「ケンカしたんですか?」
「えっ?」
「違った? 勘違いか…」
考え事をしていて上の空だった俺。不覚にもユ先の質問を聞き逃してしまった。
“ケンカ” “勘違い”って???
「チョッカ大好きなパラン先が最近来ないな~って、噂です。」
用もないのにチョコチョコ神経外科にやってくるサンチュン。
目的は俺の顔を見に、そして新婚の親友をからかうためだ。
そのサンチュンが来なくなって2週間。
“顔を見せない=何かあった”という図式らしい。
仲が良い、それは認める。
だけど、いくら職場が同じでもいい年した大人がつるんでいる方がよっぽど変だと思うのだが…
周囲の考えは違うらしい。
「“パランの様子がおかしい”ってホン先も…。余計なお世話ですよね、すみません。」
新婚の夫に成り代わって説明&謝罪する姿が可愛い。
男勝りでシャープな印象だった彼女は結婚を機に目に見えない鎧を脱ぎ可愛くなった。
もっとも本人は自覚ゼロだろうな。
“ここまで来るのに何年かかったと思うんだ”と豪語するホン先の苦労は伊達じゃなかったわけだ。
二人の恋愛を至近距離で見守ってきた俺は断言する、“女は男で変わるんだ!”
カミソリみたいに危なっかしかったユ先は、ホン先の直球アプローチを受け続けどんどん変わっていった。判りやすい所では、洋服がフェミニンなものに変わり、時には少女みたいなファッションも目にした。
硬く閉ざされた鉄の扉が開き、そこから一歩踏み出した後起こった変化はそれはそれは鮮やかで。
俺様のガラスのハートはズタズタにされ、
極々たまに見せる“内助の功”的な奥ゆかしい言動に再起不能、完全ノックアウト状態。
俺って意外とタフだったんだな。まだこうして生きているなんて。
足元の砕け散った心を拾い集める姿を面白がって見ているホン先。
「良い死に方しませんよ」と耳元で囁くと、
「おまえの修行が俺のレベルに到達したら味方してやる」と熱い声援を受けた。
“まったく、あの過剰なまでの自信はどこからくるんだ!”
心の中で思い切り噛み付く俺。
それでも俺は知っている。
悪態を吐く顔が笑っていることを。