読書ノート <草花たちの静かな誓い> | 青嵐の霹靂

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読書ノート <草花たちの静かな誓い>

 

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著者:宮本輝

発行:集英社

発行:2016年12月10日

 

開始:2017年 2月19日

読了:2017年 3月  3日

 

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宮本輝さんの新作は、ロサンゼルスを舞台に引き裂かれた母子の謎を追う傑作長編!
12月5日発売『草花たちの静かな誓い』 ←これ 集英社特設サイト

 

宮本輝さんの新刊『草花たちの静かな誓い』は、アメリカ西海岸の陽光降り注ぐ街を舞台にした、ミステリーの趣ある作品です。
急死した叔母から、巨額の遺産を相続することになった主人公・弦矢は、アメリカ人と結婚してロサンゼルスで暮らしていた叔母の遺した家に滞在し、多様な人々と出会いながら、彼女の隠されていた人生にぐんぐん迫っていきます。

 

舞台はロサンゼルスの高級住宅地「ランチョ・パロス・ヴァーデス」

 

主人公の小畑弦矢は突然亡くなった叔母から巨額の遺産を相続する。

四千二百万ドル。

現在の為替レートだと(3月4日 日本時間午前6時)

1ドル=113.9円

¥113.9 × $4,200,000 = ¥4,783,800,000


突然48億円近い遺産を、ある日突然相続する男性の物語。

でも、主人公の男性は「まっとう」な感覚の持ち主なので

急に豪奢な暮らしをしたいとも思わない。

適正な管理をして、遺言に秘められたもうひとつの願いを、

様々な人とかかわり合いながら、紐解いて行く。

 

ところで私は、きちんとした日本語を読みたい時に、宮本輝さんの本を読みます。

 

1988年に映画化された「優駿」の原作本に興味があって、

読み始めたのが、私と宮本輝さんの出会いです。

大抵の発行物を読んだ気がしていますが、時々最初の数ページで

どうにも読めなくなってしまう作品もありますけども。

 

技巧に走り過ぎず、抒情に流され過ぎず。

少し高めの湿度と閉塞感を伴う通気性。

自分の身近にありそうで、だけど、少し違う世界。

宮本輝さんの作品全体から感じる、私だけの感覚ですが。

 

今回の「草花たちの静かな誓い」は、ミステリーの趣があると

出版社のサイトで書かれていますが。

基本、宮本輝さんの作品は、ミステリーの要素が強いような気がします。

それは、殺人事件などというものではなく。

失踪した誰かを探す。失いかけた自分のアイデンティティを探す。

読むものは、作者と何かを一緒に探して、物語の中へと旅立ちます。

 

今作では、アメリカで暮らす主人公の叔母、キクエの

亡くなったと聞かされていた娘を探すことになります。

 

しかし、探すのは私立探偵として雇った、ニコ。

弦矢は、ランチョ・パロス・ヴァーデスにあるキクエの残した豪邸に滞在し

家にやって来る庭師、家政婦の女性、カフェの女性。

様々な人と出会い、キクエの遺した想いを感じて行く。

 

物語の中に登場する、キクエが遺したスープ。

1本ずつ大切に吸う煙草。

広い庭に、様々な形で植えられた草花たち。

どのエピソードも、キクエや弦矢を語る上で重要な役割を果たして行きます。

 

抑制が利いて感情に流されない分、弦矢が草花たちと会話するシーンが

強烈に胸に迫って来る。

 

日本に住む弦矢の、今は亡き祖母が弦矢に語った言葉。

—— 花にも草にも木にも心がある。嘘だと思うなら本気で話しかけてごらん。

植物たちは褒められたがっているのよ。だから、心を込めて褒めてやるんだよ。

そうしたら、必ず応じてくれるよ ——

 

ランチョ・パロス・ヴァーデスにある家の広い庭で、弦矢は

祖母が誰にも教えてはいけないと言っていた、花々たちとの儀式を思い出す。

祖母の娘のキクエもまた、草花たちと会話は出来るのだと自分の娘に教えていた。

 

草も木も花も、生命は宇宙と同じ。そして草も木にも花にも心がある。

我々の生命も、草花や木々の生命も、究極は宇宙の生命と同じなのだ。

その同じ生命が、共鳴し合わずにあることはあり得ない。

 

— きっとキクエの心を静かに静かに聞いていた、色んな植物たちが

日本からやって来た一人の青年に、良い答えを導いてくれるかもしれない。

 

心の底からの悪人が出て来ない、宮本輝作品の中で

少し異色な感じがする作品だけれど。

読後には、既に頭の中に様々な物語が広がって、

思わず弦矢とニコを応援したくなります。

 

文芸作品は、敬遠されがちですけれど。

是非、ご一読をお勧めします。

 

きっと、弦矢もニコも他のみんなも

菊枝叔母さんの植えた植物たちに守られて

幸せな世界を生きていくことになるでしょう。

 

少し、腑に落ちない部分もありますが。

やがては、私も草や木や花々たちと会話が出来る様になって

違和感が消えてなくなるかも知れません。

 

先ずは、アメリカの金持ちは、日本の金持ちなんか足元にも及ばないような

そんな一流の暮らしを続けている人が多いのだと、オドロキと友に知りながら

物語の中へと旅立って行ってください。