ぞうさんになりたい

それはさり気ない一言でした・・・。

一人の人が

「soraさんの笑った顔、和むわぁ～」

そして、そばにいた人が

「そやね。」

と、軽くうなづきました。

そしてそこから、いつもの通りに何気ない話題にもどり・・・。

その言葉を耳にした一瞬、あったかいマグカップを、ほっぺたにそっとあてたような温みが、胸の真ん中に生まれました。

そして、家に帰ってからの夜。再び、その言葉がよみがえり・・・。目頭が熱くなってきました。

学校を卒業したての頃、私は病気と仕事のストレスなどが原因で、酷く顔に炎症を起こしてしまいました。その炎症を隠すために、化粧を重ねてしまったため、自分では手の付けられないほどの炎症を起こし、皮膚科に通ったり、民間療法を訪ね歩きましたが、効果はなかなか現れず、ストレスは更に高まる一方になってしまいました。

道ですれ違う人から「きもっ！」と言われたり、目があった瞬間、唾を吐かれたりしました。一番ショックだったのは、見知らぬ女の人から「象皮！」って笑われたことでした。

あの頃の私の顔の皮膚は、炎症を起こして分厚くなり、更にひび割れを起こし、自分でも、鏡を見て思うほど、象の皮のようだと思っていたから、図星すぎて、大きなショックをうけてしまいました。

日に日に、外に出ることもおっくうになり、やがて、必要最小限の外出になっていきました。電車に乗るのも苦痛で、ずっと下を向いていました。

唯一の救いだったのは、当時の治療先でのスタッフさんとの会話でした。その方は持病を抱えながら働いていて、いつも「前より赤みが減ったと思うよ。」など「私も病気の治療がんばるね。」など、さりげなく前向きな言葉を投げかけてくれました。それでも、夜に一人になると「象皮」の言葉が頭いっぱいに広がり、泣いてしまうことも多々でした。

ある日、雑誌を見ていた時、ぞうさんの写真が・・・。

そういえば、象皮の皮膚であるぞうさんは、みんなから笑顔を投げかけられる存在・・・。人を和ませてくれる存在・・・。それはなぜだろう・・・。それは、きっと、あの目だ！あの優しい目があるから。まなざしがあるからだ・・・。

わたしもぞうさんになりたい！！

こころからそう思えると、こころが少し軽くなった気がしました。そして、あたたかいスタッフさんや、治療中に出会えた人たちからの優しい気持ちのおかげで、数年後、炎症はほとんど気にならないようになりました。私の場合、一番のお薬になったのは、当たり前って言われるかもしれませんが「やさしさ」でした。

外出している時、知らない人が、誰かに対して「きも！」や「ださ！」や「生理的にうけつけへん！」なんて、わざと聞こえるように言ったり、笑いながら通り過ぎているシーンを見かけることがあります。

なんて残酷な人たちなのだろうと思います。言ってる人たちのことなんて、もう！どうにでもなれです。言われて気づいてしまった人たち、傷ついてしまった人たちが、あたたかいやさしさに出会えるようにと心から願わずにはいられません。

ぜったい！ぜったい！やさしさに出会えますように・・・！！！

炎症がすっかりおさまった今、ふと、一緒にいた人から投げかけられた言葉。贅沢な願いだけど、もしも叶うなら、もらえたらいいなって、そっと思っていた一言・・・。

「な・ご・・む」

大げさに聞こえるかもしれないけれど

「生きててよかったな・・・」

そんな気持ちでいっぱいになった夜でした。