【006】高村光太郎「触覚の世界」(210103)

 高村光太郎の残した随筆の中に「触覚の世界」と云う一文がある。
 この文は冒頭、「私は彫刻家である」ということわりから始まる。(『智恵子抄』で有名な詩人も、若い頃は父の光雲を継いで彫刻家を目指していたのだろうか?)
 光太郎は「私にとって此世界は触覚である」という。つまり、五感の全ての感覚(視覚・聴覚・味覚・嗅覚)を触覚に置換して感じているのだそうだ。
 「私の薬指の腹は、磨いた鏡面の凹凸を触知する」と述べている様に、光太郎の触覚の繊細さは常人の域を超えている。
 優れた武術家も視覚・聴覚・味覚・嗅覚を体性感覚に置換して感じているのではないかと思う。
 ミラーニューロンが活発に働いていて、共感力が研ぎ澄まされていれば、相手の思考や感情を自身のものとして瞬時に取り込み、更に、相手の体性感覚を自身のものとして瞬時に写し取る事が出来る。
 特定の感覚が異常に突出していると云う事は、周りにいる人たちの思考や感情・感覚などに、自身の感情・体調が影響を受け易いと云う欠点もある。
 例えば、「空気を読む」という表現があるが、敏感な人は「悪い空気(=雰囲気)」を吸って体調を崩すことすらある。
 ちなみに、随筆「触覚の世界」は「私にとって触覚は恐ろしい致命点である」という言葉で締め括られている。

※「触覚の世界」は青空文庫では高村光太郎の随筆となっているが、高村光雲の間違いかも知れない。