私は

清水先生と2人で

話しをして居ながら

有る事を実行する

決意もして居ました。


それは、

私が自ら学校側に出頭して、

この今回の噂の

『答案用紙盗み』

の件に就いて自白する事、

つまりは自首して、

私が知っている事の

全てを話すと云う事でした。


この噂が

ここまで拡散されて

大事になっていれば、

当然ながら、靖子達が

調べを受ける事は明らかで

そうなると、もう後は

靖子達に処分が下るのは

時間の問題でした。


そして、たとえ

私が首謀者や実行犯では

無かったにしろ、

かつては、この犯罪の

仲間入りをさせられて居た

のは事実でしたので

やはり、私としても

潔く、靖子達と共に

処罰を受けるのが

最善な事であると

確信して居ましたし

既に、もう

覚悟も出来て居ました。


そして

何よりも私自身が

処罰を受ける事で

中学3年の冬から抱えて居た

この非常に厄介な問題や

靖子達との

『秘密の仲間』の関係とも

これでやっと、スッキリ

おサラバ出来ると思うと

目先の処罰の心配よりも

寧ろ、不思議な安堵感さえ

フツフツと湧き上がって

来る程でした。


そこで、

私は清水先生に

私自身が自ら

自首する事を話しました。


「……先生、靖子達の

『答案用紙盗み』の件も

大分、公になって来たので、

そろそろ私も

もう、ココらへんで

学校側に出向いて、

靖子達との関係性や

犯行のあらましを

自白しようと

思ってるんですが……。

なので、先ずは……

一応、先生にも、

この事を話しておきますね……。

多分、そうなると、

これから、私の担任である

清水先生にも

何かと面倒を掛ける事に

なると思いますので……」


すると、

先程から何らや

陰鬱な雰囲気を漂わせて

考え込んで居た先生が、まるで

目が覚めた様にビックリして、

細い目を大きく見開きながら

私の顔を直視しました。


「あ、あ、……天田ッ!

お、お前が……そ、そんな事、

そんな事、する必要は無い!

お前は……お前は、そんな事

しなくても、いいんだからなッ!」


「え?……で、でも……先生、

これは最初に……

この件が噂になる前に

靖子達の事を先生に

話した時から、私が学校に

自白すると云う事は……

先生にも、言ってましたよね?

……だけど……先生が、この件を

暫く預かるって言ったんで……

それで私も、この自白の事は

暫くお預けにして、

何もしませんでしたケド……

だけど、もう、こんなに

噂になってバレてますから……?!

……だから、コレで漸く

私が自白する時が来たんですよ!

いよいよ、コレで私もやっと

スッキリする事が出来ます!」


「いや、……それは……

ちょ、ちょっと待て、天田!

は、早まるんじゃ無いぞ!」


「そ…う、言われても……?

この方法しか……

無いんですよ、先生!」


「だ、だから……、

だから、あの時……

俺が、あれ程、

『俺に任せてくれ』って、

言ったんだよ……

それなのに……お前……」


「……ふ~ン …?

……だから先生、

私だって先生には、

『早く何とかして下さいね!』

って、何度も頼みましたよね……

でも、その時…先生は

『待ってくれ、

もう少し時間が欲しい』

の一点張り

だったじゃ無いですか……?!

だけど私は、

そんな事してる内に

きっと靖子が

何かを仕出かすと思ってたので、

その前に、早く何とか

手を打たなくちゃなら無い

と思って居たんですよ……

だから……、やっぱり当初に

私が計画した通り、

私が先に学校側に自白してれば、

こんな大騒ぎにはならずに、

早々に靖子達が調べを受けて

私達が処分されるダケで

済んだはずなんですよね……

しかも、その処分だって

内密に行われたはずなんですよ……

そうすれば……

学校中の生徒達や先生方にも

こんな噂が流れる事も無く、

皆んなにショックを

与える事も無かったし……

靖子達自身も、学校中に

自分達の犯罪が知れ渡る事も

無かっただろうし……

そうなれば、

あの子達自身だって、

少なくとも、そんなに酷くは

傷付かずに済んだ

筈なんですよね……」


「……そ、それじゃぁ……

お、お前は……

俺のせいだって言うのか?!……」


「…まぁ、そう…とまでは

言いませんケド……

でも、まぁ、アレですよ……

こんな大事になった事自体は……

……結局は……

誰のせいでも無いんですよ。

だって、元はと言えば、

浅はかにも

咲江なんかを巻き込んで、

私を脅そうとした

靖子自身が、自分で撒いた

タネなんですからね……

ま、自業自得って

事なんでしょうケド……

とにかく、早かれ遅かれ、

この件は、誰かが

処罰されなければ

収まらない問題ですからね……

だから……私も端から

処罰を受けるつもりでしたし、

それに……もうとっくに、

その覚悟も出来てますから……!」


「だ、だから…お前は、

そんな事しなくていいって、

言ってるんだよ!

お、俺が……、この担任の俺が、

お前は、なんにも悪く無いって、

言ってるんだから……

自白なんて、

絶対に必要無いからな!」


「……う〜ん……、

でもねぇ……そんな事、

今更言われても……」


「…なッ、何が、

『そんな事言われても』だッ!

いいか、絶対に勝手に

そんな事するなよッ!

それと……

もう、お前はこれ以上、

この件には関わるな、

いいな、天田!

今度こそ、約束だぞッ!」


「……う〜ん……

まぁ……

先生が、そこまで言うなら……

しょうが無いですね……。

……分かりました、

それじゃぁ…

自白はしません……。」


「そ、そうか、

分かってくれたかッ ?!

それで、いいんだよ……

それなら良かった!」


こうして、

私と清水先生は

人気の無い夕方の廊下で

密談を終えました。


私は

せっかく覚悟していた

一世一代の

自白を止められて

何だか少し

拍子抜けした様な

気持ちになりました。


しかし同時に、もし

私が学校側に自白して

靖子達と一緒に

処分される事になったら

咲江達が

その事に納得が行かずに

また、何か良からぬ事でも

仕出かしたら……

と考えると、それこそ

元も子もないので

漸く私も、自白する事を

断念する気になりました。


そして

今回のこの噂が

拡散した一件で、今度こそ、

私の頭の片隅に

いつまでも巣食って居た

この忌わしい

『秘密の仲間』

の問題が、とうとう完全に

解消されるのだと云う

実感も湧いて来ました。


そして

清水先生が

私の自白を止める為に

『お前は何も悪く無い!』

と熱心に私を説得してくれた事が

少なからずとも、ジワジワと

胸に来たのを感じて、

今更ながら

先生に心配を掛けた事が

何だか少し

申し訳無い様な

気もして居ました。


しかし

この件に就いて

清水先生が現実的に

して来た事を

冷静に考えてみると

それは明らかに

先生の後手……と云うよりも

まさに、全く何も策を講じずに

ただ、いたずらに無駄に

時間を浪費していたダケ…?

と云う事になり、

この何ともお粗末な

思索の結果が、この様な

大事に至ったと云う事は

否めませんでした。


そう考えると

清水先生は、一体、

何を考えて居たのか……?

また、果たして

何をしようとして居たのか……?

私には、全く、

分かりませんでしたし、

当然、理解も出来ませんでした。


こうなると

成績優秀な秀才ダケでは無く

人を導く教師までもが

いわゆる『紙一重』

的な存在の様に、私には

思えて来るのでした。


この『答案用紙盗み』の噂は

暫くの間、学校中で

大騒ぎとなって居ましたが

それでも、学校側が

噂を調査して、靖子達に

処分を下だすと云う

動きが見て取れると

学校中の皆んなも納得したのか

漸く、その頃には噂も

段々と下火になって来ました。


靖子達の処分は

結局、『停学』と決まり

それぞれの罪の重さによって

停学期間が決められた様でした。


つまり、主犯格の靖子は

一番長い期間の停学処分を

申し渡されたのでした。


しかしながら

学校側もその処分を

実行する迄には、

少し時間が掛かって

居ました。


それは

他の生徒達に与える影響や

靖子達自身の今後の事などを

色々と考慮した上での事か……

結局、

その『停学処』分自体は

冬休み中に施行される

事となりました。


私自身としては、

この学校側の取った

処分や方法が、少しばかり

成績優秀な生徒びいきの

様にも思えましたが

それは、また実際に

学校内の生徒達の間でも

『処置が甘すぎる』

とウワサされて

居た事も確かでした。


しかし

そう考えると、やはり

あの秀才靖子の事ですから

『学校側の管理能力や

セキュリティ』

に対するマズさやずさんさ

などを厳しく指摘して

学校側に詰め寄り、

それをネタに

これから自分達に下される処分を

軽減させた可能性も、十分に

有り得る事だと思いました。


この噂や

校内で公にされた

処分の事などから

暫くして……

それは靖子達が

停学になる冬休みまでには

まだ少し早い

冬のある日に……

私は廊下の端に有る

誰も人が居なかった階段を

一人で下りて行くと、

下からも階段を上がって来る

一人の生徒の姿が見えました。


私の所からは

その生徒の頭の上の部分

だけが見えましたが、別段

その生徒の事は気にも止めずに

下へと下りて行くと

丁度すれ違いざまに

お互いの目が合いました。


私達は一瞬、

お互いの動きが止まって

ほんの暫くの間

顔を見合わせて居ましたが

直ぐに、それぞれが向かっている

階段の上と下へとに

分かれて行きました。


すると、私の横を

通り過ぎた、その生徒は

階段を少し上がった

直ぐ上から、突然


「サーコ、あんたダケは……、

あんたダケは、

絶対に許さないからッ!」


と、その階段中に

響き渡るほど、大きな声で

私を見下ろしながら

怒鳴り付けました。


その声に

私がビックリして

階段の上を見上げると

その生徒は

憎しみで歪んだ顔を

こわばらせながら

私を睨み付けると、直ぐに

また階段を上って

行ってしまいました。


そう……

その生徒と云うのは

紛れもない、

アノ『靖子』

だったのでした。


私は

靖子が立ち去った後も

その階段で、暫く茫然と

立ち尽くして居ました。


「あぁ……、やっぱり、

靖子は今回の事で、

…大分…本当に…、

傷付いちゃったんだな……

コレも…やっぱり……

私のせいなのかァ…………?」


そして

この時の靖子の表情が

いつまでも私の脳裏に

焼き付いて離れず

まるで生霊にでも

取り憑かれて居る様に

この後も、暫くの間は

何となく身体全身から

力が抜けてしまって

全くと云っていいほど

何も、やる気が

起きて来ませんでした。


私は

いつも、人から自分が

傷付けられた事よりも

私が人を傷付けてしまったか

どうかと云う事を

常に考えてしまう癖があり

その事が、可なり私自身を

苦しめる原因にも

なって居ました。


私が靖子にした事は……

あんな凄まじい形相で

憎まれ口をきかれる程、

そんなに酷い事だったのか……?


そして私は

中学入学以来、

靖子との間に有った

これまでの事を、ずっと

思い返してみました。


しかし

どう考えても

一方的に私が靖子を

傷付ける様な事など

何一つとして、思い当たる事は

有りませんでした。


寧ろ以前

中学の初めの頃

靖子が『生意気』だと云う事で

咲江やクラスの目立った子達に

目を付けられて、それこそ

吊るし上げられるところを

私の機転を利かせた作戦で

助けた事も有りました。


そして

その後に、私と靖子も

親しい関係になって行った

と云う経緯が有りました。


しかし

更にその後には、

例の『秘密の仲間』

に半ば騙された様に

強制的に加担させられて

『答案用紙盗み』犯罪の

片棒を担がさてしまった事が

当時の私自身としては

可なりのショックでした。


それまで

一寸の疑いもせずに

純粋に靖子を信じて来て

また、その聡明さに

尊敬の念さえ

抱いて居たのに……

一体、何故……?

しかも、どうして

あんな卑怯な手を使ってまで

私を騙したりしたのか……?

本当に、私には理解出来ず

また、自分がされた事さえ

信じられずにも居ました。


私はこの

『秘密の仲間』

との関係性と

『答案用紙盗み』

の共犯の事で

本当に酷く傷付いて

しまったのでした。


そして

その犯罪の事を

初めて打ち明けた

地井さんに、まるで

その傷を癒やす様に

次第になびいて

行ったのでした。


私としては

アノ噂の件で

靖子に、まさか

そこまで恨まれるとは

思いもしませんでしたが

しかし実際に、現に目の前で

あんな怒鳴り声を上げる

傷付いた靖子の姿を

まざまざと見せられて

しかも

『絶対に許さない!』

と吐き捨てられた事自体が

やはり

今回の噂の件は

私自身に責任が有るんだと

捉える様になり

またもや、自分自身を

責める事になるのでした。


しかも

この様に考える事は

私にとっては

酷く憂鬱な事でした。


それは

まるで、いくら探しても

出口が見付から無い様な

薄暗い洞窟に

迷い込んだ様な感覚で

そして、可なり

深みに入り込んだ後には

『出口は初めから無かったんだ!』

と気付き、ショックと戦慄で

愕然となって、更に

どんどん自暴自棄に

陥って行く様な感覚でした。


何よりも

やるせないのは

目の前で困って居る人を

見過ごす事が

出来無い様な……こんな私が

その人を助け様として

どんなに心を砕いて

頭を駆使して、可能な限りの

手を尽くしたとしても

その当の本人は、その様な私の

決死の思いや覚悟も

またその行為に対してさえも

まるで無視する様に……

そして、更には

それ自体が無意味な事だと

言わんばかりに、

必ずと言っていい程

私に対して、何らかの

酷い仕打ちをして来る……

と云う、何とも

信じ難い様な事が

現実的に、私自身に

起こって居る事でした。


この事が

どうしても

私自身、本当に

納得も理解も出来ず

私が人にして来た

善意からの行為が

果たして、本当は

間違って居たのだろうか……?

或いはまた……

一体、どうすれば

良かったのだろうか……?

と日々、自問自答を

繰り返しては

答えを見い出せないまま

悶々と思い悩み続けながら

もう、しまいには

何もかもが

分から無くなってしまって

結局、最後には

自分自身を責めては

増々、惨めになって

行くのでした。






続く…










※新記事の投稿は毎週末の予定です。
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