だと考えたい。すると傍線部は子規の「拙」を「発揮させて」「子規の淋しさの埋め合わせとしたかった」と漱石が考えたと読める。その前提に「子規は人間として、また文学者として、もっとも「拙」の欠乏した男であった」という子規像がある。「何事においても優れていた子規がさらけ出せなかった【設問一】」に重なる。しかし、画を観たことで「子規の拙の魅力」を発見した【設問三】。拙を「もう少し雄大に発揮させて」は、「彼の拙を笑い得るの機会を捉え得たためしがない」「彼の拙に惚れ込んだ瞬間の場合さえもたなかった」という記述から、拙の魅力をもっと早く見出し、互いに笑い合えればよかった」という意を汲み、それが病床で病と闘う子規の（殻？を破り）孤独を埋め合わせる慰めとできたのではないかと漱石が考えているとした。■解答例：あらゆる点で優れ過ぎていた子規が、拙さゆえの人間的な味わいに溢れていたことを生前に見つけ共に笑い合えるようであれば、彼の孤独な死との闘いの慰めになったのではないかと考えている。
- 2021　東大　第一問　松嶋健「ケアと共同性個人主義を超えて」
  2021　東大　第一問　松嶋健「ケアと共同性個人主義を超えて」ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。よろしければ→「はじめに」をお読みください。（Ａ）本文の構成第①段落＝近代化のステージ市民権＝一部の財の所有者（私的所有）→市民権の拡張（社会所有：分配・社会保障）＝福祉国家→しかし福祉国家の対象から排除された人々の存在第②段落＝排除→共同の事例人類学の調査による事例➀タイ：HIV感染者・エイズ患者の排除（個人を基盤とした捉え方）→感染者相互・非感染者の加わったケアのコミュニティの形成＝ケアの主体客体の二者関係（医療行為者と患者・家族と患者）と異なるケアを通した社会的親密性→設問（一）＝近代医療（人間を個人化）の対極としての生の社会性②イタリア：精神病患者の排除（社会全体を基盤とした捉え方）→公的サービスによる地域での共生＝社会を中心に置く論理→人間を中心に置く論理への転換→設問（二）＝社会を守る管理と統治の理論→ケアの論理（苦しむ人に寄り添い共に歩む）第③段落＝共同性の論理と選択の論理→設問（三）個人・社会全体を基盤とした捉え方と異なる共同性の論理＝×選択の論理＝個人主義に基づく主体的個人による主体的選択＝ケアの論理＝何を必要としているか、ニーズを知るための状況の理解と判断第④段落＝ケアの論理→他との関係性の世界観ケアにおいて必要なこと・身体の声を聞くために身体に深く棲みこむ・管理ではなく他との関係性を絶え間なく調整・共同的・協働的作業→ケアの論理＝人間だけを行為の主体と見る世界像×→関係するものに行為の力能を見出す生きた世界像につながる→設問（四）（Ｂ）論と設問の問の基本骨格各設問の解答すべき内容は次のように考えられる。■全体主旨＝個人は単体ではなく、他者と共にあり、他者理解は他者の声に耳を澄ますことにある。■各設問の中心主旨【設問一】＝ケア＝個人・切断ではなく相互・親密【設問二】＝ケア＝社会・管理ではなく人間・寄り添い【設問三】＝ケア＝選択の情報提供ではなくニーズ把握【設問四】＝ケアの論理→他との関係性の世界像の地平■疑問点※次に書くような（つまらない？）迷いが現在も整理できずにいるため、解答は一例として参考にする程度にとどめていただければと思います。・全体の流れとしては、【設問一】～【設問三】で、「近代医療」あるいは、そのベースとなる「近代の人間の捉え方」と対立させながら、「ケア論理」の考え方を提示し、最後に、その「ケアの論理」が「他者との関係性のあるべき道筋」を示すものとしてあると考えたい。・ただ【設問三】の位置づけが分からない。【設問一】【設問二】は例として書かれ、意味段落③の頭に「この人類学的研究から見えてくるのは、個人を基盤としたものとも社会全体を基盤としたものとも異なる共同性の理論である」と書かれているので、これによって【設問一】は「個人を」、【設問二】は「社会全体を」基盤としたものについて書かれていることがわかるが、二つの例を踏まえつつ【設問三】はモルの考えとして「共同・ケアの論理」と対立する「選択の論理」が提示されている。これを「個人主義」と直結させて解答を作ればよいとも思うのだが、ここは内容的に「選択」に対して「ニーズの理解」が必要だという内容に、僕には読めてしまう。かと言って【設問一】～【設問三】を並立させるのは文章構造から正しくないのでは、という疑問。それは、「ニーズの把握」を書いた形式段落を前後どちらの意味段落につなげるか（【設問三】と【設問四】のどちらの守備範囲とするか）という問題でもある。（C）全体要約と問の役割（Ｂ）の骨格にしたがって、設問の解答を、それをつなげれば全体要約となるように解答を作成したものを次に記す。※ 以下、（漢数字）は設問番号。それぞれに「～ということ」「～から」などの解答末尾を付けると解答そのものになる。内容把握しやすいように、解答例は８０字弱とやや長めに作成してある。（一）（ケアにおいては）人間を単体の個人として捉え、医療をその行為の主客に分断する視点を脱し、社会的相互扶助によるつながりの大切さに目を向ける必要がある。（二）（また）社会の安全を維持するために患者を排除・隔離する管理の論理から、苦しむ人々に寄り添い共に歩む人間的な視点への移行が求められる。（三）ケアの出発点は患者の理解にあるのに、治療の選択を個人の判断の責任とする医療の在り方は、自由な主体として自己の責任を生き得るとした近代個人観の欠陥である。（四）苦しむ人々を人間として共に支え、身体の声に耳を傾けることでそのニーズを捉えつつ絶えず環境との調和を模索するケアの論理は、社会的管理の下に個人に主体としての自立を課す近代の発想を超えて、他者と協働する新たな世界への道筋を示している。（D）各設問メモ気になる点のみメモする。設問（一）「ケアをする者とされる者という一元的な関係とも家族とも異なった形での、ケアをとおした親密性」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝個人・切断×→相互共同性・つながり■解答メモ・全体における位置（Ｂに既述）①：【設問一】【設問二】は、人類学が調査した「福祉国家から排除」された人々が「共同性」によって救われる例の中に位置しており、例えば【設問一】の守備範囲を要約すると「福祉国家から排除された（タイのHIV関連の患者やそれにかかわる）人々が相互扶助によるコミュニティを形成した事例は、人間を個人として捉える近代医療（の下で、患者はケアされる対象、血縁関係にある人が支える対象とする考え方）の対極にあるケアを通したつながりの必要性を示すものである」くらいになる。これを例として「・・があった・なった」と書くのが自然であろうが、全体の流れとしてケアの論理に求められる要素が並列されていると捉え、「ケアにおいては・・でなく、・・が求められる」としてみた。【設問二】も同様である。②：意味段落③の頭に「この人類学的研究から見えてくるのは、個人を基盤としたものとも社会全体を基盤としたものとも異なる共同性の理論である」と書かれており、これによって【設問一】は「個人を基盤としたもの」、【設問二】は「社会全体を基盤としたもの」であることを押える。・傍線部の検討「ケアをする者とされる者という一元的な関係」からは「医者と患者」という関係がすぐに思い浮かぶが、続く「家族」も「家族と患者」という「ケアする者とされる者」の関係であり、「ケアの主体と客体の関係」とまとめられる。それはこの文章のベースにある「近代の個人観」から「主体と客体の切り離し」と言えるだろう。傍線部の「親密性」を「つながり」とすれば、「個人と共同」という対立と同時に、「切断と接続」という対立も見えることになる。・その他意味段落の検討傍線部直後の「近代医療全体は人間を徹底的に個人化することによって成立する者であるが、そこに出現したのはその対極としての生の持つ社会性」という引用の「個人化」と「生の持つ社会性」の対立も前述の内容と一致する。ただ、「近代的医療」は文章全体がこの対立となっているので、ここでは拾わなかった。■解答例：（ケアにおいては）人間を単体の個人として捉え、医療をその行為の主客に分断する視点を脱し、社会的相互扶助によるつながりの大切さに目を向ける必要があるということ。設問（二）「『社会』を中心におく論理から『人間』を中心におく論理への転換」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝ケア＝社会・管理×→人間・寄り添い■解答メモ・全体における位置＝【設問一】に同じ・傍線部・意味段落内容の検討「社会を中心におく論理」＝「管理・統治の理論」（社会を守ること）から、「人間を中心におく論理」＝「ケアの論理」（苦しむ人びとの傍らに寄り添い彼らの生の道程を共に歩むこと）への「転換」を説明すればよい。これが「公共のサービス」であることは【設問一】が「私的コミュニティ」であることの対になるが、双方とも、中心の対立を優先して拾わなかった。■解答例：（ケアにおいては）社会の安全を維持するために患者を排除・隔離する管理の論理から、苦しむ人々に寄り添い共に歩む人間的な視点への移行が求められるということ。設問（三）　「選択の論理は個人主義にもとづくものである」とはどういうことか、説明せよ。■解答主旨＝ケア＝選択の情報提供ではなく理解とニーズの把握。前者と考えるのは個人主義の影響。■解答メモ・傍線部の検討「選択の論理」は医師の情報提供に対して、患者が治療を主体的判断による自己責任において選択すること。他の記述の中に「インフォームドコンセントはその典型的な例である」とある。それが「個人主義にもとづく」とは、近代の個人観、すなわち、主体・自由・責任を一体として具現する個人を重んじる考え方であり、それが「選択の論理」の前提としてあるということである。・意味段落の検討この問の守備範囲をどこまでとするかは難しい。傍線部は「個人主義がベースにある」ことに重点を置いて問われていると思われるが、「選択の論理」の対立として「理解（状況を適切に判断）、ニーズの把握（何を必要としているか）」が「ケアの論理の出発点」と書かれている。各社が作る解答例にこの要素は入れておらず、【設問四】に書かれているものが多い。その方がよいとも思われ、それを書く字数も足りない。ただ、「ケアとは、情報を与え選択させることではなく、理解しニーズを把握することだ」というニュアンスが捨てきれず、あえて「ケアの出発点は患者の理解にあるのに」を解答に組み込んでみた。ただ当然【設問四】に譲ることも考えられ、その場合にはそれを割愛する解答となる。■解答例：ケアの出発点は患者の理解にあるのに、治療の選択を個人の判断の責任とする医療の在り方は、自由な主体として自己の責任を生き得るとした近代個人観の欠陥であるということ。設問（四）　「それは、人間だけを行為主体と見る世界像ではなく、関係するあらゆるものに行為の力能を見出す生きた世界像につながっている」(傍線部エ)とはどういうことか、本文全体の趣旨を踏まえて、100字以上120字以内で説明せよ。■解答主旨＝ケアの論理→他との関係性の世界像の地平■解答メモ・傍線部・意味段落の検討　「それ」は、直前の「ケアとは・・すべてから成る共同的で協同的な作業」を指すが、簡潔に言えば「ケアの論理」である。それが「人間だけを行為主体と見る世界観」（個人・社会中心）でなく、「関係するあらゆるものに行為の力を見出す生きた世界」（他者との共同・協働）に「つながっている」（新たな地平・認識を導く・拓く）となる。この形を意識すれば解答の骨格は「・・であるケアの論理は（個人・社会中心）→（他者と共同・協同する）新しい世界像を拓く」となる。ケアの論理の説明は全体要約として、今までのケアに関する要件と、ここで新たに出てきた「身体」を加え、「個人中心」は「近代の人間観・世界観」と広げたい。そうすると、これは「ケアの論理」の内容にとどまらず、その在り方が「他者理解・共生」のあり方につながるものとして発展されているものだと考えたい。■解答例：苦しむ人々を人間として共に支え、身体の声に耳を傾けることでそのニーズを捉えつつ絶えず環境との調和を模索するケアの論理は、社会的管理の下に個人に主体としての自立を課す近代の発想を超えて、他者と協働する新たな世界への道筋を示しているということ。
09Dec
- 高校生に語る言語論
  下の二つのリンクの内容はほぼ同じものです。noteの方が柔らかい口調で書かれています。『第218話　言語論について（教材）』■第218話　言語論について（教材）言語論を読むベースとして次の4つのことを理解しておきたい。①モノがあってコトバがつけられるのではなく、コトバが世界を分節…ameblo.jp高校生に語る言語論｜空を飛ぶ土竜｜note※タイトルどおり、国語の授業で言語論に関する評論を読んだとき併せて生徒に話す内容をエッセイ風にまとめました。そのつもりでお読みください。 ■１：ウォーリーを探せ（コトバが世界を分節する）僕らはモノやコトがまず先にあって、それにコトバが付けられると考えがちですが、そうではありません。逆に人間はコトバによって外界を切り取る・切り分けることで、渾沌とし…note.com

Mac miniを買いました

漢文の白文を読む手掛かり

和歌41−53：基本のアプローチと修辞法

2022 東大 第四問 武満徹「影絵の鏡」

2022東大 第一問 鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」

パネルヒーター

2020 京大理系 第二問 小松和彦『妖怪学新考・・妖怪から見る日本人の心』

2020 京大文系 第二問 随想 小山清「井伏鱒二の生活と意見」

2020 京大文系 第一問 評論 小川国夫「体験と告白」

がんばるバナナ

2021 東北大 第二問 小説 重松清 『鷹乃学習』

2021 東北大第一問 評論 河本英夫 『経験をリセットする 論理哲学から行為哲学へ』

2020 東北大 問題二 随想 須賀敦子「となり町の山車のように」

2020 東北大第一問 評論 安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』

2021京大理系 第二問 岡井隆「韻と律」

２０21京大文系 第二問 石川淳の随想「すだれ越し」

2021 京大文系 第一問 随想 西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」

2021 東大 第四問 夏目漱石「子規の画」

2021 東大 第一問 松嶋健「ケアと共同性 個人主義を超えて」

高校生に語る言語論

2022　東大　第四問　武満徹「影絵の鏡」

2022東大第一問鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」

2020　京大理系　第二問　小松和彦『妖怪学新考・・妖怪から見る日本人の心』

2020　京大文系　第二問随想　小山清「井伏鱒二の生活と意見」

2020　京大文系　第一問評論　　小川国夫「体験と告白」

2021 東北大　第二問小説　重松清　『鷹乃学習』

2021 東北大第一問評論　河本英夫　『経験をリセットする　論理哲学から行為哲学へ』

2020　東北大　問題二　随想　須賀敦子「となり町の山車のように」

2020 東北大第一問評論　安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか　教育を生物学的に考える』

2021京大理系　第二問　岡井隆「韻と律」

２０21京大文系　第二問　石川淳の随想「すだれ越し」

2021 京大文系　第一問　随想　西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」

2021　東大　第四問　夏目漱石「子規の画」

2021　東大　第一問　松嶋健「ケアと共同性個人主義を超えて」