聖乳歯とは耳慣れない言葉……というより本作の造語だと思いますが、イエス・キリストの乳歯のこと🦷

その聖なる乳歯を巡ってイスラエルと、東京都にある絶海の島 青ヶ島 をまたがるミステリーです。



本岡類著「聖乳歯の迷宮」文春文庫より。



作者 本岡類は1951年生まれ。81年に小説家デビュー。社会派ミステリーを主に手掛け、93年には直木賞候補となりますが、母親の介護をきっかけに小説の執筆からは離れ、それ以降は介護や医療をテーマにしたノンフィクションを主軸に執筆してきました。

もしかすると90年代頃から硬派な社会派小説が敬遠され出したことも影響しているのかも🤔

しかし本作で久しぶりにミステリーに復帰。確かにどこかレトロな、かつての社会派ミステリーぽさがありますね😅

それでいながら宗教右派やカルト教団、あるいはネットのフェイクニュースなど、現代の世相を表すキーワードもしっかり押さえています。

あるいは懐かしの 旧石器捏造事件 👇



ちょうど東京都知事が終わったいま読むと少し考えさせられることがあるかもです。



イエスの生家があったイスラエルのナザレ近郊にて、1世紀頃のものと推定される、羊皮紙で厳重に封をされた〈乳歯〉が発掘されたところから物語は始まります。

しかもその乳歯には原生人類とは違ったDNAが付着していたと🧬


これこそ神の子イエス・キリストが実在した証と色めき立つ宗教界😅

活動が活発化する右派宗教、あるいは強引な勧誘を繰り返すカルト教団。


一方で主人公 日報新聞社に勤務する小田切秀樹の元に大学時代の親友 沼修治の訃報が飛び込んできます。

在野の考古学者だった沼は前述の青ヶ島で何と源為朝の鬼退治の調査をしていたのですが、何とそこに沼・小田切共通の恩師である秦野統一郎が加わり、何か秘密の調査をしていたと……。



イエス・キリストの聖骸物に、絶海の島で密かに守られてきた民俗的な祀りと来ると、伝奇的な展開を期待してしまいそうですが、そこは松本清張以来の社会派ミステリーの系譜。

淡々と手堅く(しかし好奇な目線を逸らすことなく)ストーリーは収斂していきます。


旅情もたっぷり(お色気も少し)楽しんだ後は、やはり岸壁での犯人の告白ですよね。お約束通りに「仕方なかったのよー😭」と叫ぶかどうかは読んでのお楽しみです。








本・書籍ランキング