そこで
私自身としても
些か冷静な気持ちに
なったところで
再び地井さんに質問を
してみる事にしました。

「ぁの…地井さん…
私の為に、そんなに一生懸命に
色々と言って貰って…
ホントに有り難いんですけど…
でもなぁ…それでも、ちょっと…
自分自身にはそう云った記憶が
全然、無いって云うのがね…
そこがやっぱり、何と言っても
引っかかるのよねぇ…
えーと…それじゃぁ…
前回、私が地井さんと電話で
話した時には、私自身は
何て言ってたんですか?…
やっぱり、将来は本当に
卯月先生と結婚するって…
そう言ってたんですか?」

「…ぁ…いや…それがな…
実は…その時にお前が
俺に言ってたのは…
お前は卯月さんとは
結婚しないって…
そう言ってたんだ…
だ、だからな…俺は、
『なんでそんな事言うんだよ、
だって…卯月さんがあんなに
お前の事を思って居るのに…
どうして、そんな風に…
“卯月さんとは結婚しない”
なんて酷い事を言うんだ?
それに…お前だって、
卯月さんの事がホントに
好きなんだろう…』
って、そう言ってお前を
説得しようとしたんだょ…」

「え…そうなんですか?
なんだ…私は…自分でハッキリと
『卯月先生とは結婚しない』
って、言って居たんだ…
ふ〜ん…そうだったんだ…」

「あぁ…まぁ…そうなんだ…
だけどな…サーコ、
どうしてお前がそんな事を
言うのか、俺にもサッパリ
分から無いしサ…
いや…でも、そんなの変だろう?
だからな、俺もお前には、
『お前達二人が結婚しない
なんて、そんな事は絶対に
納得が出来無いし…
大体、それじゃぁ、卯月さんが
本当に気の毒だろッ!?』
って、言ったんだ…
そしたら、お前は
『そんな事、心配しなくても
大丈夫ですよ!
だって、卯月先生はこの後、
私じゃ無くて、本当にちゃんと
好きになった人と恋愛して、
結婚する事になってますから!』
って、普通にそう言ったんだ…」

「へぇ〜…そうだったんだ…
ふ〜む…なるほど…
そう云う事だったんですね…
でも、それなら…
やっぱり、私と卯月先生は
結婚しないって事が、私には
ちゃんと分かってると云うか…
まぁ…最初から決まってたって
事ですよね…そうでしょう?」

「…いや…だけどな、サーコ…
今はそんな事を言ってるけど、
でもな…お前はその時の事を
全く覚えて無いから、そんな事
平気で言えるんだよ!
だって、本当にお前達二人は、
完全に心底お互いが分かり
合ってて、まるで一つてサ…
実際にその場に居た俺自体が、
お前達以上のカップルなんて
絶対に居ないと思うくらい…
ホントに羨ましかったんだゾ!
だから…俺も、お前達には
どうしても、結婚して欲しい
って、そう思ってたんだ…」

そこまで話すと
地井さんも少しは溜飲が
下がったのか、些か先程よりは
トーンダウンした様でしたが
それと同時に、なんだか
寂しそうな些か諦めの様な
雰囲気も感じられました。

「ふ〜む…そうだったんですか…
まぁ、でもなぁ…それにしても
私自体は本当に何にも
覚えて無いからなぁ…
あぁ…それじゃぁ…
もしかしたら、私はその時…
その電話で、何か他にも
地井さんに言ってた事が
有るんですかねぇ…?
例えば、私の結婚の事とか…?」

「ん?…あぁ…そうだなぁ…
そう言えば、あの時…
卯月さんとお前がサ、
あんなにも仲が良いって言うか…
気持ちがピッタリだったのに 
お前が卯月さんとは
結婚しないって言ってたから、
『じゃぁお前はその彼氏と
本当に結婚するって事なのか?』
って聞いてみたんだ…
そしたら、その時お前は
『多分、このままだと、
そうなる事になると思うケド…
でもそれは…まだハッキリ
言って分から無いんです…
だって…やっぱり、その人とは…
卯月先生みたいに…
心が同じとは思え無いから…』
って答えてたんだよな…」

この様に
地井さんが話してくれた
言葉を聞いて居る内に
私の中で、それ迄ずっと
なんかモヤモヤして居た
喜久雄に対する何かが
なんだかやっと分かった様な
気持ちになりました。
 
「はぁ…なるほど…
やっぱり…そうだったんだ…
だから、なんか…私はこの人…
つまり、私の彼氏とは
結婚したく無い様な気持ちが
ずっとしてたんだ…
そうか…なんだ、自分でも
そんな事を言って居たんだ…」

「お前なぁ…なるほどねぇ…
なんて、そんな…まるで人ごと
みたいな事言ってるけど…
ホントに大丈夫なのか?
大体、その彼氏とはホントに
結婚するのか?」

「ん~~…ソレは…今のところ…
なんとも言えないケド…
でも…その地井さんと
話してた時の私自身が
『ハッキリとは分から無い』
って言ってるみたいだしね…
実は、ホントのところ…
まだ分から無いんですよ…
ところで、地井さん…
他にもなんか、言ってましたか?
ほら…だってサ、なんか…
未来の予言みたいで、
ホント不思議な感じがして…
興味が湧いて来ますょ…」

この私の質問を聞いて
地井さんも電話の向こうで
何やら考えて居たのか
暫くしてから、その返事が
返って来ました。

「ん~…あぁ…それがな…
実は…お前はその時に
俺に就いての事なんかも、
言ってたんだ…
それがサ…なんか…
俺の2人目の子供が
もう直ぐ生まれるって…」

「え?…地井さんは…
結婚してたんだ…そうか…
やっぱり、そうですょね…
しかも…2人目の子供かぁ…
いや〜…そんな事、全く
気が付か無かったなぁ…
でも…ホント、
おめでとうございます…!」

この時の私自身は
もう既に地井さんに
子供が居る事など、本当に
予想もして居なかったので
些か驚きました。

しかし
地井さんとしては
当然、その事を私が既に
知って居る筈なのに、しかも
私がこの様なリアクションを
するのが、なんだかわざとらしく
感じて居る様でした。

「ぁ、あぁ…まぁ…ありがとうな…
そ…それでな…とにかく…
あの時は、そんな…
子供がもうじき生まれる
なんて事なんか、俺自身、
誰にも話して無いし…
勿論、成ちゃんにも、それに
そこに居て親しくしてた
教師達なんかにも
全く話して無いのにサ…
それなのに、お前は…
お前ダケはソレを知ってたんだ…
しかもな、その生まれて来る
子の性別なんかまで言ってて…
それが、なんかサ…
お前にはソレが見えるって…
そう言ってたんだよ…」

「えーッ!?…見える…って?
そ…それじゃぁ、ホントに
まるで超能力者じゃないですかぁ!
…そ、それで?
それで私は一体、その時に…
なんて言ったんですか?」

「…ン?…ぅ〜ん…
実はな、その時お前は…
生まれて来るのは、今度は俺に
そっくりの色白の女の子だって
言ったんだよ…
あ…あのさぁ…ホントにお前…
なんにも覚えて無いのか?」

「え?勿論、そんなの
全く覚えて無いですよ!
へ〜…だけど、そんな
地井さん似で色白なんて
事まで分かるんだ…
ふ〜ん…それで?…それで結局…
その予言はどうだったんですか?
…それ…って、ホントに
当たったんですか?」

「あぁ…それがな…
本当にお前が言ってた通り、
女の子だったんだ…
しかも、ホントに俺に似て
色白なんだょ…」

「はぁ〜!そりゃ、スゴイ!
それじゃぁ、本当に
当たってたんだ!
私が予言した通り
だったんですね…!?」
 
「あぁ、そうなんだ…
だから、あの時は、ホントに
俺もビックリしたんだ…
お前は、本当に見えてるし
分かってたんだなって!
…それで漸く…あの時に
お前が話してた事は…
本当に現実になるんだって
確信したんだよ…
だからサ、今回の
舞島さんの事だって…
本当にそうなるカモ知れないな…
とは…思ってたんだ…
でもな…まさかホントに
癌で亡くなるなんてなぁ…」

「そ…そうですょね…
本当に早すぎますよね…
だって…念願の卯月先生と
やっと結婚出来たのに…
それに、結婚してまだ
2年くらいだったんですょ…
なんだか、舞島先生が
ホント可哀想で…」

「あぁ…本当にそうだよな…
ぁの…ところでサ…
あの時にお前は…
実は、他にも言ってたんだ…
なんか、よく分から無いんだケド
俺の事も全て忘れるって…
そう言ってたんだよ…
だけど…実際、覚えて無いのは、
本当にあの日の教官室での
あの時の事ダケなんだよな…
だって、もしも俺の事を
ホントに忘れてたらサ、
こうして俺に電話だって
掛けて来れ無いもんな…
だから、その…
『俺の事も全て忘れる』
ってのは…一体、どう云う
意味なんだろう…?
ホント、なんの事なんだよ…!
…だってサ、この事以外は
全部、お前の言った通りに
なってるんだしな…
それなのにサ…こんな事、
お前だって変だと思うだろう…?」

この様にして
地井さんは全く私自身が
知る事も無い様な、不思議な
出来事に就いても次々と
話してくれたのでした。

そして
本当にまるで
自分の事の様に一生懸命に
しかも興味深い話しを
してくれた事で、私自身
なんだかとても嬉しく
また、なんとも言えない様な
懐かしさまでが込み上げて来て
胸が熱くなって来ました。

「そ…そうですょね…
ただ…ホントに覚えて無いから
なんかよく分から無いケド…
でも、ホント…地井さんは
全然、変わってませんね!
本当にあの頃と同じですね…」

私がこの様に話し掛けると
電話の向こう側の地井さんは
一瞬、言葉に詰まった様になり
そして、なんだか気持ちまで
沈んだ様な感じがしました。

「…ぇっ ‼
…ぁ…あの頃と…同じ…」

「そうですよ…
あの頃だって地井さんは、
私の事を心配してくれて、
いつだって、私に優しく
してくれてましたからね…
だってほら、今だって…
こうして、私には全く記憶が
無い様な事も、なんとか
私が思い出せる様にって、
こんなに一生懸命に話して
くれてるじゃないですか…
だから、地井さんは本当に
あの頃と同じで、少しも
変わって無いなぁ…って
思ったんですよ!
それにね、あの時も…
ほら、高1の夏休みに
凄く楽しみにして、地井さんの
故郷に行った時にも、ホントに
親切に色々とよくしてくれたじゃ
無いですかぁ〜…!」

「ぅ゙ッ!…し…親切に…
お前に…親切に…よくした…!?」

「えぇ、そうですよ!
もう、地井さんたらヤダなぁ…
ホント、忘れちゃったんですか?
…あぁ…でもね、あの時は…
確か…夏休みの1ヶ月間は、
地井さんの故郷で過ごすって
そんな予定だったのに…
何故か、2週間ぐらいで帰って
来ちゃったじゃないですか…
それでね、どうしてそんなに
早くこっちに戻って来たのか、
どんなに思い出そうとしても
ダメなんですょ…ホント、
全然、覚えて無いんです…
だからね、もしかしたら…
私が何かマズい事でもして…
それで…なんか、早く戻って
来ちゃったのかなって…
そう思ってたんです…
それに…あの夏休み以来、
地井さんからは、全く何も
連絡が来ないしねぇ…
だから…実はホント
気になってたんですよ…!」

私が一通り話しを終えた後
何故か地井さんは
何も喋らず、電話の向こうで
じっと黙ってしまったのでした。






続く…



※新記事の投稿は毎週末の予定です。

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