うそかげ……偽影。

 

私の造った言葉です。

 

野外活動研究会の方々と、名古屋の街を歩いているとき、伏見の長者町付近で発見。歩道の自転車置場にポツンと一台、置かれていた自転車にできていた……

 

フツーの影のように見えますが、なぜか、どこかはかない。

この日は朝から冬晴の凍てついた空気で、ものの影もカキーンとはっきりできるはず。なのに、「影」が薄い……

 

この影、まともにお日さまがあたってできたものではなく、太陽光線がいったん、向いのビルの窓ガラスにあたって反射した反射光によるものなのです。ウソの光によってできたウソの影なので「うそかげ」。

 

私は、このうそかげがなぜか好きです。ホンモノの影のようにクッキリ際立つことなく、なぜか夢マボロシのごとくにはかない。全体が、まわりの光にとけこんでいるみたいで、その光の方もやっぱりはかない。なにか、世界のどこにもない、さだかではないものの気配が……

 

このうそかげは、たぶん大都会でないとちゃんと見られない。要するに、全面ガラス張りのかなり大きなビルがある街でないと、立派な?うそかげができません。この写真を撮ったのは、名古屋市の中心よりやや北にある「桜通」というかなり広い道ぞいなんですが、まあ、道幅が50mくらいはあるので、向いのビルにも日射しがたっぷり降りそそぎ、その反射光も余裕をもってこっちがわに射してきて、こういうキレイなうそかげができる……という寸法です。

 

雲が冬の空をよぎり、さっと太陽を隠すと、このうそかげもすーっと消えて、まわりはなにごともなかったかのように……自転車が一つ、ポツリと取り残される。しばらく見ていると、また太陽が現われて、夢のようにこのうそかげが出現……自分にも反射光は射しているはずなのに、弱々しくてほとんど感じない。ただ、うそかげがうそのように現われるのに見入るだけ……

 

街は、ふしぎです。ふしぎなものを生み、静かに美しく、ただそこにある……千年、二千年の文明の果てにこういう半分夢みたいなものを生んでしまう人の営みの流れ……いろいろ、まだまだ、よくわからないものはあるんですね。

ということで、最後にもう一枚、うそかげの自転車を……