編集部(以下、編):ざこばさん、亡くなっちゃいましたね。
損小神無恒(以下、損):76歳というのは、今の時代まだまだ若い。伊東四朗なんか、86歳でも舞台に立っているのだから。
編:そういえば、『熱海五郎一座』面白かったですか?
損:良かった。リーダー(渡辺正行)がいちばん面白かった。
編:よくまあ二列目の一等席なんか取れましたねえ。
損:途中、春風亭昇太と目が合ったが、意外と鋭い眼光をしていた。
編:そうなんですか!あの温厚そうな昇太師匠が!
損:あの目つきは老獪というか、ただならぬものを感じたな。
編:落語芸術協会の会長ともなれば、やっぱり凄いんですねえ。
損:ところで彼は同志である。なんてったって、マツダ・キャロルのオーナァであるからだ。
編:お城好きとは存じてましたが、まさか旧車好きとは!
損:なかなか見る目がある。
編:…キャロル。良いんですけど、どうもクリフカットがねえ…。
損:最大のアイデンティティなのだが。
編:いやあ、なんだかRX-8のキャノピーを取り払ったみたいで。あるべきものが無い、そんな違和感が…。
損:赤いルーフと白い車体、まるで寿司みたいだ。
編:…それ、褒めてます?
損:機能とデザインが、伊東四朗と小松政夫なみに釣り合いが取れている。たった3メートルの3ボックスでも、ちゃんと4人乗れるのだ。
編:分かりにくい例えだなあ。
損:つまるところ、いい感じってことだ。
読者:もっと詳しくおせーて、おせーて!
損:MAZDAはR360でスバルに敗れた※1。R360はテントウムシ(スバル・360)よりも12万5千円安かったので健闘したが、それでも負けた。それはR360が実質二人乗りだったからだ。
編:つまり、R360クーペはデザイン先行だったと。
損:そこで、次はもっと普通のやつをつくれ!となって、キャロルが生まれたのである。
編:そうはいってもキャロルも斬新です。
損:そこは、小杉二郎※2さん、アンタはエラい!のである。
編:現代なら、R360クーペかなりいいと思うんですが。
損:たとえ山本寛斎がデザインした冷蔵庫でも、野菜室が無かったら買わないだろう?
編:もちろんです。草間彌生がデザインしてても買いません。
損:かえって食欲が失せそうだ。ともかく、軽自動車は必需品だから、値段、そして機能性が重要なのだ。
編:ところで、R360クーペは30万円でしたが、1960年はラーメン一杯45円、公務員の初任給は10,800円とあります。ということは、現在でいうと大体20倍、およそ600万円のクルマになります…。
損:軽自動車が600万円。70万のダットサンは1400万。マイカーはまだまだ遠い存在であった。しかし、タクシー上がりの中古車ならば10万円、つまり200万円程度で買えたから、あながち夢でもあるまい。
編:うーん、そう考えると現代のクルマは安いですねえ。
損:おー、よしよし。
編:どうしました?
損:いや、最近キャロルに懐かれて困っておるのだ。お手。
編:トヨタ博物館の所蔵車に一目惚れしたのは先生の方でしょ。
損:キャロルには小型犬の愛嬌がある。構ってやりたくなってしまって、ついつい。
編:そうやって写真見返すんですね。親バカの親そのものですよ、それ。
損:冗談抜きでトヨタ博物館で一番良かった。
編:それってトヨタ博物館である必要性が…。
損:豊田喜一郎とかどうでもいいから、小杉二郎の足跡と人となりが知りたかった。
編:まるっきりお門違いですし、それはトヨタにも失礼です。
損:わりーね、わりーね、ワリーネ・デイトリッヒ。
==============================
※1.R360の総生産台数はスバル・360の五分の一に満たない。
※2.インダストリアルデザイナー。K360、R360、キャロルなど、MAZDA車のデザインを数多く手がけた。