予定より少し遅れてスタートしたウェディング・パーティ。それでもめでたいこんな日に文句を言う人間はいなかった。常夏リゾート気分のここスニ・ハワイも、今日は白を基調としたウェディング特別仕様だ。よき日の集いの司会を仰せつかったのは、自称“永遠の伊達男”、メスを握る手もお口もお上手な新郎の友人代表 チョン・パラムだ。
「…ということで、“ここに参加された皆さんに証人になって頂きたい”という新郎新婦からそれぞれの熱~い想いを聞かせて貰いたいと思います。先ずは新郎、ホン・ジホン~♪」
宴会の余興と勘違いしているような進行に思わず苦笑がもれる中、チホンがマイクの前に進んだ。
「お忙しい中、多くの皆さんに集まっていただきありがとうございます。普段付き合いの薄い神様よりも、日々病院で接している、我々を一番良く知っている皆さんに結婚の証人になって頂こうと思いました。それが、これからの人生の励みになると考えたからです。
彼女と出会ってから13年。
ヘジョンを私に託してくれた彼女のハルモニ、この日を本当に楽しみにしていた私の父。
空の上で2人が “よくやった” “あっぱれ”と褒めてくれていると信じています。
今日という日を迎えられた奇跡に感謝しながら、2人で生きていきます。」
頬を紅潮させたチホンが横に立つヘジョンにマイクを渡す。
足元に視線を落とし言葉を探すヘジョンに、周囲から温かい視線が集まっている。
それでもなかなか顔を上げない新婦を気遣い、"ヘジョナ~、ファイティン!"親友スニがバックヤードから声援を送る。
その声に力を得てヘジョンはようやく口を開いた。
「私はずっと男女間の愛というものが信じられませんでした。だから恋愛というものをするつもりもありませんでした。」
意外なヘジョンの告白にゲストは驚きを隠せない。
皆の視線は新郎へ集まり、憮然とした表情のチホンに同情が集まる。
「生涯恋愛とは無縁と思っていた私ですが、それでも、もし…もしも恋愛をするとしたらその相手は彼だと思っていました。」
ほんのり頬を染めたヘジョンがチホンを見遣ると、ドヤ顔のチホンが眉を上げた。
“あ~、あつい、暑い”
男たちはシテヤラレタとニタニタ笑い、女たちは羨ましげに2人を見つめている。
「今日から2人で歩んでいきます。そう思わせてくれたすべての出来事、すべての皆さんに感謝します。」
「それでは誓いの口付けを」
絶妙なタイミングで、きっぱり言い切ったパラム。
焦るヘジョンを囃し立てるゲストたち。
困り顔のヘジョンの腕を捉えたチホンは優しくその額に口付けた。
「おめでとう、ヘジョナ~!
幸せにね~♪」
今日一番の笑顔を見せた新婦にまたもや声援が送られた。
「カメラを持っている方は前のほうにどうぞ!お待たせしました。それでは愛する二人のあつ~い乾杯、ラブ・ショット~!!!」
壊れ気味の司会者と、若手医局の面々に促され、
グラスを持ったチホンがヘジョンの腕に腕を絡めるとヘジョンは表情を凍らせた。
「ヘジョナ…」
観念しろと宥めるチホン。
「ソンセンニム…」
またしても恥ずかしがるヘジョン。
「早くしないと、どんどん周りがエスカレートするぞ」
へジョンにだけ聞こえるようにチホンが耳元にささやくと、どよめきが起こった。
「いや~ん、教授の瞳から蜜が落ちてる~」
「ちょっと、また見詰め合ってる~」
ため息交じりの黄色い声たち。
今日のような日は、そのすべてが許される日である筈。それでもつい、口を突いて出てしまうのは羨ましさからに他ならないだろう。
「良い年した大人が…勿体ぶらずにさっさとやればいいのに」
良い年した、その同級生チン・ソウが微笑ましく2人を見て悪口を言う。
「いい年した大人だから恥らうのさ。ですよね先生?」
同じくよい年の仲間が大人の恥じらいについて同意を求める。
「いい年した大人の純愛は格好の餌食だ」
複雑な想いを持て余し気味の仲間が言葉少なに同意する。
「そういう先輩はいつになったら餌食になってくれるの?」
「俺のことはほっといてくれ。そういうおまえたちだって…」
"私たちは簡単じゃないわ"明るく笑うソウと"がんばって精進します"どこまでも真面目なヨングク。確かに…この2人の行く先は険しそうだ。
「先輩、心の痛手はもう癒えたのかしら?」
「ソウ…」
お嬢様気質の無神経な発言とそれを慮る付き人のような恋人。そんな2人にユンドは明るく答える。
「失恋の痛手を長く味わうのが俺の流儀だ。長ければ長いほど、その想いが本物だと判る。」
「確かに…。痛みの大きさは本物の証、私も経験したわ。」
「おい、恋人の前でそんなこと言うな。男はデリケートなんだぞ。」
「どこが…。それに過去は過去。過去があるから今がある。それにデリケートなのは女も同じよ。男だけが繊細だなんて、勝手な妄想だわ。」
まったく…
むかしから喧嘩するほど仲が良いというけれど、この2人の仲のよさは特別だ。まだ失恋の痛手を乗り越えられないくせに、恋敵との結婚式に参加する男。そんな不器用な、むかし恋した男に喧嘩を吹っかける体裁で決定的瞬間を目隠しする女。そんな恋模様もすべて知ってる俺が一番のピエロのはずだが…、まぁ良い。
おい、そこの2人。
もう茶番はやめていいぞ。主役の熱~いラブ・ショットはめでたく終了だ。