海辺についての美しい文章
昨日の続きですね。下記は昨夜の食事のあと。私はいつも長居するので、片付けは先に始めてもらう。
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僕にとっては、レイチェル・カースンは、20世紀最高の知性の一人だったと想う。全著作の翻訳が本棚にある。私は読むのを急がない。何度も、ゆっくり、読んでいる。
もともとは、海と海辺に関する科学読み物で執筆を開始した彼女は、しかしその極めて詩的で奥深い自然感情の故に、広範な読者を獲得する。
そして、揺らぐことなき意志が、世界初の農薬公害告発の書、「沈黙の春」を生み出し、米国連邦議会の公聴会でどうどうと意見を披瀝し、ケネディ大統領を動かした。
揺らぐことなき意志を持つ人は、また、満ち足りた孤独を愛する人でもあります。
その、もっとも美しい文章を、ここで転記したい。
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ある秋の嵐の夜、わたしは一歳八ヶ月になったばかりの甥のロジャーを毛布にくるんで、雨の降る暗闇のなかを、海岸へおりていきました。
海辺には大きな波の音がとどろきわたり、白い波頭がさけび声をあげてはくずれ、波しぶきをなげつけてきます。わたしたちは、真っ暗な嵐の夜に、広大な海と陸との境界に立ちすくんでいたのです。
そのとき、不思議なことにわたしたちは、こころの底からわきあがるよろこびに満たされて、いっしょに笑い声をあげていました。
幼いロジャーにとっては、それが大洋の神の感情のほとばしりにふれる最初の機会でしたが、わたしはといえば、生涯の大半を愛する海とともにすごしてきていました。にもかかわらず、広漠とした海がうなり声をあげている荒々しい夜、わたしたちは、背中がぞくぞくするような興奮をともにあじわったのです。(*1)
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この、レイチェル晩年の小さな著作「センス・オブ・ワンダー」は、"感じるちから"を語っています。つまり、別に海に限らず、全ての草や大気は互いに結びついていること、その驚異を、感じる感受性のことです。
原書は、レイチェルの死後出版されました。美しい大判らしいのですけど、絶版でまだ手に入りません。翻訳は、小さな印刷です。版を重ね続けているようですね。
*1:「センス・オブ・ワンダー」レイチェル・カースン著(1956)、上遠恵子訳(1991、初版)、page-4~5、祐学社(今は新潮社に版権がうつってます。こういうの、多いんだよね。真に偉大な著作は最初はあまり世間に受けないので、小さな出版社から出るんだけど、有名になった途端、大出版社が買っちゃう)
