初めてのパリ(学生時代) Ch.3 | Sonia's Travels

初めてのパリ(学生時代) Ch.3

ルーヴル美術館、ノートルダム寺院、モンマルトルの丘、凱旋門。この4つの場所にはツアーで連れていってもらった。でも、それ以外の所へは、フリータイムを利用して自力で行かなければならなかった。当時としては格安の学生限定ツアー。仕方がない。

そこで、どこへ行くかを友人と相談した。その頃の私たちといえば、ブランドのこともよく知らない冴えない学生だった。とはいっても、せっかくパリまで来て、やっぱり気になるのはファッションのこと。一流ブティックが軒を連ねるフォブール・サン・トノレ通りへ繰り出すことにした。


たどり着いてみると、そこは別世界だった。ひとつひとつの店舗の間口はさほど広くないものの、よそ者を寄せ付けないような重厚感、気品、プライドなどのオーラで、通り全体が被われているのをひしひしと感じた。

エルメス、グッチ、サン・ローラン……、名前だけは知っていた一流メゾンの前を”うろついた”。本当に通りを歩いただけ! すっかり気圧されてしまった私たち。お店の中に入る勇気がなかったのだ。

「ここは自分たちの来る所ではない」

お互いに口にはしなかったが、思いは同じだっただろう。


肩を落としてとぼとぼと歩く2人のうら若き乙女。当然、悪い輩の目に留まる。気がつくと、私たちの後を大柄な黒人男性が付けてきているではないか! 私たちが立ち止まると、男も10mほど離れた所で歩みを止める。歩き出すと、向こうも歩く……。

必死になって警官の姿を目で探したが、こういう時に限って影も形も見当たらない。そして、男は次第に間隔を詰めてくる。もうパニック状態だった。

大きな交差点に来ると、信号が赤だった。

「早く渡らないと、追いつかれる!」

青になったと同時に駆け足で横断した。ところが、ふと横を見ると友人の姿がない。慌てて周りを見回すと、なんと彼女は道路を渡らずに、1mの距離まで迫っていた大男のことを下から睨み上げている! あまりの展開に、私の体は硬直してしまった。彼女を助けなければならない、でも怖くて近寄れない……。

大男と友人は互いに沈黙のまま、睨み合っている。たぶん、1分以上は続いただろうか。やがて根負けした男がゆっくりとその場を立ち去っていった。

不適な笑みを浮かべながら、彼女が私の方へ歩み寄ってきた。

「思いっきりガンを飛ばしたら、逃げていったわ」

勝ち誇ったように言う友人。

一方、私はといえばまだ体の震えが止まらずに、ひたすら彼女を賞賛の眼差しで見つめるばかり。もし、私一人だけだったらどうなっていただろう。

その友人とは、大学を卒業した後もずっとお付き合いが続いている。一生の友である。