私が
校庭のマラソンを終えて
皆んなが座って居る所に
辿り着くと、後からやっと
走り終わった仲間達も
合流して来ました。

私も仲間の皆んなも
走り終わったばかりで
心臓の鼓動は早く、息切れ状態で
顔も真っ赤に紅潮させて居ました。

すると
仲間のツッパリの一人が
川野さんが走り終わったのを
見付けて、大声を掛けながら
こちらに来る様に
手招きをしました。

「川野さ〜ん、
ちょっと、こっちに来てよ〜!」

すると
その呼び声に
気が付いた川野さんも
まるで覚悟した様に
コックリとうなずくと
少し緊張気味でしたが
言われた通りに大人しく
その指示に従う様に
小走りでこちらに
やって来ました。

私は内心
「これはマズい!」
と、思わず気持ちも高ぶり
心臓はバクバク
頭には血が登って
顔も真っ赤…となって居る
ところでしたが
しかしこれは
先程のマラソンの後なので
既にその様な状態だったので
周りの皆んなには
私のこの様な心の状態を
感付かれる事は
有りませんでした。

川野さんが
ここまでやって来て
私達の側にそっと座ると
透かさず、先程声を掛けた
仲間が話し掛けました。

「川野さん、さっきサ〜、
卯月先生と2人で
話してたでしょ〜?」

「そうだよね~…私も見たよ!」

「ねぇ、一体、何を話してたのよ ?!」

「なんか、アタシらに聞かれちゃ
マズい事でも話してたの〜?」

一人が話し掛けると
矢継ぎ早に次々と
皆んなが質問して来ました。

「…ぇ?……そ、それは……」

川野のさんもタジロギながら
少し怯えた様に
口を開き始めました。

イキナリの質問攻めに
圧倒されて居る
川野さんの様子を見て
「コレは私も知らない様な
何か余計な事を
川野さんが話し出す前に
なんとかしなくちや ?! 」
と思うが早いか
直ぐ様、私が先に
川野さんの代わりに
話し始めました。

「そりゃ〜、卯月に
『お小言』言われてたに
決まってるじゃない!
そうでしょう〜?…川野さん!」

そう話しながら
私のこの話しに合わせる様に
と云う意味合いを込めて
川野さんの顔を
しっかりと見据えました。

すると
じっと私の方を
見て居た川野さんも
この私の質問に対して
コックリと
うなずいたのでした。

「えーっ?
な、なんで優等生の川野さんが、
卯月に『お小言』
なんか言われるのよ〜 ?! 」

「そうよ、そんな事…
有り得ないジャン!」

「そうだよねぇ〜
そんなの…
どう考えてもオカシイよ ?! 」

ツッパリ連中は
如何にも納得が行かない
と云った様子でした。

そこで、更に私は
畳み掛ける様に
話しを続けました。

「何言ってんのよ、アンタ達!
相手は、アノ卯月だよ ?!
…そんなのサ、
どうせ呼び止めたのだって
川野さんに対して、
『川野、お前は今回のピアスの件は、
''お咎め無し''だったが、もし、
他の事で校則違反したら、
その時は容赦しないからな!
俺も厳しく取り締まるから、
そのつもりで居ろ!
俺はお前には
目を付けてるんだからな、
分かったな!』
な〜ンて、脅してたに
決まってるじゃん ?! 
…ねぇ〜、川野のさん…?」

すると
その話しが本当の事なのか
確かめる様に、一斉に
仲間の皆んなが
川野さんの方を見ました。

そこで、川野さんは
オドオドしながらも
再び、コックリと
うなずいたのでした。

「ホ〜ラね、
だから言ったでしょう〜?
卯月はそう云うヤツなんだって!
だってサ、本人自身が
『美人だろうが、頭が良かろうが、
そんな事、俺には関係無い!』
って、さっきも言い切ってたしネ…
ましてや、川野さんは
ピアスが開いててもサ〜
アイツ自身には
取り締まれ無いから、
その分、なんか有ったら、
今度こそ、川野さんを
ただじゃぁ置かないゾって、
つもりでサ、きっと
目を付けてるんだよ〜!」

「ヒ、ヒド〜い…
そんなの、酷過ぎるよ!」

「そ、そんな……
川野さんが可哀そ過ぎる!」

「そうだよ、それに…大体サ、
川野さんは、アタシらみたいな
ツッパリじゃぁ
無いんだからサァ〜?」

「そーだよ……全く…
サーコ、何とかなんないの ?! 」

「…何とかって……
そんな事私に言ったって…
アノ卯月だよ……
アイツには、
なに言っても無駄だよ……
だってサ、それに……
川野さん自身にも
ホントにピアス開いてるしね、
結局のところ…私達と全く
同じ扱いってワケだからサ〜」

「えーっ、まさかぁ〜 ?! 
ホントにぃ?サーコ…
ホント、そう云う事なの…?」

「うん、本当に
そう云う事だと思うよ……
ね、川野さん!
だから、さっきマラソンの時に
ワザワザ川野さんを呼び止めて、
念を押したんだと思うょ……」

川野さんを見ながら
私がそう言うと
川野さんも神妙な面持ちで
うなずきました。

「そ、そうなのか……」

「な、なんか川野さん……
可哀想…って云うか、
ホント、飛んだ災難だよね……
よりによって…アノ卯月に
目を付けられちゃうなんて……」

すると
先週のピアスの件から
川野さんに対して
人一倍ずっと執拗に
意地悪をして居た
仲間の一人が
申し訳無さそうな
神妙な面持ちで
ボソッと話しました。

「アタシなんかサ〜
ピアス開いてて、ツッパってても、
まだ、サーコ達みたいに
直接、卯月から
呼び出された事も無いし、
川野さんみたいに
目を付けられた
ワケでも無いからなぁ……
全然、マシな方だよね~
まぁ、運がいいダケか
分かんないけどサ……」

「ホントだよね……
明日は我が身って事だよね ?! 」

ツッパリ連中は
川野さんの余りにも
可哀想な境遇に
本気で同情して居ました。

そこで私も
皆んなの同情心に
拍車を掛ける様に
如何にも川野さんが
私達の仲間で有るかの様に
誘導しました。

「ホント、川野さんの事は
気の毒意外の
何者でも無いよね……
だけどサ〜
川野さんが、私達ツッパリと
同じ扱い受けてるって事は……
こりゃぁ、まさしく、
川野さんも私達の仲間
同然って事じゃない ?!
…そうだよねぇ、皆んな !」

「え?……そ、そうなの…?」

「ふ〜ん、まさに
…そう云う事になるよね……?!」

「確かに!
…そう言われれば…
サーコの言う通りだワ……」

「うん、うん…ホントだね…
な〜んだ、それじゃぁ、
川野さんもワタシ達の
仲間なんじゃん…ねぇ〜 ?! 」

「あぁ、なるほどネ~?
有り得ない様に思うケド…
でもサ、結果的には、
ホント、そう云う事だよね ?! 」

ここで私は
川野さんが私達の
仲間だと云うのが
まさに事実で有る様に、更に
皆んなに認識させる為に
再三、釘を刺しながら
話しを続けました。

「アハハハハ…
そうだよ、なんてったって、
この学校の鬼…アノ卯月から
目を付けられてるんだからネ……
川野さん、今日からあんたは
立派な仲間なんだからサ〜
これからは私達に
遠慮しなくてイイからね!」

「そうかぁ〜……サーコ!
そうだよネ、川野さんも、
私達の仲間って
事になるんだモンね!」

「そう、そう、川野さん
遠慮は要らないよ〜!」

「そう云う事!
じゃぁ、これからは
川野さんも私達の仲間なンで、
皆んなも、今から
そのつもりで宜しくネ!」

「うん、分かったょ、サーコ!」

「ホ〜ント、そうだよね~ ?!」

「よろしくね〜、川野さん!」

「よし、それじゃぁサ〜
川野さんも、
なんか困った事が有ったら、
いつでもワタシ達に
言って来なよね!」

「そうだネ、サーコ……
川野さん、本当に何でも、
言って来ていいよ…
あぁ、でもサ…
勿論、勉強以外でね!」

「あははは〜
そりゃ、そ〜だョ……」

「それじゃ、川野さん…
まぁ、コレから宜しくネ!」

「ホント、よろしく〜」

「ヨロシクね〜、川野さん!」

すると
川野さんもなんだか
ぎこち無いながらも
心持ち嬉しそうに
笑顔で皆んなに
答えて居ました。

「あ、ありがとう……
こ、こちらこそ…
宜しくお願いします……」

「あはははは〜、
川野さんサァ〜、ワタシらは
もう仲間なんだから、
『お願いします』じゃなくて
『よろしくネ〜』でいいんだよ!」

「…ったく、川野さん…
ホント、真面目なんだから〜」

「キャハハハ……ホント、ホント〜」

仲間の皆んなに
生真面目さをからかわれても
この時の川野さんからは
もうツッパリ連中に対する
恐怖心や不安感と云ったモノは
感じられませんでした。

そうして仲間の皆んなは
川野さんが晴れて
私達の仲間になった事を
いち早く、クラスの
他の皆んなにも話したくて
その後は直ぐに、ここから
立ち去ってしまいました。

これで私も
本当に一安心と
ホット一息付いて居たら
ソコには、まだ川野さんが
残って居ました。

川野さんは
仲間の皆んなが居なくなると
私の側に近寄って来て
直ぐ隣に座りました。

「あ、天田さん……あの……」

「うん?…どうしたの、川野さん…」

「…あ、ぁの………
い、言いたい事が有るんだケド……」

「へぇ~……言いたい事ってナニ?」

「……じ、実は……さっき…
卯月先生に言われたんだケド……」

「…ふ〜ん……それで?
川野さんは…先生に…卯月先生に、
一体、何て、言われたの?」

「…ぁの…天田さんに…
お礼を言う様にって…」

「ヘッ?!……あ、アイツ……
そんな事、言ったのか……!」

川野さんの
この言葉で、瞬く間に
私の顔色が変わったのが
自分でもハッキリと
分かりました。

「あッ、だ、だから……
本当に、天田さん、
どうもありがとう!」

「ふ〜ん…
別に、お礼なんかいいョ…
それよりも…他には…何て?」

私の様子が
ガラッと変わり、まるで
『ジキルとハイド』よろしく
先程の陽気な私とは
まるで別人格の様に
目付きもキツく、厳しい形相に
変わって居たので
川野さんもビックリして
顔が強張ってしまいました。

「ぇ?…ぁの……だから……
今日の事は……
私へのイジメが、これ以上
酷くなら無い様にって、
天田さんが心配して、
考えてくれた事だからって……」

「チッ !!… ア、アイツーっ!
そんな余計な事まで、
あんたに言ったのか……
……誰にも話さないって、
あれだけ、約束したのに!
……ったく、口の軽い男だッ!」

私は川野さんの
話しを聞いて、まさか
卯月先生がこんな大事な事を
しかも、何度も念を押して
約束までしたのに…
そんな簡単に破るとは
思いもしなかったので
本当に完全に
逆上してしまいました。

私がこの様に
怒りを露わにする事は
余り無い事でした…が
しかし、それは……
以前、割りと仲の良い
クラスの普通の友人から

「サーコ、
あんたが一人で居る時とかサ、
あんたの側に行くと、
たまにサ〜、
まるで、ナイフか何かで
斬り付けられる様な…
そんな危ない感じが
する時が有るんだよね… ?!」

と言われた事が切っ掛けで
その様な自分自身に
ショックを受けたからでした。

そして、やはり
その当時の私は
卯月先生から言われた様に
『ブラックリスト』のトップに
リストアップされて居ても
当然といった様な、見た目も心も
可なりヤサグレて
しまって居たのも事実でした。

しかしそれ以上に
これまでの自分自身に起きた
全てのネガティブな事に対する
物凄い哀しみや苦しみ
怒りや不満、やるせ無さなどが
相まって、その様な自分自身でも
どうにも出来無い様な
ましてや誰にも、何処にも
ぶつける事が出来ない
今までの鬱積した感情が
まるで、いつでも獲物を狙って
トグロを巻いて居る
恐ろしい毒蛇の様に
じっと私の中に
潜んで居るかの様でした。

そして、その様な
潜在的で強力な
ネガティブ意識が
自分でも気が付か無い内に
自然と自分自身の周りにも
殺気立った危険な雰囲気を
醸し出して居たのでした。

私が友人から
その様な事を
指摘されて以来
学校に居る時には
出来るだけ、その様な
狂気地味た殺気や
気配などが出ない様に
極力、気を付けて居ました。

なので、私は普段は
他のツッパリ達の様に
威嚇する様な恐ろしい顔を
人に向けてする事も、また
ワザと恐ろしさを見せ付ける
様な事もしませんでしたが
しかし、この時ばかりは
些か自分自身を
抑える事もせずに、モロに
川野さんに対しては
その私の激怒振りを
見せて居ました。

何よりも
卯月先生自体が
寄りにもよって、ご丁寧にも
当事者である川野さんを
ワザワザ呼び止めて、しかも
それを皆んなが見て居る
マラソンの最中にするとは
全く以って、考えられない事であり
私にとっては、まさに
信じ難い事でも有りました。

ところが
可哀想なのは川野さんで
私のこの尋常では無い
物凄い怒り様に、本当に
オドオドしながら
それでも一生懸命に
お礼を言って居ました。

「…あ、天田さん…ぁの…あの…
でも、…本当に、本当に、
どうもありがとう…!」

私は、卯月先生に対して
怒り心頭では有りましたが
しかし同時に、頭の中では
この川野さんに対しても
彼女がこれからするであろう
言動に就いて、色々と
考えを巡らせて居ました。

「イヤ、お礼はいいよ、
もう分かったから……
それに、コレは、別に…
川野さんが悪いワケじゃ無いし、
私だって川野さんの事を
怒ってるワケじゃぁ
無いんだからサ……」

「…そ、そうなの…?本当…?
…あぁ…それなら…良かった……」

「だけどね、川野さん……
あんたが、もし……
もしも、他の誰かに…この事…
つまり、私と卯月がツルんで
川野さん…あんたの事を
助けようとして、
今日のこの異例的な
『ピアス検査』をしたって事を
バラしでもしたら……
そん時は…あんたを許さないよ!
いいかい ?…私の怒りは、
こんなもんじゃぁ、
済まないからね!
…本気で許さないから…
そのツモリで居なよね!
…それにサ……
あんただって、こんな事が
ツッパリ連中に知れたら、
ソレこそ大変なンだからね……
また、前みたいに…
イヤ、それ以上に、
意地悪される事ぐらい…
あんただって、分かってるよねッ!
だからサ、コレは、
絶対に他言無用じゃ無きゃぁ
マズいってワケよ……いいィ?
川野さん、コレは絶対に
あんたと私の秘密だからね、
いいわね!」

「…うん。」

私が完全に脅す様に
語気を強めて話しをすると
川野さんはすっかり怯えて
小さくなったまま
コックリとうなずきました。

すると
もうじき体育の授業が
終わりに近付いたのか
卯月先生がホイッスルを吹いて
皆んなを集めました。

そして再び
日直係が号令を掛け
皆んなで卯月先生に礼をすると
体育の授業が終了しました。

その後
皆んなはそれぞれ
教室に戻って行きましたが
しかし私には、まだ
やる事が残って居ました。

そこで
ツッパリ仲間には
先に教室に戻って
行く様にと頼みました。

「あのサ〜…、私…ちょっと…
卯月のところに行って来るワ、
さっきのピアス検査の時に…
『時効』とか『美人』とかサ、
余計なチャチ入れてたじゃん ?!
だからサ、その件で
ちょっと詫び入れて来るヮ……
そう云うワケだから、
皆んなは先に
教室に行っててよ……」

「えーっ?! 
…そ、んなぁ~…本気なの?」

「だけど…サーコ、なんで……
ワザワザそんな……」

「…う〜ん…だってサ、
私の場合…先週も同じ事やって、
出席簿で頭…叩かれたじゃん…
だからサ〜、一応、卯月には
詫びの一つも入れて置いた方が、
いいかなぁ〜って思ってサ!
これ以上、目を付けられたんじゃ
こっちも、たまんないし…
ホント、マズいからね……」

「ふ〜ん…
そうか…なるほどね……」

「じゃ、じゃぁぁ…サ、
アタシ達も一緒に
付いて行ってあげるよ!」

「そ、そうだよ…卯月のヤツ
何すっか分かんないし、
サーコ、一人じゃ心配だもんね!」

「そんでもって、
卯月がまたサァ、サーコに
なんかしそうになったら、
アタシ達が皆んなで騒いで
止めてあげるよ…ねぇ、皆んな!」

「うん、うん!」

「そうだよ、そうだよ!」

ツッパリの仲間達は
無謀な振る舞いをする
卯月から、私を守ろうと
必死で皆んなが
団結して居ました。

「…あぁ…いや…
皆んなの気持ちは、
本当に嬉しいんだケド
…でも…」

「なんだよ、サーコ…
遠慮するなんて、
水くさいじゃない…」

「そうよ、そんな事、
気にする必要ないからね!」

「…うん、ありがとうね、皆んな!
でもサ、詫びを入れるのに、
ビビって、金魚のフンみたいに、
皆んなで行ったらサ、ソレこそ、
『天田、そんな事言うのも
一人では来れんのか、お前は!』
って、絶対に卯月に
ドヤされそうだからサ……
だから…ここはヤッパ、
私が一人で行った方が
いいと思うんだ……
だから、そうするよ!」

「…そ、そうか……」

「…う〜ん……
そうかも知れないね…」

「じゃぁ、サーコ…頑張ってね!」

「アタシ達も、陰ながら
応援してるからサ……」

「うん、私は大丈夫だから……
皆んな、心配しなくていいからね、
それより早く教室に戻らないと、
こんな所にいつまでも残ってると
『お前達、何をやってるんだッ!』
って、卯月に怒鳴られるからサ……」

私がそう言うと
直ぐに皆んなは怯えた様に
緊張しながらも
コックリと納得して
うなずきました。

そして、直ぐ様
肩をすぼめる様に
卯月先生をチラチラと
横目で見ては気にしながらも
そそくさと、校庭を
小走りで後にしたのでした。






続く…





※新記事の投稿は毎週末の予定です。
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