サバイバルな半日観光 後編
外はかなり強い雨が降っていた。にもかかわらず、ガイドは手にした雨傘をさして後ろを振り返ることもなくドンドン歩いていってしまう。私たちは折りたたみ傘を持っていたが、広げる暇もない。半分濡れながら、置いていかれまいと彼女の後を必死に追う。ツアー客の中には傘がない人もいて、スタンド形式の売店で傘かレインコートを買おうとしていた。でも、ガイドは全く意に介することもなくエッフェル塔へまっしぐら!
美しい容姿とは裏腹な非情ぶりではないか。
まじめにこのガイドの言うことをきいて、”次の次の”船に乗った人々はどうなるんだろうか? 船を降りてガイドがいなかったら路頭に迷ってしまう。
私にわかるのは、その人たちがこのツアーから振り落とされたということだけ……。
エッフェル塔にたどり着けたツアー客は、私たち親子も含めて20人。シティラマ社を出発した時は40人いたのだ。この時点で半分の人が脱落したことになる。
あまりの展開に呆然としている私たちに、彼女はこんなことを言い渡した。
「今、4時35分ですね。5時45分までは川岸の駐車場でみなさんをお待ちしています」
つまり、このガイドが言っているのは、
「みなさんだけでエッフェル塔に上がり、あとはご自由に。約束の時間までに間に合わなかったら、あとは知りません」
ということのようだ。
1人約7千円も払ったツアーだ。こうなったら意地でも最後まで食らいついていくしかない!
という闘志が俄然わいてきた。
塔に上がるエレベーターを待つ人の数は、幸いなことにそんなに多くない。「楽勝だね」と、高を括ってエレベーターに乗り込んだ。
エッフェル塔には、第1展望台(地上57m)、第2展望台(地上115m)、第3展望台(地上274m)がある。
第2展望台で降りて最初に目に飛び込んできたのは、下りエスカレーターを待つ長~い人の列だった。
この日二度目の、エーッ!? だ。
エレベーターは1往復するのに約10分かかる。すでに並んでいる人々を下ろすだけでも、何往復もしなければならないだろう。今すぐ並んでバスの時間にギリギリ間に合うかどうか──。
眺めを楽しむどころではない。トイレをすませ、写真を1枚撮っただけで、直ちに列の最後尾についた。
イライラしながら待つこと40分、やっとエレベーターに乗り込んだ。約束の時間まで残り10分しかない。エレベーターを降りて、駐車場まで猛ダッシュ!
シティラマ社の黄色いバスに飛び込んだのは、発車予定の3分前のことだった。
例のガイドはハンサムな運転手と楽しそうに会話中だった。ハァーハァー肩で息をする私たちに微笑み、
「おかえりなさい。ところで、他の人たちはどうしましたか?」
との質問。
そんなこと知るわけないでしょう!? 自分たちのことだけで精一杯だったんだから。
ぐったりしてバスの2階席に上ると、ご覧のとおり。
誰もいない……。出発時間に間に合ったのは、私たちだけだったのだ。
それはそうだろう。世界で一番時間に対してシビアな日本人の私たちでさえギリギリだったんだから。失礼だが、他の国の方々には到底無理な話だと思う。
さすがに私たち3人だけを乗せてシティラマ社に帰るわけにはいかなかったのだろう。
「発車の時間を少し遅らせるので、待ってほしい」
と、言われた。
待つこと20分。ようやく2組の年配のカップルが戻ってきた。これで義務を果たしたといわんばかりに、すぐさまバスは発車。
こうして、スリリングなパリ半日観光は終わった。
すごいサバイバルなツアーではないか? 最後まで生き残った(!)のは、わずか7名。
取り残された人々がどうなったのかは、神のみぞ知る?
Cityrama (シティラマ社)
4, pl. des Pyramides 1er
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