巨匠's Eye 第十九回 ~キャロルのクリフ・カット~ | 損小神無恒の間違いだらけのMAZDA選び

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巨匠、損小神無恒が走る白物家電を断罪する!

編集部(以下、編):ざこばさん、亡くなっちゃいましたね。

 

損小神無恒(以下、損):76歳というのは、今の時代まだまだ若い。伊東四朗なんか、86歳でも舞台に立っているのだから。

 

 

:そういえば、『熱海五郎一座』面白かったですか?

 

:良かった。リーダー(渡辺正行)がいちばん面白かった。

 

:よくまあ二列目の一等席なんか取れましたねえ。

 

:途中、春風亭昇太と目が合ったが、意外と鋭い眼光をしていた。

 

:そうなんですか!あの温厚そうな昇太師匠が!

 

:あの目つきは老獪というか、ただならぬものを感じたな。

 

:落語芸術協会の会長ともなれば、やっぱり凄いんですねえ。

 

:ところで彼は同志である。なんてったって、マツダ・キャロルのオーナァであるからだ。

 

:お城好きとは存じてましたが、まさか旧車好きとは!

 

:なかなか見る目がある。

 

:…キャロル。良いんですけど、どうもクリフカットがねえ…。

 

 

 

 

 

 
↑スパッと切れたルーフ・ライン。通称クリフ・カット。
 
 

 

:最大のアイデンティティなのだが。

 

:いやあ、なんだかRX-8のキャノピーを取り払ったみたいで。あるべきものが無い、そんな違和感が…。

 

 

 
↑なるほどリア・ウインドウを取るとクリフ・カットぽくなる。

 

 

 

:赤いルーフと白い車体、まるで寿司みたいだ。

 

:…それ、褒めてます?

 

:機能とデザインが、伊東四朗と小松政夫なみに釣り合いが取れている。たった3メートルの3ボックスでも、ちゃんと4人乗れるのだ。

 

:分かりにくい例えだなあ。

 

:つまるところ、いい感じってことだ。

 

読者:もっと詳しくおせーて、おせーて!

 

:MAZDAはR360でスバルに敗れた※1。R360はテントウムシ(スバル・360)よりも12万5千円安かったので健闘したが、それでも負けた。それはR360が実質二人乗りだったからだ。

 

:つまり、R360クーペはデザイン先行だったと。

 

:そこで、次はもっと普通のやつをつくれ!となって、キャロルが生まれたのである。

 

:そうはいってもキャロルも斬新です。

 

:そこは、小杉二郎※2さん、アンタはエラい!のである。

 

:現代なら、R360クーペかなりいいと思うんですが。

 

:たとえ山本寛斎がデザインした冷蔵庫でも、野菜室が無かったら買わないだろう?

 

:もちろんです。草間彌生がデザインしてても買いません。

 

:かえって食欲が失せそうだ。ともかく、軽自動車は必需品だから、値段、そして機能性が重要なのだ。

 

:ところで、R360クーペは30万円でしたが、1960年はラーメン一杯45円、公務員の初任給は10,800円とあります。ということは、現在でいうと大体20倍、およそ600万円のクルマになります…。

 

:軽自動車が600万円。70万のダットサンは1400万。マイカーはまだまだ遠い存在であった。しかし、タクシー上がりの中古車ならば10万円、つまり200万円程度で買えたから、あながち夢でもあるまい。

 

:うーん、そう考えると現代のクルマは安いですねえ。

 

:おー、よしよし。

 

:どうしました?

 

:いや、最近キャロルに懐かれて困っておるのだ。お手。

 

:トヨタ博物館の所蔵車に一目惚れしたのは先生の方でしょ。

 

:キャロルには小型犬の愛嬌がある。構ってやりたくなってしまって、ついつい。

 

:そうやって写真見返すんですね。親バカの親そのものですよ、それ。

 

:冗談抜きでトヨタ博物館で一番良かった。

 

:それってトヨタ博物館である必要性が…。

 

:豊田喜一郎とかどうでもいいから、小杉二郎の足跡と人となりが知りたかった。

 

:まるっきりお門違いですし、それはトヨタにも失礼です。

 

:わりーね、わりーね、ワリーネ・デイトリッヒ。

 

 

 

 

 

 

 

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※1.R360の総生産台数はスバル・360の五分の一に満たない。

※2.インダストリアルデザイナー。K360、R360、キャロルなど、MAZDA車のデザインを数多く手がけた。