韓国の規制三品目の違法輸出先
② 行方不明のフッ化水素についての論点整理
まずはフッ化水素に関する論点整理から入りたい。
大前提として問題の発端を確認すると、プライムニュースの小野寺五典元防衛大臣の発言で、この番組で小野寺議員は
「韓国にフッ化水素100を渡しても、工業製品に使うことの確認が取れたのは70くらいで、残り30を何に使うか聞いても韓国は返答しなかった」
と述べた(出所:デイリー新潮)。この発言自体は本人の立場を考えると政府内部からの情報と考えられ、また小野寺氏自体の政治家としての見識はこれまでの実績から疑うまでもないので、信じるに値するだろう。

サムスン西安工場(同社HPより:編集部)
この行方不明のフッ化水素について一部では「北朝鮮へ横流しされている」という根拠薄弱な風説が飛び交っていたが、私からは前回の記事で「北朝鮮が超高純度フッ化水素を必要とする理由はなく、日本のフッ化水素は韓国資本の中国の半導体工場に流れている可能性が極めて高い」という趣旨の問題提起させていただいた。
するとこの点について中国向け貿易商社社員の五十嵐哲也氏が統計的に裏付けを取ってくださったようである。
五十嵐氏の調べによると事実として、中国は電子部品向けのフッ化水素を韓国から大量に輸入しており、その内訳は「サムスン西安のある陝西省が69%、SKハイニックス無錫のある江蘇省が29%で、合計98%を占めている」とのことで「韓国企業が中国へ日本のフッ化水素を再輸出している」という仮説については「裏が取れた」と言ってもいいだろう。五十嵐氏に感謝を申し上げる。
なおインテル大連は台湾からフッ化水素を調達しているようであるが、日本から台湾へのフッ化水素の輸出はなく、これは日本政府の承認を得てステラケミファの台湾工場から中国へ輸出されたものと考えられる。
③ ホワイト国外しによる仲介貿易の「違法化」
このように韓国企業が日本のフッ化水素を中国へ輸出していることについてはほぼ確認が取れたと言ってもいいのだが、では今度は韓国企業のこうした行為、専門的には「仲介貿易」という、が日本の外為法上でどのように捉えられるか確認してみよう。

資料は経産省貿易管理部「法令遵守のポイント」より
結論から言えば、上図のように日本の外為法では「ホワイト国の仲介貿易」は規制していないが、「非ホワイト国間の仲介貿易」を許可対象としている。つまり現状では韓国企業の仲介貿易は「合法」であるが、8月下旬以降韓国がホワイト国から外されるとそれ以降韓国の無認可での仲介貿易は「違法」となる。逆に、日本政府としては、仲介貿易を管理しようとするならば韓国をホワイト国から外さなければならない、ということになる。
このことはサムスン・SKハイニックスにとって当然重大な意味を持つ。おそらく両者はこれまで半導体材料に限らず日本からの半導体関連部材/装置の一部を中国へ仲介貿易し続けていたのだろうが、今後はそれができなくなる可能性が高い。少なくとも困難にはなる。
そして、現在日本からの個別輸出許可の対象となっているのは3品目に留まっているが、8月下旬以降に韓国が非ホワイト国になるとその対象は一気に拡大する。
これは中国工場の稼働にとっては危機的状況である。ここで対策として真っ先に考えられるのは「研究開発に投資して、韓国国内で戦略物資/機械を自前で生産できるようにする」という選択肢であるが、残念ながらこの選択肢は時間がかかる上、上手くいっても問題がある。それはアメリカとの関係である。
現在アメリカは「中国製造2025」対策のため半導体製造装置の中国への輸出制限を順次拡大している。韓国はアメリカの同盟国であるから、当然今後韓国から中国への半導体にまつわる先端部材/装置の移転は外交上難しくなっていくだろう。したがって仮に韓国国内で製造技術を育て上げたとしても、それが将来的に中国で使えるとは限らないのである。
韓国と日本国の条約及び協定書の解説
【画像】漢字とハングルが混じり「被徴用者」という文字が読める解説書
いわゆる徴用工をめぐる韓国最高裁の判決が日韓関係の根幹を揺るがしているが、争点となっている日韓請求権協定について、韓国政府がどう解釈し国民に説明していたのかが、この本を紐解くことで明らかになった。
「第2次世界大戦が終了し、韓国が日本から独立して両国が分離したことによって、両国民の他方国内の財産と両国および両国民間の色々な未解決請求権をどのように処理するのかの問題が自然に発生することになった」(解説73ページ)
「財産請求権問題は最初、請求の法的根拠と請求を立証する事実的な証拠を詰めていく方式で討議されたが、両側の見解が折衝の余地を与えないほど顕著な対立を見せたので、やむをえず各種の請求権を細分して一つ一つ別途検討しないで一つにまとめて包括的に解決することを模索することになった」(解説74ページ)
請求権協定をまとめる交渉の過程では、当初一つ一つの事例を積み上げる方式で議論がなされたが難航し、結果的に全部まとめた「包括的な解決」にしたと解説している。その「包括的な解決」に何が含まれているのかが重要だ。韓国政府は「8項目の対日請求要綱」を日本側に提示し、その中身をすべて包括するよう求めた。その8項目の中から、徴用工に関する部分を抜粋する。
「被徴用韓国人の未収金」(解説76ページ)
「被徴用者の被害に対する補償」(解説76ページ)
被害に対する補償は、どう考えても「賠償金」を意味している。
そしてこの「8項目の対日請求要綱」が最終的にどうなったのかも、解説書には明記してあった。
「8項目を包含する形で完全かつ最終的に解決することにした」(解説82ページ)
つまり、最終的に請求権協定の中には「被徴用者の被害に対する補償」つまり「賠償金」が含まれたのだ。その結果について、解説書にはこう記されている。
「被徴用者の未収金と補償金、恩給等に関する請求、韓国人の対日本政府と日本国民に対する各種請求等はすべて完全かつ最終的に消滅する事になる。」 (解説84ページ)
元徴用工による賠償金の請求権は、完全かつ最終的に消滅したと、韓国政府は自国民に対して明確に解説しているのだ。
「これ(解説)によれば、当時大韓民国の立場が個人請求権までも消滅するということだったと見られる余地もないことではない。 しかし上のように、当時の日本の立場が ‘外交的保護権限定放棄’であることが明白だった状況で大韓民国の内心の意思が上のようだったとして、請求権協定で個人請求権まで放棄されることに対する意思の合致があったと見ることはできない。さらに以後、大韓民国で請求権資金法など補償立法を通じて強制動員被害者に対して成り立った補償内訳が実際の被害に対比して極めて微小だった点に照らしてみても、大韓民国の意思が請求権協定を通じて個人請求権までも完全に放棄させるということだったと断定するのも難しい」(2018年10月30日韓国最高裁判決)
外交的保護権とは、自国民が相手国から被害を受けた際に、自国民に代わって国が相手国に賠償を請求する権利の事。判決は、韓国政府は、元徴用工が賠償を受ける権利も放棄していたかもしれないが、日本は外交的保護権だけを放棄したのは明白だから、両国の意思は一致していない、つまり元徴用工の賠償請求権は日韓請求権協定では解決していないと判断した。しかも韓国政府が行った補償があまりに少額だったので、韓国政府が、元徴用工が賠償を受ける権利を放棄していたとは断定できない、としている。
誰が「解説」を読んでも、元徴用工の賠償請求権は消滅したとしか読めないと思ったが、韓国最高裁は違ったようだ。普通の感覚ならば、韓国側が「元徴用工の賠償請求権問題は終了」と判断しているのが明確であるため、判決が断定している「日本は外交保護権だけを放棄した」という前提の方が間違っていると思うのではないか。また、韓国政府による不十分な補償も理由として挙げているのは、ほとんどブラックジョークに近い。
去年10月30日の判決から、3か月以上が過ぎたが、その間日本企業の敗訴が続いている。新日鉄住金の資産が差し押さえられた事から、日本政府は請求権協定に基づく協議を要請したが、韓国政府は応じるかどうかも明らかにしていない。事態は悪化するばかりだ。
【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】
