二度目のパリ(OL時代) Ch.1 | Sonia's Travels

二度目のパリ(OL時代) Ch.1

大学を卒業し、無事に某企業に就職した私。社会人になったことで世間の水に洗われて、少しずつだが垢抜け始めたように思う。「25ans」という女性誌を毎月隅々まで読みふけり、ファッション・海外情報・芸術などに関心をもつようになった。

そうなると思い出すのが、学生時代にパリで味わった感動と屈辱感。

「もう、何も知らない間抜けな私ではないわ。また行くことができたら、今度こそエンジョイできるのに」

とはいっても、毎日の仕事に追われてなかなかまとまった休みが取れない。チャンスを待つこと4年間。やっとパリへ行ける日が訪れた



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今度の旅はパリ一都市のみの滞在である。往復の航空券とホテルだけが確約されている、自由度の高いツアーに申し込んだ。そして、事前にパリの情報をできるだけ集めた。お洒落なレストランの予約は言うに及ばず、細かな日程表まで作り上げた。

この頃には北回りの航空路が開通していたので、ルフトハンザ航空のフランクフルト経由の便で成田とパリを往復した。


晩秋のパリは、それは趣きがあって素敵だった。冷たい雨が降ったりやんだりのあいにくの天気だったが、落ち葉が敷き詰められた石畳の街路を歩いているだけで、自然とロマンチックな気分になった。

心配していた治安の問題も、今回はいっさいなかった。行ってみてわかったのだが、ヨーロッパ・サミット(西欧国家のみが参加する会議)がパリで開催中で、要人が大集結していたのだ。アメリカ大統領も来ていた。市内のいたる所にライフルを抱えた警官やら兵士やらが立っていたため、怪しい人影などチラッとも見ずにすんだのだ。


それなのに、旅にはハプニングが付き物らしい。

パリに暮らしているような気分を味わいたかったので、バスティーユ広場に程近い、キッチン付きのアパルトマン形式のホテルを選んでいた。

深夜、ホテルに到着。こじんまりとしたレセプションでチェックインを済ませてから、重たいトランクを自分自身で引きずって部屋の前へ。飛行機の中では全く眠らなかったので、疲れきっていた。カード・キーを差し込み、開錠のランプを確認してドアを開け──。


えっ!?


人が中にいる気配がするではないか! チラッと見えるベッドの上にはジャケットが置かれ、壁に据え付けられたTVからはフランス語のニュースが流れている。

慌ててドアを閉め、部屋番号を確認。渡されたカード・キーに記載された番号と同じだ。全くわけがわからない。またもや重い荷物を引きずってレセプションに戻った。事情をなんとか伝えると、係りの男性は手元の帳面をちょっと調べ、

「間違えた鍵を渡してしまいました。あなたのはこれです」

と、あっさりと他のカード・キーを寄こすではないか。

ひと言の謝罪もなかった。

その晩、ドアの前に部屋中の家具を移動し、他人が容易には入ってこれないようにしてから休んだのは言うまでもない。