私は仲間たちが校庭から
去って行くのを見届けると
そこから随分離れた所で
立ち止まったまま
持って居た出席簿に
目を通して居る卯月先生の所に
さっそく駆けて行きました。

私は卯月先生の前に着くと
自分の姿勢をキチンと正してから
改まって、先程の『作戦遂行』の
お礼を言うと同時に
深々とお辞儀をしました。

「先生、今日は本当に
ありがとうございました。」

「おぉ、天田か…俺も……」

卯月先生が
私の姿を見た途端に
その顔が、思わず嬉しそうに
ほころんだのを見ると
私は透かさず
先生が話し掛けて
居るところを止めました。

「先生!
今、ここでそんな嬉しそうな
顔をしたらダメです!」

「…な、なんだ、天田…?
……一体、どう云う事だ……?!」

そこで私は
ここに来る前にした
仲間達との話しの内容を
手短に伝えました。

授業が終わった後に
ワザワザ卯月先生の所に行くのは
授業中の私の態度に対して
『詫びを入れる為』だと
云う事にしてあるので
卯月先生も私の話しに合わせて
仲間達に変な風に勘ぐられ無い様に
私に対してはニコニコせずに
出来るだけ顔をしかめて
居て欲しいと話しました。

「先生〜
あの子達はきっと何処かで、
私達の様子を窺って居る
筈ですからね、決して油断は
しないで下さいよ……」

「…そ、そうか…天田……
話しは分かったが……
しかし…一体、ソイツらは
何処に居るんだ…?
俺には誰も見えんし……
何処にもおらんゾ…?
…もう、教室に
戻ったんじゃ無いのか……?」

そう言うと、卯月先生は
校庭の端の校舎の方を
じーっと、見回して居ました。

すると、その校舎の方から
突然、キャーキャーと
声がしたかと思うと
2〜3人の仲間達が
慌てて、その校舎の影から
飛び出して来て
一目散に校舎の中に
逃げ込んで行ってしまいました。

「あははは……ね?先生、
…私の言った通り
だったでしょう……?! 」

「あぁ…本当だな……
しかし、アイツらは
本当に暇な奴らだな……」

「それは…まぁ、
先生が私に対して
一体どうするんだろう、って云う
好奇心は有るんでしょうが……
でも、それだけじゃ
無いんですよ、先生……
あの子達は、私の事が心配だから、
ああやって、影からずっと
見守って居たんですからネ……」

「なるほど…
そう言う事だったのか……」

「だけど先生ッ、あの子達が
居なくなったからと云っても、
まだまだ油断は禁物ですからね!
大体、私達の居るこの校庭は
校舎からは丸見えなんですから……
誰が何処から私達の事を
見て居るのか、全く
分からないんですからね……
まぁ、それでも、さすがに
話し声や内容までは
分からないと思いますが、
それでも顔の表情ぐらいは
ハッキリと分かる筈ですからね、
くれぐれも、楽しそうな顔は
しないで下さいよ!」

「お?……う…む、
…そうか…分かった…」

卯月先生は
この私達の『作戦』が
計画通り、見事に遂行出来た事を
誰よりも嬉しく思って居たので
当然、私と2人でこの喜びを
分かち合う事が出来るモノと
思って居たのでした。

しかし、私からは
そんな喜びの感情を
無闇に面に出してはいけない
と言われ、卯月先生にとっては
全く、面白くも何とも無い事を
要求されて、しかも無理矢理
強いられたので、なんだか
納得が行かない様子でした。

しかし、こんな事は序の口で
コレからがいよいよ本題…
つまり、卯月先生に詰問する為に
私がこの場に来たと云う事でした。

「ところで、先生、
今日の『ピアス検査』は
ちゃんと首尾良く上手く行って、
本当に私も安心しましたよ……
でも、やはり、
さすがに『作戦』本番までは、
本当に先生が、約束通り
実行してくれるか、どうか心配で、
ドキドキしてましたけどネ…」

「何を言ってるんだ、天田!
俺は昨日、ちゃんとやるって、
確かに、お前と
約束したじゃぁないか…?! 」

「…そうですよね、先生……
でも…先生は何か大事な事を
忘れては居ませんか…?」

「ン ?…大事な事か…?
…イヤ……?
別に何も忘れてはおらんゾ……」

「ふ〜ん…
それじゃぁ、私との約束…
この『作戦』の事は、
誰にも話さない、って云う事は…
どうなんです?」

「おぅ、その事か!
勿論、俺は忘れてはおらんゾ!」

卯月先生は悪びれもせず
堂々とキッパリ返事をしました。

「じゃぁ、先生は私との約束を
忘れても居ないし、全く破っても
居ないって、そう言うんですね ?! 」

「あぁ、そうだ。」

私はコノ答えを聞くや
余りの怒りから、頭から湯気が
吹き出しそうな程、憤慨してしまい
思わず、凄い勢いで
まくし立てました。

「な、…何ですってッ ?! 
今、約束は破って無いって
言いましたよね、先生ッ!
……じ、じゃぁ、さっき授業中に
川野さんから、この件に就いて
『ありがとう』って、
お礼を言われたんですが…
それは、一体、
どう云う事なんですか、先生ッ!
さぁ、説明して下さいよ!」

「おぉ、そうか……
川野はお前にお礼を言ったのか…
そうだったのか…
それは、良かったな、天田!」

「はぁ〜〜〜?!
…せ、先生、それって、まさか…
本気で言ってるんですかッ!」

「…あぁ、勿論だ…
これで、川野はこれからは
アイツらのイジメに
遭わずに済むんだからな…」

「先生ッ!
せ、先生は一体、
どう云うつもりなんですか ?!
そ、それが、その事が
まさしく約束を破ったって
事じゃないですかッ!
そ、そんな事も
分からないんですか… ?! 
それに、私は昨日、先生には、
この事は絶対に誰にも言わない様に
他言無用だと、ハッキリと
言った筈ですよねッ!」

「あぁ…まぁ、そうだが……
だがな、天田…お前は本当に
誰にも出来無い様な事をして、
川野をイジメから
助けてやる事が出来たんだからな!
やはり、コレは、川野からも
お礼を言うのが当然だろう……?」

「だ、だから、先生ッ!
一体、誰がそんな事を
してくれって
頼んだんですかッ ?! 」

「誰がって…お前…
そんなのは、誰にも
頼まれてはおらんが……
それは…俺が自分で……」

「ふんッ ?! 
…ふざけるのもいい加減に
して下さいよ、先生ッ…!」

「な、なんだ、天田…
お、俺は、
ふざけてなどおらんゾ……」

「コレがおふざけじゃ無くて、
一体、何だって言うンですか ?!
……こんな馬鹿げた事……
だってそうでしょッ!
…先生は、昨日、私とあれだけ
誰にも言わないって約束したのに……
なのに、こんな簡単に、
しかも、見事に
破ってくれたんですからねッ!
私が何でこんなに怒ってるのか、
先生は分かってるんですかッ?!
どうなんですか、先生ッ!」

「あ、…イヤ…お前が怒ってるのは…
それくらい…勿論、見れば分かるが、
…しかしだなぁ……川野から
『お礼』を言われた事で、
何でそんなに怒ってるのか…
ハッキリ言って…
俺にはよく分からんのだ…
助けた相手からお礼を言われたら、
普通は嬉しい筈だろうが……?」

「はッ、はぁ〜〜〜?!
…し、信じられないッ、
ってか、有り得ないッ!
 ホ、ホントに私の言ってる事が
分からないンですか、先生は……?!」

「…う…む……
分からないと云うよりも……
…ただ…俺はな、天田…
お前が誰にも知られずに、
本当に凄くいい事を
したにも拘わらず、それでも
お前は当然の様に
それを誰にも知られない様に
して居る事自体が……俺には
なんだか不憫でならんかったんだ……
だから、そんなお前こそ
せめて、当人の川野からは
絶対にお礼を言われる
べきだと思ったんだ…」

「ふん、…先生、そんなのは、
先生の個人的な…
ただの感傷に過ぎませんよ…
私達が遂行すべき『作戦』には、
全く不必要の、下らない
センチメンタリズムです!
先生は、そんなどうでもいい様な
まるで、女学生みたいな
甘い考え方で、この計画を
全てオジャンに
するつもりですかッ?!
大体、この計画自体が、まだ
終わっては居ないんですよ…
少なくとも、私達がこの学校を
卒業するまでは……
多分、一年以上もの間はずっと
続いて居る計画なんですからね、
その事が分かってるんですか!」

「そうかも知れんが…
だが……天田……お前は、一体
なんで、そんなに怒ってるんだ?
…約束を破ったって言ってるが…
俺は絶対に、そんなつもりなんて
無かったんだゾ……」

「…先生にそんなつもりが
有ろうが無かろうが、
そんな事はこの際、
全く関係有りませんよ……
…まだ、分かって無い様だから、
言っときますケドね……
先生が今日、川野さんに
この私達がした事を話した事で、
もしも、川野さんが
他の生徒にでも話したら……
その時は……
一体、どう云う事になるのか…
先生には、それが本当に
分かってるんですかッ ?! 」

「そ、そんな事は、
川野はせんだろう…?!
イヤ、絶対にせん筈だ…!」

「へぇ~? 
そりゃ、オモシロイ ?!
どうして先生は、
そんな風に言い切る事が
出来るんですかねぇ〜 ?!
…大体、先生自体が
『絶対に誰にも言わない』
って云う約束を、舌の根も乾か無い
翌日には、こんなに簡単に
ホゴにしてるんですからねぇ……
ったく、今更ながら、よくも
そんな事が言えますよねッ!
ホント、呆れて
笑っちゃいますよッ!」

「そ、…だ、だから…
それはだなぁ……」

「そうなんですよ、先生ッ!
だから……
『誰にも知られ無い』
為には……決して、
『誰にも言わない』
って事が、鉄則なんですよ……
分かりましたか?…先生!」

「う、ぅ…む、…そうか……
そうだな…天田……
それでは……
これから、どうするんだ…?」

「まぁ…川野さんには、
この事は『他言無用』って事で、
物凄くビビる程、私が直接
脅して置きましたし……
第一、もし、この事が
仲間の連中にバレると、
川野さん自身が、また酷く
イジメられる事にもなるって事を
しっかりと、言って置いたので
間違っても先生の様に
ペラペラと人に話しをするって事は
無いとは思いますが……」

「な、なんだ…天田、
…俺の事を
『ペラペラと話す』とは
……失敬なッ!」

「ふん、だって、
ホントの事じゃないですか……
昨日の今日ですよ、
私達が約束したのは……」

「そ、それは…そうだが……」

「それにね、先生…
昔から『人の口に戸は立てられぬ』
って言いますからね、
人は、幾ら約束しても、
必ず誰かに話したくなるって
事なんですよ……
だから、これからは、
本当に、絶対、私達の事は
誰にも秘密ですからねッ!
特に、生徒達には、絶対に
この私達の『作戦』の事や、
私と先生が繋がって居る事が
知られると……
本当にマズい事になるんですから……
今後は、ちゃんと
気を付けて下さいよ、先生、
宜しくお願いしますねッ!」

「あぁ、分かった……
天田…済まなかったな……」

「いえ、分かって貰えたなら、
それでいいんです……
それじゃ、先生、失礼します!」

そう言うと頭を下げて
私は校舎の方へと走って行き
急いで自分の教室へと
向かったのでした。






続く…





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